21 / 29
第2章
20話
しおりを挟む
アリスは複雑な心境だった。
カイが戻って来てくれるのは嬉しい。
涙が出るほど嬉しい。
でもその条件が、婿を取り子を産む事なのは哀しい。
胸が張り裂けそうになるくらい哀しい。
父上様に多くの妾をあてがうのなら、何も自分が婿を取らなくてもいいのにと、心底思ってしまうのだ。
だが爺や大公殿下が言うように、父に子を作る力がない可能性も高い。
そこ事は、娘である私が一番分かっているかもしれない。
母上様が亡くなってからの父上様は、生きる屍なのだから。
でも、少しは期待してもいいと思ってしまった。
時間稼ぎくらいは、許されると思ってしまった。
だから我儘を言う事にした。
ローガン様を婿に迎えるにあたり、色々と条件を付ける事にした。
でもそんなに非常識な事ではない。
公爵家から伯爵家に婿を迎えるのだから、その格式に相応しい決婚式の会場を用意して欲しいとか、披露宴会場を確保して欲しいとか、正当な要求だ。
二つの式で使う衣装も、格式に応じた正式な衣装を用意してもらう事にした。
今迄は貧乏で格式に応じたことが出来なかったが、莫大な賠償金が手に入った今は、貧相な会場や衣装では許されない。
裕福な貴族が御金を使わなければ、下々にまで御金が回らないのだ。
没落しそうな貴族は仕方がないが、裕福な貴族には文化を担う責任があるのだ。
アリスは華美な衣装が苦手だが、やらねばならない責任がある事を理解しており、高価で清楚な衣装を用意し、服飾文化に貢献する心算でいた。
いや、その準備を名目に、婿入りの時間を少しでも遅らせようとした。
レオやヴラド大公には、アリスの思惑など明々白々だった。
それくらいの小細工は、笑って許せる範囲だった。
そもそも二人には、ローガンを婿入りさせる気などなかったのだ。
月乙女に下劣な欲望を抱いた豚男を、徹底的に潰す心算だったのだ。
「どうなっているのだ、ヴラド」
「必死で金策に走り回っているよ。
借りれる所から借り切ったのではないかな。
昨日確かめたが、国王からも金を借りたらしい」
「よく国王が金を貸したな。
フィリップス公爵家が借金で首が回らないのを知らないのか?」
「知っているさ。
苦々しく思うくらい知っているさ。
何度も商人から訴訟されているからな。
だが今回は、確実に回収出来ると踏んだのだろうな」
「何故だ。
商人の借財は全く返済していないのだろう。
貴族士族からも苦情が上がっているのだろう。
家が婿に迎えると言っても、援助するとは限らんぞ」
「国王は、ローガンの婿入りを機に、スミス伯爵家の爵位を侯爵に陞爵する。
その代わりに、フィリップス公爵家の借財を肩代わりさせる心算なのさ。
末流とは言え、スミス伯爵家に王家の血が入るからな。
全く可能性のない継承権だが、王位継承権も手に入る。
それに余が仲人を務めるからな。
何かあったら、余に尻拭いさせる心算だろう」
「ひどい話だな」
カイが戻って来てくれるのは嬉しい。
涙が出るほど嬉しい。
でもその条件が、婿を取り子を産む事なのは哀しい。
胸が張り裂けそうになるくらい哀しい。
父上様に多くの妾をあてがうのなら、何も自分が婿を取らなくてもいいのにと、心底思ってしまうのだ。
だが爺や大公殿下が言うように、父に子を作る力がない可能性も高い。
そこ事は、娘である私が一番分かっているかもしれない。
母上様が亡くなってからの父上様は、生きる屍なのだから。
でも、少しは期待してもいいと思ってしまった。
時間稼ぎくらいは、許されると思ってしまった。
だから我儘を言う事にした。
ローガン様を婿に迎えるにあたり、色々と条件を付ける事にした。
でもそんなに非常識な事ではない。
公爵家から伯爵家に婿を迎えるのだから、その格式に相応しい決婚式の会場を用意して欲しいとか、披露宴会場を確保して欲しいとか、正当な要求だ。
二つの式で使う衣装も、格式に応じた正式な衣装を用意してもらう事にした。
今迄は貧乏で格式に応じたことが出来なかったが、莫大な賠償金が手に入った今は、貧相な会場や衣装では許されない。
裕福な貴族が御金を使わなければ、下々にまで御金が回らないのだ。
没落しそうな貴族は仕方がないが、裕福な貴族には文化を担う責任があるのだ。
アリスは華美な衣装が苦手だが、やらねばならない責任がある事を理解しており、高価で清楚な衣装を用意し、服飾文化に貢献する心算でいた。
いや、その準備を名目に、婿入りの時間を少しでも遅らせようとした。
レオやヴラド大公には、アリスの思惑など明々白々だった。
それくらいの小細工は、笑って許せる範囲だった。
そもそも二人には、ローガンを婿入りさせる気などなかったのだ。
月乙女に下劣な欲望を抱いた豚男を、徹底的に潰す心算だったのだ。
「どうなっているのだ、ヴラド」
「必死で金策に走り回っているよ。
借りれる所から借り切ったのではないかな。
