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第四章
第八十話:徳川重好
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「上様の御苦悩、お察し申し上げます」
徳川家治から急な呼び出しを受けた清水重好は、直ぐに本丸中奥に駆けつけた。
徳川家治と清水重好は二人きりの兄弟なのだ。
幼い頃から仲がよく、家治は何度も清水家上屋敷を訪問している。
そんな清水重好だからこそ、次々と子女を亡くした兄家治の哀しみを、まるで自分の事のように感じていた。
清水重好はこの度の呼び出しがただ事でない事を感じていた。
先日来の事件は家老の本多昌忠から聞いていた。
兄の苦悩を思えば何か手助けがしたいと心から思っていた。
だが同時に、自分が将軍の器でない事も重々自覚していた。
何より跡を継がせる子供もいないのだ。
自分の子供の兄の養子にする事で、兄の哀しみをやわらげる事すらできない。
自分が兄の役に立てない事を清水重好は心から申し訳なく思っていた。
「急に呼び出してすまなかった。
今日はどうしても萬二郎に詫びなかればいけない事が起きたのだ」
清水重好は兄の言葉に身の引き締まる思いだった。
昔のように幼名で呼ばれた事で、兄弟の絆を感じられたが、同時にとても重大な役目を頼まれることが分かった。
「何なりと申しつけてください、兄上。
たった二人の兄弟ではありませんか。
他の誰に任せられない事でも、私ならやれるかもしれません」
清水重好は普段は絶対に口にしない兄弟の絆を口にした。
たった二人の兄弟だからこそ、清水重好は権力争いに気をつけてきた。
自分が主張する事で、後継者争いが激化する可能性があった。
兄の後継者であった家基、その弟の貞次郎も死んでいる。
変な主張をすれば、悪しき者に暗殺の濡れ衣を着せられる可能性すらあったのだ。
温厚で権力欲のない清水重好は、将軍になりたいとは全く思っていなかった。
だが、もうそんな事は言っていられないのだろうと覚悟を決めた。
「ありがとう、萬二郎。
萬二郎の気持ちはよく分かっている。
将軍の座に何の執着もないのは分かっていた。
下手に仲良くふるまったりすれば、萬二郎に悪い噂がたつ。
次期将軍に指名すれば、命すら狙われかねん。
だから他の者を後継者に選ぼうと思っていたのだが、もうそんな事は言っていられなくなってしまった」
清水重好は心からうれしく思った。
兄が自分の事を大切に思うからこそ後継者候補から外してくれたことは、言葉にされなくても理解していたが、改めて言われれば喜びもひとしおだった。
だから答える事は決まっていた。
「分かっております、兄上。
兄上が背負われてきた将軍という重責に比べれば、何ほどの事もありません。
少しは私もその重荷を背負わせていただきます」
「本当にすまない、萬二郎。
その重荷を全て背負ってもらわなければいけなくなってしまった」
「謝らないでください、兄上。
ずっと兄上のお陰で命を狙われる事もなく安楽に暮らせてきたのです。
死ぬまでの残りわずかな間、重荷を背負うくらいは何とかなります。
それに、兄上が長生きしてくだされば、それほど長い月日にはならないでしょう。
どうか長生きしてください、兄上」
清水重好は迷いのない笑顔を浮かべて答えた。
「すまん、本当にすまん」
徳川家治から急な呼び出しを受けた清水重好は、直ぐに本丸中奥に駆けつけた。
徳川家治と清水重好は二人きりの兄弟なのだ。
幼い頃から仲がよく、家治は何度も清水家上屋敷を訪問している。
そんな清水重好だからこそ、次々と子女を亡くした兄家治の哀しみを、まるで自分の事のように感じていた。
清水重好はこの度の呼び出しがただ事でない事を感じていた。
先日来の事件は家老の本多昌忠から聞いていた。
兄の苦悩を思えば何か手助けがしたいと心から思っていた。
だが同時に、自分が将軍の器でない事も重々自覚していた。
何より跡を継がせる子供もいないのだ。
自分の子供の兄の養子にする事で、兄の哀しみをやわらげる事すらできない。
自分が兄の役に立てない事を清水重好は心から申し訳なく思っていた。
「急に呼び出してすまなかった。
今日はどうしても萬二郎に詫びなかればいけない事が起きたのだ」
清水重好は兄の言葉に身の引き締まる思いだった。
昔のように幼名で呼ばれた事で、兄弟の絆を感じられたが、同時にとても重大な役目を頼まれることが分かった。
「何なりと申しつけてください、兄上。
たった二人の兄弟ではありませんか。
他の誰に任せられない事でも、私ならやれるかもしれません」
清水重好は普段は絶対に口にしない兄弟の絆を口にした。
たった二人の兄弟だからこそ、清水重好は権力争いに気をつけてきた。
自分が主張する事で、後継者争いが激化する可能性があった。
兄の後継者であった家基、その弟の貞次郎も死んでいる。
変な主張をすれば、悪しき者に暗殺の濡れ衣を着せられる可能性すらあったのだ。
温厚で権力欲のない清水重好は、将軍になりたいとは全く思っていなかった。
だが、もうそんな事は言っていられないのだろうと覚悟を決めた。
「ありがとう、萬二郎。
萬二郎の気持ちはよく分かっている。
将軍の座に何の執着もないのは分かっていた。
下手に仲良くふるまったりすれば、萬二郎に悪い噂がたつ。
次期将軍に指名すれば、命すら狙われかねん。
だから他の者を後継者に選ぼうと思っていたのだが、もうそんな事は言っていられなくなってしまった」
清水重好は心からうれしく思った。
兄が自分の事を大切に思うからこそ後継者候補から外してくれたことは、言葉にされなくても理解していたが、改めて言われれば喜びもひとしおだった。
だから答える事は決まっていた。
「分かっております、兄上。
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「本当にすまない、萬二郎。
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「謝らないでください、兄上。
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死ぬまでの残りわずかな間、重荷を背負うくらいは何とかなります。
それに、兄上が長生きしてくだされば、それほど長い月日にはならないでしょう。
どうか長生きしてください、兄上」
清水重好は迷いのない笑顔を浮かべて答えた。
「すまん、本当にすまん」
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