癒しの聖女を追放した王国は、守護神に愛想をつかされたそうです。

克全

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第2話追放2日目の出来事

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「おい、もう死んでいるんじゃないのか?
 お前開けてみてみろよ」

「嫌だよ!
 これだけの酷い仕打ちを受けたんだ。
 絶対怨念で食屍鬼か死霊になっているよ。
 取り付かれて死ぬのはごめんだ!」

「おい!
 そんな事を口にしたら殺されちまうぞ!」

「誰が告げ口すると言うんだ?
 この馬車に乗っているのはおれとお前だけだぞ。
 お前が告げ口すると言うのか?」

「そんなことしねえよ。
 俺だって国王と王太子は恩知らずの糞野郎だと思っているよ。
 だがな、どこに魔法の眼が光っているか分からないんだ。
 余計な事は言わないに限るんだよ」

「分かったよ」

 なぜか御者と護衛の言葉がよく聞こえます。
 衰えた耳では、馬車の外の会話など聞き取れないはずなのです。
 いえ、それ以前に、馬車のたてる騒音で、聞こえないはずなのです。
 おかしい!
 馬車の激しい振動を全く感じません!
 私は魔に転じることができたのでしょうか?
 死霊として蘇り、恨みを晴らすことができるのでしょうか?

「残念だけど、それは無理だね。
 君はまだ生きているからね」

 私は思いがけない返事を耳にして、馬車の中で飛び起きてしまいました。
 とは言っても気持ちだけです。
 年老いた身体では、素早く動くことなどできません。
 萎えた両手に力を込めて、起きようを思ったのですが、自分の今の状態を知って、思わず固まってしまいました。
 
 私の目の前に美丈夫の顔がありました。
 輝くような金色の髪と、深く静謐な湖のような蒼い瞳、熟した果実のような真紅の唇から、高き山に降り積もるような純白に歯が見えます。
 本当に美しさ、表面だけの美しさではない、内面から溢れ出る美しさです。
 しかもその美丈夫が、私を膝枕してくれているのです。

「まだ起きなくていいよ。
 今はゆっくりと休みなさい。
 君の身体は五年もの癒しで悲鳴をあげているからね。
 私でも直ぐに元通りにしてあげる事はできないのだよ。
 いや、絶対にできないわけではないのだけれど、それでは君が味わってきた苦しみの、万分の一も返すことができないからね。
 じっくりと時間をかけて返していこうと思うんだよ。
 それに今返してしまうと、あの糞共が追いかけてきてしまうからね。
 さあ、これを飲みなさい。
 これを飲んでもう一度寝るんだよ」

 美丈夫は私に優しく語りかけてくれます。
 その美声に聞き惚れてしまって、内容など理解できませんでした。
 いえ、死にかけの身体では、意味を追うこともできず、うつらうつらしていたのでしょうか?
 
 その夢うつつの記憶に、美丈夫が口移しでワインを飲ませてくれるという夢がありますが、ありえない事です。
 身体中から腐敗臭が漂い、一本の歯も残っていない、皺と染みに覆われた老婆に、口移しでワインを飲ませてくれる人などいるはずがないのです。
 死にかけた私が見る幻、願望でしかありません。

「君は美しいよ。
 ずっと生きてきた私が初めて会う美しい人だよ。
 私が君を必ず幸せにするよ。
 だから今は眠りなさい」
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