仇討浪人と座頭梅一

克全

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第三章

第六十八話:尾行

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「ええい、薩摩藩に無能は不用じゃ。
 失敗した者は追放じゃ。
 情けなく斬り殺された者の家族も放逐せよ」

「殿、それはいくなんでも酷過ぎます。
 彼らは最初からこの策が危険だと諫言しておりましたぞ。
 それを強硬されたのは殿でございます。
 殿の為に失敗が分かっている策に従い、忠義に殉じた者や残された家族を処分などすれば、殿の悪事を幕府に直訴する者が現れますぞ」

 薩摩藩上屋敷の御殿天井裏に潜んだ盗賊が、身勝手な島津重豪と諫言する家老の会話に聞き耳を立てていた。
 本来なら常在戦場の精神で幕府を警戒している薩摩藩邸は、盗賊団の腕利きでも侵入するのは不可能な場所だった。
 だが今回の失敗で激怒した島津重豪が、薩摩忍者を処分しようとしているので、上屋敷を守る忍者がいなくなっていた。

「ふん、やはり武士の風上にも置けぬ不忠者ではないか。
 自分たちの未熟が原因で失敗したのを、余の責任として処分を逃れようとする。
 しかも処分されたら主家を裏切って幕府に訴えるという。
 そのよう無能で不忠な屑など斬首にすればよいのだ。
 これ以上余に逆らうのなら、お前一緒に処分するぞ」

「殿、なんと情けない事を口にされるのですが。
 山くぐり衆をすべて処分されてしまったら、幕府の密偵から藩邸を守る者がいなくなってしまいますぞ」

「何を申すか、愚か者。
 薩摩藩には多くの薩摩隼人がいるではないか。
 山くぐり衆がいなくなろうと、幕府密偵などに侵入を許す藩士たちではない。
 それともお前は幕府密偵に後れを取る未熟者か」

「殿がそこまで申されるのなら、彼らの処分に関してはもう何も申しますまい。
 ですがこの策に参加していない山くぐり衆まで処分するのはお止めください。
 そして一日でも早く本国から新たな山くぐり衆を呼び出し、藩邸の守りを固めるようにしてください。
 伏してお願い申し上げます」

 天井裏に潜む盗賊は、島津重豪の身勝手と愚かさに腹で笑っていた。
 だが島津重豪が身勝手で愚かなのは、盗賊団には幸いな事だった。
 仲間を無残に殺された盗賊団は必ず復讐を行う。
 島津重豪を殺すためなら、どのような犠牲も厭わない。
 それが本格と自負する盗賊団の矜持なのだ。
 だがその邪魔をする存在が薩摩忍軍だった
 その薩摩忍軍を自ら遠ざけると言うのだから、笑うしかない。

 天井裏に潜む盗賊は慌てる事無く気配を消して会話を聞き続けた。
 彼には絶対にやらねばならない大切な役目があった。
 本当の敵が島津重豪と一橋だけなのか、それとも田沼意次も加わっているのか、それを確かめなければいけなかった。
 今までは梅一の友人為にやる頼まれ仕事だった。
 だが今は仲間の仇を討つ当事者として、命懸けで探り出さなければいけない、とても重大な役割となっていた。
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