持参金が用意できない貧乏士族令嬢は、幼馴染に婚約解消を申し込み、家族のために冒険者になる。

第二章貴族偏

暴竜狩り

「今日も頼むぞ、ラナ嬢」

「分かりました」

　今日も私が指名されました。
　面倒です。
　手加減しなくていいと、ヨジップ第三皇子から言質をとっています。
　側近達や護衛達も黙認しています。
　ですが、その視線は厳しいです。
　わずかでも厳し過ぎたら、断罪してやると雄弁に言っています。

　まあ、努力は買います。
「もっと厳しくしろ。
　避けるだけでなく、ケガしない程度に攻撃しろ。
　それくらいの加減はできるだろう」
　と口にしてから十日でこれほど強くなるなんて、信じられない速さです。

　特に亜竜種の討伐数が劇的に多いです。
　安全優先で亜竜種を狩っていた頃の私達前衛職よりも、多い数の亜竜種を狩っているのです。
　皇室皇国の収入ではなく、自分の強化のために私達を利用されています。
　そんなに急いで強くなってどうするつもりなのでしょう？
　皇位継承争いの内乱なんて、絶対に嫌です。

「よし、準備運動はこれくらいでいい。
　今日は暴竜を狩るぞ。
　暴竜が見つからないなら、禽竜と鉤竜の群れを誘導してくれ」

　ヨジップ第三皇子は貪欲です。
　この三日間で禽竜が狩れるようになったのですが、もう亜竜種最強の暴竜を狩るというのです。
　暴竜が狩れれば、身体強化も早く進むでしょう。
　ですが、護衛を務め、暴竜を誘導するこちらは大変です。
　ヨジップ第三皇子に危険が及ばないように段取りして、止めまで刺せるようにするのですから。

「ドウラ、ラナ、マルティン、イヴァン、ダニエル。
　暴竜を探して連れてこい。
　暴竜がいなければ、他の肉食亜竜種を誘い出せ。
　ただし、場合によったら単独で狩ってもらうからな。
　その覚悟で誘い出すんだ」

　ジョージ様の指示が激烈ですね。
　ヨジップ第三皇子に対しても厳しいモノになります。
　戦死を厭わずついてきている、側近達や護衛達の顔が引きつっています。
　彼らに肉食亜竜種の相手など不可能ですから、何かあれば盾になって喰われるしかありません。

　ジョージ様も、ヨジップ第三皇子の
「暴竜だって一人で狩る」
　発言が気に障ったのでしょうか？
　本気でヨジップ第三皇子が、暴竜を一人で狩れると思っているのでしょうか？
　それとも私達に、暴竜ではなく、適当な肉食亜竜を誘い出せと、言っているのでしょうか？

　まあいいです。
　難しく考えるのは止めです。
　私は武を優先する前衛職です。
　自分が責任をとって単独で狩れる肉食亜竜種を誘い出せばいいのです。
　暴竜がいれば暴竜を誘い出し、暴竜がいないなら、それに準じる棘竜や塔布竜を誘い出し、それもいなければ瑪格竜や霸王竜を誘い出せばいいのです。

　普段狩らない肉食亜竜を狩れば、新しい素材になります。
　思わぬ効果のある亜竜種薬が開発できるかもしれません。
　ヨジップ第三皇子の事は頭からなくして、珍しい素材を集めると考えるのです！