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第一部:私だけの物語
3.理想の相手―①
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「で、本当にやるの、文通」
「うーん、どうしようかな」
なんでも知り合いのお茶会に行かなければならないとのことで、エステル様は颯爽と帰って行った。春風みたいな人だなあと思いつつ、そのおせっかいとも言える性格に確かに助けられている自分がいる。
「ねえ、帰らなくていいの?」
一緒に帰ればよかったのに、なぜだかクリスはまだうちの屋敷にいる。彫像のような美形が、私の向かいで優雅に紅茶を飲んでいるのは不思議な気分だ。なお、この茶葉もさっきエステル様がくれた。
私がそう言うと、クリスは不機嫌そうにこちらをちらりと見た。けれど何も言わないので自分の家にいるのにすこぶる居心地が悪い。仕方なく、エステル様が置いて行った文通屋のチラシを眺めてみる。
一月あたりの料金は思っていたより安い。何せ後ろ盾もない身分なので質素倹約を信条としている私のささやかなお小遣いでもなんとかなる額だ。
なんでも手紙は文通屋で預かってもらって、そこから相手先に配達してもらう。個人情報はバレないから安心してやり取りができると評判だそうだ。
文通屋に頼む際に要望書なるものを記入するらしい。そこに相手の希望や文通の目的などを書くのだ。確かに、誰も彼もが運命の相手を探して文通をするわけではないだろう。気の置けない友人を探していることだってあるはずだ。
そうして書かれた要望書を元に、文通屋は相手を選ぶ。
この文通相手の選択がとてつもなく上手い、とのこと。
しかしながら、選ばれた相手が気に入らなければ、別の人と文通することも可能らしい。また、複数人の相手と文通することも可能だそうだ。
そして、どんなに金を積まれても相手の正体は明かさない。知りたければ、自分達でどうぞ。
『理想の文通相手、ご案内いたします』
交易の町として名高いこのドーレブールで、似たような商売が今までに全くなかったわけではない。けれど、これがこの店のウリらしい。出資をしているのは、有名な貴族の御隠居だとも、新進気鋭の青年実業家だとも言われている。つまり、本当のところは誰も知らないということだ。
都合のいい謳い文句に、乗せられそうになる。
私がどんな人間かを知らない人なら、私を愛してくれるだろうか。そんな妄想に浸りたくなった。
遮ったのは、静かな男の声だった。
「あんたさ」
彫像が口を開いた。
「どんな相手がいいの?」
そんなことを聞いてどうするのだろうとは思うけれど、一応考えてみる。
「そうだなあ」
一通り考えてはみたけれど、具体的なものが浮かんでくるわけではなかった。この手の中の紅茶の水面のようにゆらゆらと揺れて、掴み所がない。金髪の王太子殿下に見えたかと思えば、茶髪の騎士に見えてみたり。
そうして、実際のところ映るのは所在なげな自分の顔だけだ。
「……特にないかな」
「ふうん」
髪と同じ銀色の睫毛がすべらかな頬に影を落とす。そしてクリスは独り言のように呟いた。
「じゃあ、誰でもいいんだな」
青い目が何か企みを宿して輝く。絶対によくないことを考えていると分かるのに、その底深さが孕んだ色気から目が離せない。うっかり目にしたらこの町中の乙女の心臓が止まると思う。
クリスはこれを見ていたのが私だけであることに感謝するべきだ。
「うーん、どうしようかな」
なんでも知り合いのお茶会に行かなければならないとのことで、エステル様は颯爽と帰って行った。春風みたいな人だなあと思いつつ、そのおせっかいとも言える性格に確かに助けられている自分がいる。
「ねえ、帰らなくていいの?」
一緒に帰ればよかったのに、なぜだかクリスはまだうちの屋敷にいる。彫像のような美形が、私の向かいで優雅に紅茶を飲んでいるのは不思議な気分だ。なお、この茶葉もさっきエステル様がくれた。
私がそう言うと、クリスは不機嫌そうにこちらをちらりと見た。けれど何も言わないので自分の家にいるのにすこぶる居心地が悪い。仕方なく、エステル様が置いて行った文通屋のチラシを眺めてみる。
一月あたりの料金は思っていたより安い。何せ後ろ盾もない身分なので質素倹約を信条としている私のささやかなお小遣いでもなんとかなる額だ。
なんでも手紙は文通屋で預かってもらって、そこから相手先に配達してもらう。個人情報はバレないから安心してやり取りができると評判だそうだ。
文通屋に頼む際に要望書なるものを記入するらしい。そこに相手の希望や文通の目的などを書くのだ。確かに、誰も彼もが運命の相手を探して文通をするわけではないだろう。気の置けない友人を探していることだってあるはずだ。
そうして書かれた要望書を元に、文通屋は相手を選ぶ。
この文通相手の選択がとてつもなく上手い、とのこと。
しかしながら、選ばれた相手が気に入らなければ、別の人と文通することも可能らしい。また、複数人の相手と文通することも可能だそうだ。
そして、どんなに金を積まれても相手の正体は明かさない。知りたければ、自分達でどうぞ。
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都合のいい謳い文句に、乗せられそうになる。
私がどんな人間かを知らない人なら、私を愛してくれるだろうか。そんな妄想に浸りたくなった。
遮ったのは、静かな男の声だった。
「あんたさ」
彫像が口を開いた。
「どんな相手がいいの?」
そんなことを聞いてどうするのだろうとは思うけれど、一応考えてみる。
「そうだなあ」
一通り考えてはみたけれど、具体的なものが浮かんでくるわけではなかった。この手の中の紅茶の水面のようにゆらゆらと揺れて、掴み所がない。金髪の王太子殿下に見えたかと思えば、茶髪の騎士に見えてみたり。
そうして、実際のところ映るのは所在なげな自分の顔だけだ。
「……特にないかな」
「ふうん」
髪と同じ銀色の睫毛がすべらかな頬に影を落とす。そしてクリスは独り言のように呟いた。
「じゃあ、誰でもいいんだな」
青い目が何か企みを宿して輝く。絶対によくないことを考えていると分かるのに、その底深さが孕んだ色気から目が離せない。うっかり目にしたらこの町中の乙女の心臓が止まると思う。
クリスはこれを見ていたのが私だけであることに感謝するべきだ。
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