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第1章
第11話:アイテムボックス
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僕が思っていた以上に長い時間をかけて、フィンリー神官と行商隊の代表は値段を交渉していました。
薬草を全部まとめて値段を決めるのではなく、1つずつしっかりと値段を決めていました。
後で聞いた話ですが、それは村で買う塩と鉄器も同じでした。
同じ鉄器、鍬や鋤でも1つずつ値段を交渉したそうです。
1個1個の出来が違うので、そうしなければ質の悪い鉄器をつかまされる事があるそうです。
ただ、村に何時も来てくれる行商人さんは、比較的正直な人たちだそうです。
神様から商売のスキルを神与されているので、最低限のルールやマナーを守るそうなのですが、中には悪い人もいるので、油断してはいけないそうです。
「ケーン、よく覚えておくんだぞ。
商売のスキルを持っている者達は、嘘をつく事もある。
こちらを殺してしまうような商売はしないが、大きく儲ける機会は逃さない。
あの酒を見ろ、最初は買わないと言っていたが、たくさん買ったろ」
「うん、フィンリー神官が安い値段では売らないと言っていたのに、高い値段でもあるだけ買っていったね」
「あれはな、アイテムボックスという神与のスキルがあるからだ。
とても珍しいスキルだが、これだけ沢山いるから、持っている者がいるのだろう」
「アイテムボックス?」
「自分の身体のどこかに、大きな入れ物があると思えばいい。
私たちの前では牛の背に乗せているが、見えない所まで行ったら移し替える」
「あんなに沢山の酒甕を全部入れられるの?」
「ああ、酒は暑い所に持って行くと直ぐに悪くなってしまう。
家でも陽の当たらない涼しい場所に置いているだろう?」
「うん、床を掘った所に置いてあるね」
「酒に陽の光に当てて熱を持たせるなんて、絶対にやってはいけない。
それなのに牛の背に乗せるなんて、商人なら絶対にやらない事だ」
「そうか、それをやると言う事は、全部移し替えられるんだ。
でも、この話、お父さんだけが知っているの?」
「いいや、ほとんどの人間が知っているぞ。
酒を造っていない村や街なんてないからな」
「だったら、僕たちにバレるのは分かっているよね?
なのに何故こんなに買って行くの?」
「この村は他の村から遠く離れているから、噂が伝わり難いと思っている。
それと、長年の信用だ、家が話さないと信じているんだ」
「信じているのに本当の事を言わずに嘘をつき続けるの?」
「誰かに、そうだな、王様や貴族に命じられても、本当の事を聞いていなければ、知らないと言い続けられるからな」
「本当は知っているのに、聞いていないと言い続けるの?」
「ああ、そうだ、言い続けるんだ」
「僕にはよく分からないよ」
「それでいい、こんな事は分からない方が良い。
ケーンがずっとこの村で暮らすなら、一生言わなくてすむだろう」
「……うん」
僕は、お父さんに、世界中を旅したいと言えませんでした。
お父さんは僕を大切に思ってくれています。
だからこそ、一生この村を出るなと言っているのでしょう。
「ケーン、リンゴを実らせてちょうだい」
行商隊が村から出て行くと、お母さんが言いました。
数日分を残して、村にあるお酒を全部売ってしまったからです。
いえ、これは大袈裟ですね、全部ではありません。
お父さんたちが好きなエールはほとんど売れませんでした。
売れたのは酒精が強くて甘い果物で造ったお酒です。
お母さんたちや子供たちが好きなお酒が沢山売れてしまったのです。
急いで造らないと、不味い水を飲まないといけません。
誰だって不味い水なんて飲みたくありません。
特にここ最近は、甘く美味しいフルーツワインだけを飲んでいたのですから。
「は~い、直ぐに実らせるよ」
僕はお母さんたちが待つ林檎の木の前に行きました。
みんなリンゴが実るのを待ちかねています。
リンゴ酒、シードルにする分が多いですが、生で食べる分もパイにして食べる分も必要です。
僕は酸っぱさの残ったアップルパイが好きですが、お母さんは甘過ぎるくらい甘いパイの方が好きです。
だから僕は、自分の甘いパイを他の家のパイと交換してもらいます。
ほとんどの家が甘いパイの方が好きなのですが、中には酸っぱさの残ったパイの方が好きな家もあるのです。
そのために僕は1枝だけ酸っぱいリンゴを実らせています。
多くの人が甘いリンゴを望むので、自分の為だけに酸っぱいリンゴを実らせられないのです。
そこで考えたのが、リンゴの木に流す魔力の量を枝ごとに変えて、完全に熟させる枝と未熟な枝に分ける事でした。
最初は上手く枝毎に分けられませんでしたが、今では完璧に分けられます。
とはいえ、酸っぱさの残るリンゴを欲しがる家は少ないです。
「さあ、大人は急いでリンゴを潰すよ。
特に男衆、自分が飲まないからって手を抜くんじゃないよ。
手を抜いたら晩飯抜きだからね!」
お母さんに言われて、お父さんたちが急いでシードル造りを始めます。
女たちの半数はリンゴパイを焼く方に回ります。
神与のスキルをもらう前の子供たちは、取ったばかりのリンゴを食べています。
「ケーンはそこで休んでいなさい。
行商人との交渉を見学するなんて、普段はしない事をした後でスキルを使ったから、何時もよりも疲れているでしょう?」
「うん、休ませてもらうよ」
