愛するということ

緒方宗谷

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37.加奈子と彩絵の回想

3.恋愛感情

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 目が覚めると、世界がバラ色になっていた。全てが私(沙絵)の一部と言うか、私の帰る所、私の居場所って言えばいいのかな。
 愛されるということは、とても自信になる。そればかりか、愛するということはもっと自信になる。更に愛し合っているという確信は、ほぼ無敵だ。今は自分のスタイルを劣等だとは思わない。あの日から、私は島根さんのことをたっちゃんと呼ぶようになった。
 今までいつも見てきた物なのに、たっちゃんの部屋にある物は何もかも新鮮に映る。たっちゃんの寝顔初めて見た。とても無防備な表情がなんか可愛い。きゅんとしちゃって、顔を近づけてしばらく見ていた。
 初めての思い出は、とても優しくて、とても温かい。たっちゃんの愛情が波のように何度も打ち寄せる度に、蒼い月明かりの中で咲く花のような気持ちになれた。
 一つになっているという事実、私と同じく感じてくれているという心の一体感。本当に溶け合って別れ別れになり得ないと思えるほど、吐息も鼓動も一緒になっていた。思い出すたびにジーンとして、瞳が潤んでしまう。
 気が付くと、たっちゃんばかりを考えてしまう自分がいた。寝ても覚めても何をしていても、頭の中では走馬灯の様にたっちゃんが浮かんでいて、いつも囁いている。私は本当にこの人が好きなんだなって実感する。そして、脳裏に浮かぶたっちゃんに語りかける自分がいる。
 たっちゃんのことを思い出すだけでドキドキしちゃう。瞳を閉じると、あの時の感情が思い起こされて、心の奥が熱くなる。
 今さっきまで一緒にいたのに、もう既に今すぐ会いたくて堪らない。じゅうぶん一緒にいたなんて気持ちになれない。全然足りない。肌に残ったたっちゃんの残り香にときめく。思わず振り返って、たっちゃんの家に戻りたいと思う。
 私といない時何しているのかな? 私といない時何考えているのかな? 不意に私のことを考えてくれている、と本気で思える時がある。こういうの以心伝心って言うのかな? ちょぴっと嬉しい。
 でも、不安になる時もある。大学で誰と話しているのかな? 隣の席に誰か座っているのかな? 私以外の女の子と話すなんて嫌。私以外の女の子を見るなんて嫌。同じ大学の敷地にいるのに、100億万光年離れている気がする。すぐに走って行って腕を組みたい。たっちゃんは私のですようってみんなに言いたい。あはは、億万光年って何? 走って行けないじゃん(笑)。
 ああ、どうして1歳も年下なんだろう。どうしようもないのは分かっているのに、なんかわがままになっちゃう。頭の後ろの上の方が熱くなる。隣の席で勉強したい。我慢できなくて、足を踏み鳴らしたい気分。子供みたいに。
 いつどこにいても、偶然たっちゃんの好きな柔軟剤の香りに出会うと、視界いっぱいがたっちゃんになる。
 たっちゃんはスペアリブが大好きだから、商店街のスペアリブのお店の前を通る時は、たっちゃんが美味しそうにかぶりつくところを必ず想う。
 たっちゃんが好きな色やデザインを目にする度に、好きな音楽が聞こえる度に、全てがたっちゃんに繋がっていく。
 私はたっちゃんが好き。たっちゃんが大好き。なんか断崖絶壁から海に向かって「「「大好きだー‼‼」」」って叫びたい。
 会いたくて会いたくて堪らない。会えない時間が狂おしくて、全然眠れない。切なすぎて、会いたい気持ちを抑えきれない。1分でも離れていたくない。恋しくて仕方がない。

 思わずコートを取って部屋を出た――

 
 沙絵は、カフェから出てひだまりの中に霞む島根の背中を見上げ、溢れてくる安らぎを感じて微笑む。そして思った。何もかもが甘酸っぱい思い出だ。とても切なくて苦しくて、それでもなお愛おしさから霧の中に足を踏み入れてきたからこそ、今が本当に幸せなんだと。

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