癒しの聖女を追放した王国は、守護神に愛想をつかされたそうです。

克全

文字の大きさ
8 / 23

第7話追放36日目の出来事2

しおりを挟む
「不味い!
 不味すぎるぞ!
 全く味がついていないではないか!
 こんなモノが食べられるか!
 作り直せ!」

 今日も王太子が無理難題を言っていた。
 料理人の給仕も困り果てていた。
 王太子の命令に従い、料理人は誇りを捨てて、味の濃すぎる不味い料理を作り提供していたのだ。
 給仕達は、全ての賓客来客に対して、王太子の命令によって濃い料理になっていると、苦しい説明をしていた。

「見てみろこの残った料理を!
 あまりに味が薄くて不味いから、誰も手を付けないではないか!
 私に恥をかかせおって!
 料理人を全員首にしろ!
 いや、実際に首を刎ねてしまえ!」

「そうですわ、王太子殿下。
 最近の料理人は腕が落ちすぎています。
 我が家でも、いくら言い聞かせても、全く味のしない料理をだす料理人がいたので、辞めさせてしまいましたのよ」

「まあ、ジャスミン嬢の家でもですか?
 我が家も同じですの。
 私も止めさせたかったのですが、父上と母上が慈愛の精神で止められたので、辞めさせるわけにはいきませんでしたの」

 グストン公爵家令嬢ネヴィアも会話に加わってきた。
 だがドネル公爵家令嬢のジュリアは、明らかに体調が悪そうで、会話に加わることができずにいた。

 半数以上の貴族士族が、呆れて話を聞いていた。
 味が薄くて食べられないのではない。
 味が濃すぎて不味いのだ。
 とても食べられないほど味が濃いのだ。
 皆が内心で王太子の味覚音痴を嘲笑っていた。

 だがそれなりの人数の貴族士族が、王太子の言葉に同意していた。
 そんな貴族士族には共通点があった。
 一様に体調が悪そうなのだ。
 王太子におもねるために、体調不良をおして参加しているのが一目瞭然だった。

 そんな中に、深刻な表情をする者がいた。
 月神殿の大神官ローワンだった。
 大切な癒しの聖女を、自分がいない場所で足蹴にされたローワンだったが、さすがにこの現状を見過ごせるほど悪党ではなかった。
 慈愛と癒しの神、月神に仕える大神官として、なにが起こっているか確認するために、王太子に話しかけようとした。

 だが、話しかけることができなかった。
 雷に打たれたような激痛が全身を駆け抜け、その場で卒倒してしまった。
 意識が薄れるローワンに月神の言葉が響いた。

「余の名を穢した背教徒ローワン。
 今は命までは取らぬ。
 お前など命を奪う価値もない。
 だがこれ以後月神の信徒を名乗る事は許さん
 生き恥を晒し、野垂れ死にするがいい」

 晩餐会は大騒ぎになった。
 王家とは距離ができたとはいえ、この国の守護神月神に仕える者達の長が、何の前触れもなく倒れたのだ。
 だが王太子には目障りなだけだった。
 大嫌いなアリスを思い出されるモノは全て排除したかった。

「ええい、恥さらしが!
 大切な夜会で粗相をしおって!
 神殿に送り返せ!」
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

私を追い出したらこの店は潰れますが、本当に良いんですね?

真理亜
恋愛
私を追い出す? この店を取り仕切っているのは私ですが、私が居なくなったらこの店潰れますよ? 本気いや正気ですか? そうですか。それじゃあお望み通り出て行ってあげます。後で後悔しても知りませんよ?

ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。

ねお
恋愛
 ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。  そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。  「そんなこと、私はしておりません!」  そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。  そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。  そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。

王子に婚約破棄されて国を追放「魔法が使えない女は必要ない!」彼女の隠された能力と本来の姿がわかり誰もが泣き叫ぶ。

佐藤 美奈
恋愛
クロエ・エルフェシウス公爵令嬢とガブリエル・フォートグランデ王太子殿下は婚約が内定する。まだ公の場で発表してないだけで、王家と公爵家の間で約束を取り交わしていた。 だが帝立魔法学園の創立記念パーティーで婚約破棄を宣言されてしまった。ガブリエルは魔法の才能がある幼馴染のアンジェリカ男爵令嬢を溺愛して結婚を決めたのです。 その理由は、ディオール帝国は魔法至上主義で魔法帝国と称される。クロエは魔法が一番大切な国で一人だけ魔法が全然使えない女性だった。 クロエは魔法が使えないことに、特に気にしていませんでしたが、日常的に家族から無能と言われて、赤の他人までに冷たい目で見られてしまう。 ところがクロエは魔法帝国に、なくてはならない女性でした。絶対に必要な隠された能力を持っていた。彼女の真の姿が明らかになると、誰もが彼女に泣いて謝罪を繰り返し助けてと悲鳴を上げ続けた。

【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…

西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。 最初は私もムカつきました。 でも、この頃私は、なんでもあげるんです。 だって・・・ね

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」 オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。 シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。 ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。 彼女には前世の記憶があった。 (どうなってるのよ?!)   ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。 (貧乏女王に転生するなんて、、、。) 婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。 (ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。) 幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。 最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。 (もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)

私、今から婚約破棄されるらしいですよ!舞踏会で噂の的です

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
デビュタント以来久しぶりに舞踏会に参加しています。久しぶりだからか私の顔を知っている方は少ないようです。何故なら、今から私が婚約破棄されるとの噂で持ちきりなんです。 私は婚約破棄大歓迎です、でも不利になるのはいただけませんわ。婚約破棄の流れは皆様が教えてくれたし、さて、どうしましょうね?

姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。 失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。 そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……! 悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。

王都を追放された私は、実は幸運の女神だったみたいです。

冬吹せいら
恋愛
ライロット・メンゼムは、令嬢に難癖をつけられ、王都を追放されることになった。 しかし、ライロットは、自分でも気が付いていなかったが、幸運の女神だった。 追放された先の島に、幸運をもたらし始める。 一方、ライロットを追放した王都には、何やら不穏な空気が漂い始めていた。

処理中です...