魔力的には全然疲れていないけれど、行商人との交渉を見ているのには疲れた。
僕があんな事をしなければいけないと思うと、正直嫌になる。
薬草を全部まとめて値段を決めるのではなく、1つずつしっかりと値段を決めていました。
後で聞いた話ですが、それは村で買う塩と鉄器も同じでした。
同じ鉄器、鍬や鋤でも1つずつ値段を交渉したそうです。
1個1個の出来が違うので、そうしなければ質の悪い鉄器をつかまされる事があるそうです。
ただ、村に何時も来てくれる行商人さんは、比較的正直な人たちだそうです。
神様から商売のスキルを神与されているので、最低限のルールやマナーを守るそうなのですが、中には悪い人もいるので、油断してはいけないそうです。
「ケーン、よく覚えておくんだぞ。
商売のスキルを持っている者達は、嘘をつく事もある。
こちらを殺してしまうような商売はしないが、大きく儲ける機会は逃さない。
あの酒を見ろ、最初は買わないと言っていたが、たくさん買ったろ」
「うん、フィンリー神官が安い値段では売らないと言っていたのに、高い値段でもあるだけ買っていったね」
「あれはな、アイテムボックスという神与のスキルがあるからだ。
とても珍しいスキルだが、これだけ沢山いるから、持っている者がいるのだろう」
「アイテムボックス?」
「自分の身体のどこかに、大きな入れ物があると思えばいい。
私たちの前では牛の背に乗せているが、見えない所まで行ったら移し替える」
「あんなに沢山の酒甕を全部入れられるの?」
「ああ、酒は暑い所に持って行くと直ぐに悪くなってしまう。
家でも陽の当たらない涼しい場所に置いているだろう?」
「うん、床を掘った所に置いてあるね」
「酒に陽の光に当てて熱を持たせるなんて、絶対にやってはいけない。
それなのに牛の背に乗せるなんて、商人なら絶対にやらない事だ」
「そうか、それをやると言う事は、全部移し替えられるんだ。
でも、この話、お父さんだけが知っているの?」
「いいや、ほとんどの人間が知っているぞ。
酒を造っていない村や街なんてないからな」
「だったら、僕たちにバレるのは分かっているよね?
なのに何故こんなに買って行くの?」
「この村は他の村から遠く離れているから、噂が伝わり難いと思っている。
それと、長年の信用だ、家が話さないと信じているんだ」
「信じているのに本当の事を言わずに嘘をつき続けるの?」
「誰かに、そうだな、王様や貴族に命じられても、本当の事を聞いていなければ、知らないと言い続けられるからな」
「本当は知っているのに、聞いていないと言い続けるの?」
「ああ、そうだ、言い続けるんだ」
「僕にはよく分からないよ」
「それでいい、こんな事は分からない方が良い。
ケーンがずっとこの村で暮らすなら、一生言わなくてすむだろう」
「……うん」
僕は、お父さんに、世界中を旅したいと言えませんでした。
お父さんは僕を大切に思ってくれています。
だからこそ、一生この村を出るなと言っているのでしょう。
「ケーン、リンゴを実らせてちょうだい」
行商隊が村から出て行くと、お母さんが言いました。
数日分を残して、村にあるお酒を全部売ってしまったからです。
いえ、これは大袈裟ですね、全部ではありません。
お父さんたちが好きなエールはほとんど売れませんでした。
売れたのは酒精が強くて甘い果物で造ったお酒です。
お母さんたちや子供たちが好きなお酒が沢山売れてしまったのです。
急いで造らないと、不味い水を飲まないといけません。
誰だって不味い水なんて飲みたくありません。
特にここ最近は、甘く美味しいフルーツワインだけを飲んでいたのですから。
「は~い、直ぐに実らせるよ」
僕はお母さんたちが待つ林檎の木の前に行きました。
みんなリンゴが実るのを待ちかねています。
リンゴ酒、シードルにする分が多いですが、生で食べる分もパイにして食べる分も必要です。
僕は酸っぱさの残ったアップルパイが好きですが、お母さんは甘過ぎるくらい甘いパイの方が好きです。
だから僕は、自分の甘いパイを他の家のパイと交換してもらいます。
ほとんどの家が甘いパイの方が好きなのですが、中には酸っぱさの残ったパイの方が好きな家もあるのです。
そのために僕は1枝だけ酸っぱいリンゴを実らせています。
多くの人が甘いリンゴを望むので、自分の為だけに酸っぱいリンゴを実らせられないのです。
そこで考えたのが、リンゴの木に流す魔力の量を枝ごとに変えて、完全に熟させる枝と未熟な枝に分ける事でした。
最初は上手く枝毎に分けられませんでしたが、今では完璧に分けられます。
とはいえ、酸っぱさの残るリンゴを欲しがる家は少ないです。
「さあ、大人は急いでリンゴを潰すよ。
特に男衆、自分が飲まないからって手を抜くんじゃないよ。
手を抜いたら晩飯抜きだからね!」
お母さんに言われて、お父さんたちが急いでシードル造りを始めます。
女たちの半数はリンゴパイを焼く方に回ります。
神与のスキルをもらう前の子供たちは、取ったばかりのリンゴを食べています。
「ケーンはそこで休んでいなさい。
行商人との交渉を見学するなんて、普段はしない事をした後でスキルを使ったから、何時もよりも疲れているでしょう?」
「うん、休ませてもらうよ」
魔力的には全然疲れていないけれど、行商人との交渉を見ているのには疲れた。
僕があんな事をしなければいけないと思うと、正直嫌になる。
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