昨日確かめたが、国王からも金を借りたらしい」
「よく国王が金を貸したな。
フィリップス公爵家が借金で首が回らないのを知らないのか?」
「知っているさ。
苦々しく思うくらい知っているさ。
何度も商人から訴訟されているからな。
だが今回は、確実に回収出来ると踏んだのだろうな」
「何故だ。
商人の借財は全く返済していないのだろう。
貴族士族からも苦情が上がっているのだろう。
家が婿に迎えると言っても、援助するとは限らんぞ」
「国王は、ローガンの婿入りを機に、スミス伯爵家の爵位を侯爵に陞爵する。
その代わりに、フィリップス公爵家の借財を肩代わりさせる心算なのさ。
末流とは言え、スミス伯爵家に王家の血が入るからな。
全く可能性のない継承権だが、王位継承権も手に入る。
それに余が仲人を務めるからな。
何かあったら、余に尻拭いさせる心算だろう」
「ひどい話だな」
2
あなたにおすすめの小説
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
【短編】婚約破棄の断罪裁判を開いた王太子、証言で全て自分の首を絞める
あまぞらりゅう
恋愛
エドゥアルト王太子から「婚約破棄だ!」と断罪されるシャルロッテ侯爵令嬢。
彼は彼女の『悪行』を暴くため、証人を次々と呼び出す。
しかし、証言されるのは、全て『彼女が正しかった証拠』ばかり。
断罪裁判はいつしか、王太子自身の罪を暴く場へと変わっていき……?
※覚えやすさや分かりやすさを重視しているので、登場人物の名前は「キャラクター名+身分表記」にしています
★他サイト様にも投稿しています!
【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです
早奈恵
恋愛
ざまぁも有ります。
クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。
理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。
詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。
二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。
悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~
糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」
「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」
第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。
皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する!
規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)
婚約破棄される前に、帰らせていただきます!
パリパリかぷちーの
恋愛
ある日、マリス王国の侯爵令嬢クロナは、王子が男爵令嬢リリィと密会し、自分を「可愛げのない女」と罵り、卒業パーティーで「婚約破棄」を言い渡そうと画策している現場を目撃してしまう。
普通なら嘆き悲しむ場面だが、クロナの反応は違った。
見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます
珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。
そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。
そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。
ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
未来の記憶を手に入れて~婚約破棄された瞬間に未来を知った私は、受け入れて逃げ出したのだが~
キョウキョウ
恋愛
リムピンゼル公爵家の令嬢であるコルネリアはある日突然、ヘルベルト王子から婚約を破棄すると告げられた。
その瞬間にコルネリアは、処刑されてしまった数々の未来を見る。
絶対に死にたくないと思った彼女は、婚約破棄を快く受け入れた。
今後は彼らに目をつけられないよう、田舎に引きこもって地味に暮らすことを決意する。
それなのに、王子の周りに居た人達が次々と私に求婚してきた!?
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる