拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ

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第一部:私だけの物語

24.鏡の中の自分

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「素敵な方でございますね」

 ドレスを着付けながら、ローランさんが言った。慣れた手つきで後ろの編み上げを編んでいく。

「はい、とても」

 キット様は、落ち着いた素敵な人だ。自分のことを言われたわけでもないのに、なんだかとても得意げな気分になる。

「文通をしているんですけど、お会いしたことはなくって。だからあんなことを聞いてしまいました」

 背中の向こうで、彼女が笑う気配がした。
 仕上げとばかりに、きゅっとリボンが結ばれる。私は何かおかしなことを言ってしまっただろうか。

「ええ、そうですね。ですが」

 するりと前に回ったローランさんがドレスの裾を整えてくれる。その黒い目は、カーテンの向こう側に向けられている。

 そこにいるのは、不機嫌そうな幼馴染である。

 私は返事を濁した。素敵でないということはない。むしろその逆だ。

「とても仲がよろしいようで、わたしもなんだか嬉しくなってしまいました」

「ただの幼馴染、ってだけです」

 付き合いは長いけれど、それだけだ。
 家柄からしても、容姿からしても、私とクリスでは釣り合いが取れないだろう。

「信じられます? 昔はクリスより、私の方が背が高かったんですよ」

 私の言葉に、ローランさんがくすりと微笑む。

「男性の方はそういうことがよくおありですね」

「よく知ってるつもりだったのに、時々彼がなんだか知らない人みたいに見える時があります」

 本屋の前で見た彼の笑顔を思い出す。私が知らない、クリスの一面。これからもっとそんなことが増えていくのだろうか。

「何も、知らないということが悪いということはないと思います」

 真っ赤な唇が美しく弧を描く。袖口のところを少し直して、ローランさんは満足げに頷いた。

「知らなければ、これから知ればいいだけのことですわ」

 ローランさんは大人の女性だ。こういう人なら、キット様ともお似合いだろうかと、頭の片隅で思った。

「さて、おしゃべりはこれぐらいにしましょう。クリストファー様が待ちくたびれてしまいますわ」

 私は結局、鏡の中の自分と一度も向き合えないままだった。
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