仇討浪人と座頭梅一

克全

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第三章

第五十九話:池原雲伯対立石新次郎

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「立石様、これをご覧ください」

 池原雲伯は以前とは比べものにならないくらい堂々とした態度だった。
 虎の威を借る狐ではないが、全て用心棒のお陰だった。
 池原雲伯は心から信用できる凄腕用心棒を雇うことができていた。
 口入屋が日給三両もの大金を吹っかけるだけあって、用心棒候補達の試合では圧巻の強さだった。
 他にも実戦慣れした屈強な博徒と火消人足が身を守ってくれている。
 そんな用心棒たちを、一橋家と強気の交渉をして同席させているのだ。

「ふん、このような物をお上に提出する度胸が池原殿にあるのかな」

 池原雲伯が一世一代の思いで書きた告発状を立石新次郎は鼻で笑った。

「立石様の申される通り、わたくしにこれを提出する度胸はありませんよ。
 ですが私を殺せば、これが御上に提出される手はずになっております。
 それも一人や二人ではなく、十人もの方に頼んであります。
 いくら一橋家でも、その全てを奪いもみ消す事などできますまい。
 もうこれで簡単に私を殺す事などできませんよ」

「馬鹿の割には考えたな」

「ふん、馬鹿は一橋家でしょうね。
 こんな馬鹿なわたくしめに、十万石の浮沈を握らせたのですからね。
 それではこれから本番の交渉をさせていただきましょうか」

「ほう、臆病者の池原殿にしては強気な事だな」

「ふん、命がかかっていますからね。
 ここで震えているわけにはいきませんよ。
 わたくしの今回の条件は、新たに開帳する賭場と売春宿の安全です。
 水谷殿が仕切られていた賭場と売春宿をわたくしが引き継ぎます。
 一橋家は町奉行所と目付に手をまわしてお目こぼしさせてください」

 立石新次郎は心底池原雲伯を馬鹿にした表情を浮かべた。

「池原殿は何も御存じないのかな。
 寺社で賭場と私娼買いが露見した事で、幕府が本気で賭場と私娼を取り締まっているのだぞ」

「そのような事、お仲間の御老中に頼めばいい事でしょう」

「池原殿は大きな勘違いをしているようだな。
 池原殿と水谷殿が独断で行った事に、殿も御老中も一切係わりがないのだ。
 だから殿や御老中の手を借りる事などできぬ」

「そのような嘘が通用すると思っているのですか、立石殿。
 それに家老の水谷殿が行った事を、知らぬ存ぜぬを通せると思っているのですか」

「何と言われようとも、この件に殿は係わっておられない。
 だが、家老が独断でやった事であろうと、殿も責任が問われてしまう。
 だからこうして私が交渉しているのではないか。
 だが、それでも、やれる事とやれない事がある。
 この度の取り締まりをお目こぼしする事は絶対にできない」

 池原雲伯の用心棒五人は眉一つ動かさずに二人の交渉を見聞きしていた。
 御府内に流れた噂で、二人の話しが何を意味しているのかは想像がついた。
 だがそれを元に二人を脅かそうとするほど五人は馬鹿ではない。
 それに、彼らには最初から直接この件に介入する気はなかった。
 五人全員が梅一と同じ盗賊団の仲間だったからだ。
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