愛するということ

緒方宗谷

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38.友情

5.夢

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 ちょうど一息ついた時、2人のもとにコーヒーとクッキーが運ばれてきた。テーブルにコーヒーを置きながら、お店の人が言う。
「ごめんなさいね、今日たくさんコーヒーの注文があったから、ココナッツクッキーが切れちゃったの。だから、片方だけ金柑の甘露煮に変えました」
 初めての出来事に小栗は得した気分だ。得意げな笑みを浮かべて寺西を見ると、とても羨ましそうにしている。その表情が面白い。目を丸くして口をあんぐり開けている。正に羨ましいですって顔をしていた。
 白銀の光を含む膨らむ夢のような灰色に、ぼやかした黄赤と白灰色の霜模様と紺青色の染み模様が独特のコーヒーカップをまじまじと見つめて、寺西がポツリと言った。
「コーヒーカップ作るかな。ギャラリーも開いてカフェでもやるか」
「お前、そういうの得意そう。中学の時、学校で粘土細工作ったじゃん。
 みんなゴミみたいのしか出来なかったけど、お前の握りこぶしだけは本物みたいだったもんな。寺っちにはゼッテーそういう才能あるよ」
 日差しを浴びてキラキラ光る庭をガラス越しに見ている寺西に、小栗は負けじと続けて言う。
「じゃあ、俺自家製パン種で作った手作りパン屋でもやろうかな」
「おお、いいじゃん、俺よりリアルだな。でもパンなんて焼けたっけ?」
「焼いたことねー、でも作り方は知ってる。庚申の水が湧いてるだろ? あれを使うんだよ。地元名物パンにするの。地粉を使って、飯能で葡萄作ってるところから菌もらってくるの」
「葡萄から菌? 何で?」
「パン酵母って葡萄から取れるらしいんだよ。麹菌で作ったパンもあるし、地酒作ってる酒蔵から麹菌もらってもいいかもしんねー」
「すんげーリアル」
 夢が広がる喜びを隠しもしない鷹揚な笑みで2人は笑う。その笑みを湛えたまま、また寺西が言う。
「丸太雛職人もいいな」
「いいじゃん、今は切口に絵を描いてあるだけど、彫ってみるの」
「ああ、でも彫ったら違う気がする。丸太だからいいんだよ」
「そうなの?」
 小栗はよく分からなかったが、想像するとトーテムポールみたいになるかな、と思って笑った。
 後ろの畳に両手をついて、寺西が唸る。
「あ~、なんかやりたいことが多すぎて、なんにも決まんねー」
「全部やろうぜ。とっかえひっかえやって、楽しいのだけ残す」
「お、それ採用!」
 今までだってそうだ。プラモやゲーム、エアガン、メンコ、ベーゴマ。色々やってそれなりに楽しかったけど、卒業したものも多い。やらなくなったことを振り返って、やらなければ良かったなんて思うものは一つもない。
 大人になっても少年の心を忘れないってこういうことだ、と2人は思った。

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