癒しの聖女を追放した王国は、守護神に愛想をつかされたそうです。

克全

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第8話追放37日目の出来事

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「なにを言っているのだ?
 馬鹿な事を言うな!
 今年もちゃんと貢物をしたではないか!
 神もそれを受け取ったではないか!
 神の加護を失うなどあるわけがない!」

「しかしながら陛下。
 実際に全く実りがありません。
 小麦も大麦もライ麦も青々と育っております。
 ですがその中に実りだけがないのです。
 それも一ケ所や二ケ所ではありません。
 王国中で実りがないのです。
 これは守護神様の怒り買ったとしか思えません。
 陛下が癒しの聖女を貶めたことで、この国は見捨てられたのです!」

 硬骨の騎士だった。
 王国に仕える者の中では末端に近く、王国領の代官を務める男だった。
 だがこのところに王家王国の行いには怒りを感じていた。
 あまりにも守護神月神を蔑ろにし過ぎていた。
 王太子の治療を頼んだ時には低姿勢だったのに、若さを、いや、命を犠牲にして治した癒しの聖女に対する仕打ちは、騎士の誇りにかけて許せない事だった。

「黙れ、黙れ、黙れ!
 一介の騎士の分際で、国王たる余の政道を批判するなど許さん!
 この者を処刑しろ!
 いや、この者の家族を先に処刑しろ!
 家族が処刑される姿を、この者に見せつけてから殺せ!」

 誇り高い騎士はもう何も言わなかった。
 こうなる事を予測し覚悟していた。
 その上での諌言だった。
 代々王家に仕える騎士として、死をとしての諌言をして殺されるのは本望だった。

「大変でございます!
 一大事でございます!
 月神殿が解散されました!
 月神殿の神官や修道女が、この国を捨てて逃げてしまいました!で」

「な?!
 馬鹿な?
 なにが起こったのだ!」

 謁見の間は騒然となった。
 王国領での収穫が全く見込めないという報告を受けた重臣が、場合によれば情報を隠蔽すべきと判断して、国王と重臣だけで騎士の報告を受けるために、小さな謁見の間で人払いをして話を聞いていた。

 そこにとんでもない報告が届いたのだ。
 神に見捨てられたという、騎士が言ったことが裏付けられる報告だった。
 守護神を奉じる神官が、神殿を捨てて逃げるなど、聞いたこともない出来事だ。
 重臣達は国王の怒りを宥め、情報収集に奔走した。

 だが月神殿に仕えるもの達は、昨晩のうちに王都を捨てて逃げたという。
 それも金目の物だけ身につけて、かさばる財産は捨てて逃げたという。
 だから詳しい話を聞ける相手が独りもいなかった。

 だが必死で搔き集めた情報を中に、昨晩王太子が主催した夜会で、月神殿の神殿長が倒れたというものがあった。
 そして神殿長がうわ言のように
「申し訳ありません月神様。
 お許しください月神様」
 と繰り返していたという情報があった。

 もうこの国が月神に見捨てられたのは明らかだった。
 だがこの状況になっても、国王に月神に詫びろという重臣は一人もいなかった。
 この国は驕り高ぶり腐っていた。
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