癒しの聖女を追放した王国は、守護神に愛想をつかされたそうです。

克全

文字の大きさ
4 / 23

第3話追放3日目の出来事

しおりを挟む
 王宮はとても華やいでいた。
 王太子が完治した事と、目障りな癒しの聖女を追放できた事で、王侯貴族はこれから行われる、王太子の婚約者選定に集中していた。
 特に王太子は、身分卑しい平民と結婚しなくてすんで、解放感に浸っていた。
 国王陛下の英断に感謝していた。
 激痛に苦しみ老化に涙していたアリスの事など、全く思い出さなかった。

「王太子殿下。
 次は私と踊ってくださいませ。
 なんでしたら小部屋で休んでも構いませんのよ」

 露骨な誘惑だった。
 正室など絶対に不可能な侯爵家以下の令嬢には、側室や愛妾でも十分玉の輿なのです、貴族令嬢としては恥となり、場合によったら幽閉される危険がある婚前交渉を行ってでも、王太子を誘惑しようとしていた。

「あら、それはあまりのも恥知らずではなくて。
 これ以上殿下を困らせるようなら、陛下にお話ししなければいけなくなってよ。
 それでも宜しいのかしら?」

「申し訳ありません、ネヴィア様。
 ちょっとした冗談でございます。
 もう二度といたしませんので、陛下の耳に入れるのだけはお許しください。
 この通りでございます」

 美貌で評判だった某子爵家の令嬢は、深々と頭を下げた。
 タートン王国三大公爵家の一つ、グストン公爵家令嬢ネヴィアに逆らい嫌われては、自分一人だけの事ではすまない。
 子爵家が没落させられるくらいの危険があるのだ。

「分かりましたわ。
 今回だけは許して差し上げます。
 だから二度と殿下に近づいてはいけませんよ」

「ご厚情、心から感謝いたします」

 口では許すといながら、ネヴィアに許す気はなかった。
 王太子の正妃を狙うネヴィアにとって、王太子の周りをうろつく令嬢達は、目障りな存在でしかない。
 正妃争いの主敵は、同じ三大公爵家のジャスミン嬢とジュリア嬢だが、それ以外の令嬢達にも油断は禁物だった。

 側室以下の愛妾が生んだ王子は、年長であっても王位継承権が低い庶兄として扱われるが、生まれてしまえば色々と問題になるのは明らかだった。
 正室争いに敗れた公爵家や、三大公爵家を押しのけて王国の実権を握ろうと、虎視眈々とすきをうかがっている四大将軍家がいるのだ。
 だから子爵令嬢は見せしめに修道院送りにするつもりった。

「ネヴィア!
 わたしのぉ、たのしみをぉ、じゃまするなぁ!
 やっとぉ、じゆうにぃ、なれたのだぁ」

 王太子は泥酔していた。
 三日に及ぶ舞踏会と晩餐会で、王太子としての仮面を維持できないくらい酔い、本能本性のままに食べ飲み騒いでいた。
 取り巻き達も王太子をたきつけて、一緒に乱痴気騒ぎをしていた。
 だがそれを冷たい目でいるモノがいた。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

王都を追放された私は、実は幸運の女神だったみたいです。

冬吹せいら
恋愛
ライロット・メンゼムは、令嬢に難癖をつけられ、王都を追放されることになった。 しかし、ライロットは、自分でも気が付いていなかったが、幸運の女神だった。 追放された先の島に、幸運をもたらし始める。 一方、ライロットを追放した王都には、何やら不穏な空気が漂い始めていた。

私を追い出したらこの店は潰れますが、本当に良いんですね?

真理亜
恋愛
私を追い出す? この店を取り仕切っているのは私ですが、私が居なくなったらこの店潰れますよ? 本気いや正気ですか? そうですか。それじゃあお望み通り出て行ってあげます。後で後悔しても知りませんよ?

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

侯爵家を守るのは・・・

透明
恋愛
姑に似ているという理由で母親に虐げられる侯爵令嬢クラリス。 母親似の妹エルシーは両親に愛されすべてを奪っていく。 最愛の人まで妹に奪われそうになるが助けてくれたのは・・・

ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。

ねお
恋愛
 ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。  そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。  「そんなこと、私はしておりません!」  そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。  そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。  そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」 オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。 シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。 ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。 彼女には前世の記憶があった。 (どうなってるのよ?!)   ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。 (貧乏女王に転生するなんて、、、。) 婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。 (ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。) 幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。 最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。 (もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)

厄介者扱いされ隣国に人質に出されたけど、冷血王子に溺愛された

今川幸乃
恋愛
オールディス王国の王女ヘレンは幼いころから家族に疎まれて育った。 オールディス王国が隣国スタンレット王国に戦争で敗北すると、国王や王妃ら家族はこれ幸いとばかりにヘレンを隣国の人質に送ることに決める。 しかも隣国の王子マイルズは”冷血王子”と呼ばれ、数々の恐ろしい噂が流れる人物であった。 恐怖と不安にさいなまれながら隣国に赴いたヘレンだが、 「ようやく君を手に入れることが出来たよ、ヘレン」 「え?」 マイルズの反応はヘレンの予想とは全く違うものであった。

【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…

西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。 最初は私もムカつきました。 でも、この頃私は、なんでもあげるんです。 だって・・・ね

処理中です...