愛するということ

緒方宗谷

文字の大きさ
121 / 192
38.友情

6.特別

しおりを挟む
 心地良い日差しの中で釣りを楽しみながら、川の流れに心のもやを流している時、2人以外の気配が無くなると、たまに親友だけの秘密を打ち明け合う。
 いつものことだが、大抵本人が重大だと思っているだけで、聞いている方は大したことない、と思っている場合が多い。お互いいつも聞き流し合うだけだ。結論も出ない。でも一番友情が育まれる大事な時間だ。
 小栗は、不意に原口が好きだと打ち明けた。
(原田真理?)寺西は、(確かに可愛いよな)と思った。一言だけ、「ふーん」と答える。
 原田真理は学年で1、2を争う天才だ。髪は黒のストレート、セミロングとボブの間位で、シャギーも段カット(寺西はレイヤーをこう呼ぶ)も入っていない昔ながらの女子っていう髪型。大抵は細いリボンでポニーテールにしている。蝶結びも控えめだ。男友達も吉澤和也とか新村信也とか頭の良いやつしかいない。
(とてもじゃないが、おちゃらけてる俺らとは世界が違う)。そう寺西は思った。(たしか皇大(国内最高峰の大学)目指していたような……。吉澤も新村も帝大(No.2)や王大(No.3)を狙ってたよな? 栗ちーのヤツ、どこで接点あったんだ?)
 そう寺西が考えていると、小栗が話し始めた。
「去年さ、放課後帰ろうと思って一段飛びで下りてったの」
 一段飛びとは、階段をワンステップで飛び降りることだ。一番上から踊り場まで一飛びで着地する結構スリルのある技である。
「そしたらさ、俺が2階から飛び降りた時に、ちょうど原田が踊り場にいて、すごい音を立てて着地した俺に驚いて、ビクッて縮こまって、『びっくりした!』って言ったんだ。
 俺、ワリィって言って1階に飛ぼうとした時、『気を付けてねって』って言ったんだよ。
 なんか変な間でさ、半テンポずれた感じ? 俺、おうって言って振り向いたら、目があったの。胸の前でノートか教科書持った手を斜め十字にしてて、ニコッて笑ったんだ。
 すんげー可愛くって…………、…………好きになった……」
 寺西は小栗の話を聞きながら、(確か、原田って吉澤といい感じだよな)と思い返していた。だから、(玉砕したのかな?)と心配になった。
「告白したの?」
「いや、出来ねーよ、頭違い過ぎんもん。俺とじゃ釣り合わねーだろ」
 寺西は下唇を嚙んで、川に視線を落とした。
 少し悲しげに小栗が笑って言う。
「下駄箱に、合格祈願のお守り入れといた」
(原田真理は頭脳界の頂点に座っていて、俺達は底辺にいる。ヒエラルキーは何段違うんだろう?)寺西は空を見た。
 1年の時、原田真理のことばかり見ていた寺西は、「お前、原田のことが好きだろう?」と小栗に言い当られたことがあった。寺西は、一時期小栗に「告白しろ、告白しろ」と迫られていた過去がある。だが、2年になってからぱったりと止まったことを思い出した。
(悲しいけどしょうがないよな。俺もお前も、原田とは無縁の世界で生きてるんだからな)
 寺西は(心がなんか甘酸っぱい感じがする)と思った。(たぶん、栗ちーも同じ気持ちなんだろうな)とも思っていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。 王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。 『…本当にすまない、ジュンリヤ』 『謝らないで、覚悟はできています』 敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。 ――たった三年間の別れ…。 三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。 『王妃様、シャンナアンナと申します』 もう私の居場所はなくなっていた…。 ※設定はゆるいです。

18年愛

俊凛美流人《とし・りびると》
恋愛
声を失った青年と、かつてその声に恋をしたはずなのに、心をなくしてしまった女性。 18年前、東京駅で出会ったふたりは、いつしかすれ違い、それぞれ別の道を選んだ。 そして時を経て再び交わるその瞬間、止まっていた運命が静かに動き出す。 失われた言葉。思い出せない記憶。 それでも、胸の奥ではずっと──あの声を待ち続けていた。 音楽、記憶、そして“声”をめぐる物語が始まる。 ここに、記憶に埋もれた愛が、もう一度“声”としてよみがえる。 54話で完結しました!

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...