四代目 豊臣秀勝

克全

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第二章

徳川家康出陣

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「愚か者が」
「どうなさいますか」
「援軍を出す」
「甲斐と信濃は諦められるのですか」
「武田の遺臣と信濃衆に任せる」
「北条や上杉が、好き勝手に切り取るのではありませんか」
「そんな事は分かっている。だがここで戻らねば、三河に筑前が攻め込んでくる」
「左様でございましょうね」
「分かっているなら、いちいち聞くな」
 徳川家康は、織田信雄の余りの愚かさに激怒していた。
 だが今更後には引けなかった。
 もし信雄が生け捕りにされたら、それこそ伊賀者を使った工作が知られてしまう。
 それよりは、信雄の救援要請を受けた形で尾張に入る方がいい。
 そう考えた家康は、泣く泣く甲斐から主力軍を引き上げ、三河に向けて軍を進めた。
 だがその知らせは、家康が決断し、家臣共に知らせた途端、与一郎と秀吉の元に知らせが走った。
 与一郎配下の羽柴忍軍に、家康配下の伊賀者から情報が流されたのだ。
 昔から忍びの者同士には、情報の貸し借りがあった。
 武士や商人とは違った価値観で生きている彼ら忍びは、余程の事がない限り忍同士で殺し合うことはない。
 重要な情報も、互いに融通しあっていた。
 譜代の忍や常雇いの忍びが、主家の滅亡に係わる情報を扱う場合は別だが、通常の一時雇いの忍びなら、得た情報を等価の情報で融通するのはよくある事だった。
 今回の交換条件は、徳川滅亡後の木下家譜代扱いだった。
 僅か十石二十石であろうと、流れの忍が木下家で領地を賜れるのだ。
 単なる口約束でない事は、多くの伊賀下忍が因幡に領地を賜った事で証明されている。
 忍から情報を得た与一郎は、尾張衆に新たな使者を送った。
「三介様が、織田家の上野、甲斐、信濃を徳川家康に売り渡し、助力を得て織田家を我が物にしようとしている。成敗したい所ではあるが、三法師様と御次公の御指示なしに、勝手に誅することは出来ない。御苦労を御掛けするが、御次公が参られるまで、忍び難きを忍んで欲しい」
 この手紙を受けた尾張衆は、与一郎の配慮に深く感謝した。
 信雄を見限りはしたが、刃を向けるのは少し心苦しい。
 戦国の習いだから、生き残るためなら首を取る事も躊躇わないが、やりたいかと言われればやりたくない。
 それに三法師様と御次公が、信雄を殺したことを理由に所領を没収するかもしれない。
 尾張を私するために、秀吉が難癖をつける可能性があるのだ。
 信雄に味方するのも、与一郎に味方するのも危険なのだ。
 まして徳川家康が尾張に攻め込んでくると言うのだ。
 生き残るためには、家康の言う通りにしなければいけない場合も出てくる。
 だが与一郎の手紙があれば、大手を振って信雄の元にも家康の元にも下れるのだ。
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