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第2章
15話
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フィリップス公爵家主催の舞踏会は、豪華絢爛なモノだった。
とても借金で首が回らない家が主催しているとは思えなかった。
多くの招待客が、表面上は笑顔で楽しんでいた。
だが内心は、いつフィリップス公爵家が借金で破綻するかと、面白がっていた。
そんな中でアリスだけが、不安と緊張の中で過ごしていた。
父親は一緒にいるのだが、オドオドと周囲をうかがうだけで、何の頼りにも出来なかった
会場にはヴラド大公閣下もおられるのだが、格下の者から話しかけるのはマナー違反だった。
ヴラド大公閣下から話しかけてくれないかと、近くに行ったのだが、フィリップス公爵家の者がヴラド大公閣下の周囲を取り囲んでいて、視線に入る事も出来なかった。
嫌な視線を感じて振り返ると、テカテカと脂ぎった顔に滝のように汗をかいた、でっぷりと太った豚のような男がこちらを見ている。
一瞬で分かった。
あの豚男がフィリップス公爵だと言う事が。
逃げ出したかった。
だが一旦視線が合った以上、格下のこちらから逃げ出す訳にはいかない。
こちらから話しかける事も出来ないが、露骨に避ける事も出来ない。
何事もなく、向こうが離れていってくれればいいのだが、それは無可能だった。
フィリップス公爵の視線は、獲物を見るような欲望に満ちていた。
アリスは父親の顔を見たが、視線を避けて震えている。
父親が頼りにならないと覚悟を決めたアリスは、自分一人でフィリップス公爵に対峙する覚悟を決めた。
「これはこれはスミス伯爵。
今日はよく来てくれた。
楽しんでくれているかい」
「……はい。
ありがとうございます」
「隣におられるのはお嬢さんかな。
確かお名前はアリス殿だったな」
「……はい。
その通りでございます」
「アリスと申します。
以後お見知りおき願います」
「そうか、そうか。
そなたが噂のアリス殿か。
婚約の事、残念であったな。
我も話を聞いて心配しておったのだ」
「御心配して頂きありがとうございます。
縁がなかったものと納得しております」
「それで、新たな縁談話は来ておるのかな」
「はい。
有難い事に、多くのお家からお話を頂いております」
「そうか。
それはよかった。
だが気を付けられよ。
婚約破棄の示談金目当ての屑を選んでは、家を目茶苦茶にされてしまう。
ここは我に任せないか」
「有難い御言葉ではございますが、今はまだそのような気になれず、家で花作りに励んでいる所でございます」
「それはいかんな。
なあ、スミス伯爵。
このままではいたずらに時間だけが過ぎ、歳を重ねてしまう。
ここは我がいい相手を探して差し上げよう」
フィリップス公爵は作戦を変えた。
最初は女のアリスを言いくるめようとしたのだが、思いの外しっかりしていた。
このままアリスと話すより、明らかに気が弱く委縮しているスミス伯爵に縁談を押し付けた方が、簡単だと判断した。
多くの格下の者相手に借金を踏み倒してきたフィリップス公爵だ。
面の皮の厚さは尋常ではなかった。
とても借金で首が回らない家が主催しているとは思えなかった。
多くの招待客が、表面上は笑顔で楽しんでいた。
だが内心は、いつフィリップス公爵家が借金で破綻するかと、面白がっていた。
そんな中でアリスだけが、不安と緊張の中で過ごしていた。
父親は一緒にいるのだが、オドオドと周囲をうかがうだけで、何の頼りにも出来なかった
会場にはヴラド大公閣下もおられるのだが、格下の者から話しかけるのはマナー違反だった。
ヴラド大公閣下から話しかけてくれないかと、近くに行ったのだが、フィリップス公爵家の者がヴラド大公閣下の周囲を取り囲んでいて、視線に入る事も出来なかった。
嫌な視線を感じて振り返ると、テカテカと脂ぎった顔に滝のように汗をかいた、でっぷりと太った豚のような男がこちらを見ている。
一瞬で分かった。
あの豚男がフィリップス公爵だと言う事が。
逃げ出したかった。
だが一旦視線が合った以上、格下のこちらから逃げ出す訳にはいかない。
こちらから話しかける事も出来ないが、露骨に避ける事も出来ない。
何事もなく、向こうが離れていってくれればいいのだが、それは無可能だった。
フィリップス公爵の視線は、獲物を見るような欲望に満ちていた。
アリスは父親の顔を見たが、視線を避けて震えている。
父親が頼りにならないと覚悟を決めたアリスは、自分一人でフィリップス公爵に対峙する覚悟を決めた。
「これはこれはスミス伯爵。
今日はよく来てくれた。
楽しんでくれているかい」
「……はい。
ありがとうございます」
「隣におられるのはお嬢さんかな。
確かお名前はアリス殿だったな」
「……はい。
その通りでございます」
「アリスと申します。
以後お見知りおき願います」
「そうか、そうか。
そなたが噂のアリス殿か。
婚約の事、残念であったな。
我も話を聞いて心配しておったのだ」
「御心配して頂きありがとうございます。
縁がなかったものと納得しております」
「それで、新たな縁談話は来ておるのかな」
「はい。
有難い事に、多くのお家からお話を頂いております」
「そうか。
それはよかった。
だが気を付けられよ。
婚約破棄の示談金目当ての屑を選んでは、家を目茶苦茶にされてしまう。
ここは我に任せないか」
「有難い御言葉ではございますが、今はまだそのような気になれず、家で花作りに励んでいる所でございます」
「それはいかんな。
なあ、スミス伯爵。
このままではいたずらに時間だけが過ぎ、歳を重ねてしまう。
ここは我がいい相手を探して差し上げよう」
フィリップス公爵は作戦を変えた。
最初は女のアリスを言いくるめようとしたのだが、思いの外しっかりしていた。
このままアリスと話すより、明らかに気が弱く委縮しているスミス伯爵に縁談を押し付けた方が、簡単だと判断した。
多くの格下の者相手に借金を踏み倒してきたフィリップス公爵だ。
面の皮の厚さは尋常ではなかった。
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