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第2章

19話

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 アリスは哀しかった。
 父上様が頼りないのは昔からだったが、爺まで頼りにならなくなった。
 いや、爺が悪い訳ではない。
 自分の我儘だと分かっていた。
 伯爵家の嫡女にあるまじき考えだと分かっていた。

 どれほど愛していようと、家臣を恋するなど、あってはいけない事だ。
 いや、愛人にするのならよくある話だ。
 家同士の政略結婚を届懲りなく果たし、子供をちゃんと産みさえすれば、女が愛人を作っても許される。
 もっとも愛人の子を産む事だけは許されないが。

 だがアリスは、もう政略結婚だと割り切れなかった。
 一度は諦めて政略結婚を受け入れた。
 だが、そこから救い出されてからは、欲が出てしまった。
 傷のついた自分なら、家臣と結婚して子を産んでも許されるのではないかと、そう思ってしまったのだ。

 だが許されなかった。
 ヴラド大公殿下が手に入れてくださった莫大な財産が仇となった。
 考えてもいなかった、大量の貴族から結婚の申し込みが来てしまった。
 この状態で家臣と結婚など許されない。
 逆恨みになってしまうが、ヴラド大公殿下を恨みたい気分だった。

 気分が落ち込んでいるせいか、どれほど手入れしても花が咲かなくなってしまった。
 昔からそうだった。
 気分が落ち込んでいる時は、花が咲いてくれないのだ。
 ヴラド大公殿下を恨む気持ちが悪いかもしれないと思った。
 恩を仇で返すなど人の道に反すると反省し、心を込めて世話をしたが、それでも花は咲かなかった。

「御嬢様。
 御嬢様が婿を取り、子を産むと約束してくださるのでしたら、カイを伯爵家に戻す事にします」

「本当?
 本当なのね、爺!」

「爺が約束を破ったことがありますか?」

「ないわ。
 爺は何時だって約束を守ってくれた。
 私を事を気にかけてくれた。
 ずっと私を守ってくれた。
 だからカイも必ず戻って来るのね!」

「はい。
 ですがそれは、御嬢様が約束してくださればの話です」

「約束するわ。
 本当は分かっていたの。
 婿を取らなければいけないことは、一度は納得した事だもの。
 御金の為に自分を売るようで嫌だったけれど、あの時に諦めたわ。
 先のジョージ殿も、今回のローガン様も、そう変わりはないものね」

「はい。
 どちらも下種である事に変わりはございません。
 ですが今回は、ヴラド大公殿下の支援がございます。
 ローガン様の好きにはさせません。
 カイの他にも、大公家から信頼出来る者を送って頂くことになりました」

「本当?!
 では、父上様の御世話をして下さる侍女も送って下さるの?」

「はい。
 以前御嬢様と御話しした事を、大公殿下に御相談致しました。
 その道に優れた侍女から清純可憐な侍女まで、多くの者を送って下さるそうでございます」

「では、私が婿を迎えなくてもいいのではないの?」

「大公殿下が御助力してくださっても、成功するとは限りません。
 全ては御主人様次第でございます。
 それに大公殿下が御助力してくださったのも、御嬢様が婿を迎える約束をして下さったからです」
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