拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ

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第一部:私だけの物語

23.お姫様のドレス

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 スカートにはフリルがふんだんにあしらわれている。ふわりと膨らむプリンセスラインだ。
 加えてデコルテを強調するようなオフショルダー。花を模した刺繍がふんだんに施されていて、ドレス全体がまるでお花畑かのように見える。

 なんというか、絵に描いたようなお姫様のドレスである。

「どう考えてもこれが一番華やかで、一番可愛いだろ」

 それは、そうだ。間違いない。とても可愛い。

「でもさ、こういうのは若くて可愛い子が着るやつだよ」

 デビュタントすぐの令嬢ならいいだろう。歩く度にふわふわと揺れるフリルはそれだけで気分が高揚すると思う。

 けれど今の私が着たら、どう見えるだろう。どこからどう見てもはしゃぎ過ぎだ。

「そんなの、着てみないと分からない」

 クリスが椅子から立ち上がって、こちらに来る。

 目の前に立たれたら、見上げるほど高い位置で眩いばかりの銀髪が煌いていた。私を真っ直ぐに見つめてくる青から目を逸らせなくなる。

 ドレスのかかったハンガーを掴んだかと思うと、着てみろと言わんばかりにクリスはそれをぐっと突き出してくる。

「せっかく選んだのに着てももらえないのは、悲しいだろ」

「クリス……?」

「着て気に入らなかったら、それでいいから」

 それはまるで、彼自身がこのドレスを選んだかのような口ぶりだった。私が首をかしげると、クリスははっとする。

「あれだ、その、何とかっていう侯爵も、そう思うはずだ」
「キット様ね」

「そう、それ」

 刺繍を指先でそっとなぞってみる。ドレスの上で咲き誇る、枯れることのない大輪の花。少なくとも一度、キット様はこの店に来て、このドレスを選んだはずなのだ。

「あの、ローランさん」

 手紙に書かれていた言葉が蘇る。

 ――それにきっと、貴女はとても美しい人だ。

「はい」
「キット様は……どんな方でしたか」

 私がそう尋ねると、なぜだか目の前の長身が狼狽えた。 

「おい、キャロライン!」
 私とローランさんを見比べる様に銀色の頭が右往左往する。

「申し訳ございません。お客様に関することは、わたしからはお話しできないことになっております」

 その返答にどこか安心した。これでキット様について深く知ってしまったら、私は少し怖い。ちなみに、クリスもほっと胸をなでおろしたようだった。少し恥ずかしそうに髪をかき上げている。

「しかしながら、わたしがどんな方かと思ったかをお話しすることはできます」

 目が合うと、ローランさんはまたにこりと微笑んだ。

「あの方は、大変時間をかけてドレスを選ばれていましたよ。とても誠実な方なのだとお見受けしました」

 ローランさんの視線の先にあるのは、私が試着した四着のドレス。
 そのどれもを、キット様は時間をかけて選んだのだという。

「一度、着てみてはいかがですか」
「そう、ですね」

 似合わなかったとしても、それが最大限、今の私にできるお返しだと思うから。
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