仇討浪人と座頭梅一

克全

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第三章

第六十二話:山くぐり衆

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 夜遅く、本来なら多くの人が寝静まっている時間。
 池原雲伯の屋敷を多くの者が取り囲んでいた。
 彼らは山くぐり衆とも呼ばれる薩摩藩の忍者だった。
 普段は薩摩藩士として役目に従事しているが、安産、男子誕生、参勤交代の無事、病気平癒の加持祈祷を依頼されれば、山伏となる者たちだ。

 彼らは戦国の世から薩摩藩島津家に仕え、金峰山蔵王権現で修業を行い、紀州根来寺との関係も維持して、金峯山修験道の山伏という名目で自由に諸国を探っていた。
 そんな彼らが今回総動員されていた。
 それでも江戸近郊にいた山くぐり衆は限られていたので、開聞社中、霧島社中、新田社中、紫尾社中、冠社中といった社中を無視して助け合うことになっていた。
 彼らの目的はただ一つ、急いで告発状と依頼書を奪う事だった。

 これまでの間に何度も話し合いがもたれた。
 池原雲伯を殺すのか殺さないのか。
 殺すのなら依頼書と告白状のありかを探り出して奪ってから殺すべきか。
 それともまずは口を封じて、その後で依頼書と告白状を全て奪うのか。
 それこそ生き残りをかけての話し合いが行われた。

 大半の意見は慎重論だった。
 山くぐり衆が変装して賭場の常連客となり、池原雲伯の癖や思考を確かめ、隠し場所と信用している相手を探り出し、一斉に告白状を奪ってから殺す。
 そう結論が出そうになった時、主君島津重豪が強硬策を命じてきたのだ。
 島津重豪に我慢という言葉などなかった。
 自分の思うまま、やりたいように振舞うのが島津重豪の性分だった。

 主君が決めて命じてきたことに逆らう事などできなかった。
 歴代薩摩家当主の中には家臣の諫言に耳を貸す者もいただろうが、島津重豪は家臣の諫言に耳を貸すような男ではなかった。
 島津重豪は依頼書や告発状など殺してから探せばいいと言い切った。
 依頼書や告発状を持って御上に訴え出そうな者が現れたら、その者を殺せばいいとまで言い切っていた。

 そこまで言い切るだけあって、島津重豪は薩摩藩をあげて人数をそろえていた。
 山くぐり衆だけではなく、江戸にいる薩摩藩士を全て動員していた。
 わずかでも池原雲伯と関係がある者には、薩摩藩士を張り付けていた。
 町奉行所や火付け盗賊改方、老中や大目付、更には目安箱にも薩摩藩士の見張りをつけて、訴人を皆殺しにする体制を築いていた。

 島津重豪がそこまでやるのには理由があった。
 娘の篤姫が一橋家の豊千代と婚約しているのだ。
 豊千代が次期将軍に選ばれれば、篤姫が徳川将軍の御台所になる。
 そうなれば島津重豪の権力は薩摩藩内だけでなく、日本六十余州に及ぶ。
 その為なら、どのような犠牲も厭わない覚悟を決めていたのだ。
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