愛するということ

緒方宗谷

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48.Wデート

6.陸♡里美 💘💘💘💘

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 決めたのは、白いバラ柄のショール。
(一生大事にする。1年中使うんだ。冬は肩にかけて夏は飾っとくっ)
 陸は笑顔でショールを見つめる里美をチラリと見やって、お店の中央の台に視線を移した。
「すいません、これもください」
 そう言って、その台に歩み寄った陸は、さっき里美が見ていたカーディガンを手に取ってカウンターに置いた。
「これ、篠原さんにプレゼント」
「いいの?」
「うん、何度も曾おばあちゃんにはご飯ご馳走になってるし。総額はご飯代の方が多いよ」
 里美が出したショールの代金の上に、陸は5184円を置いた。
 嬉しすぎて我慢できない里美は、店を出るなり紙の手さげ袋を開けて、カーディガンを広げた。
「嬉しい、本当にうれしい! 私大切にするね! 絶対に大切にするね!」
 キラキラと瞳を輝かせてお礼を言う里美に、陸は、「とても喜んでくれて嬉しいよ」と微笑み返す。
(陸君との最後のデート。最高だ。私の一生の思い出にしよう)
 里美は思わずきゅんとして、涙が滲んだ。彼の振る腕が起こす空気の流れがそよ風となって、里美の肌に届いたかのようだ。
 勇気を出せば腕が組める。あの時だって組めたじゃないか! と里美は初めて陸と介護施設に行った日のことを思い浮かべた。でも腕は伸ばさなかった。
 このままでいい。この淡い恋心を卒業までいだいていこう。あんまり好きになれなかった村上さんとも友達になれたし……。
 切ない。陸君を想うと胸が張り裂けてしまいそう。
 里美は下唇を嚙んだ。月並みな表現だけれど、それ以外表現しようがない。苦しくて息も絶え絶えだ。だが、張り裂ける胸の苦しみが峠を越えると愛おしいと思う気持ちが幸せとなって、泉が滲み出る様に心を満たす。
 里美はそのことを知っていた。1人部屋で泣きじゃくった後、いつもそうなるからだ。
(愛する人の幸せのために身を退ける気持ち。「この人はいい人だから幸せにしてあげて」とライバルに言える気持ち。そして、ライバルに、「お幸せに」と言える気持ち。こんな気持ちをいだいて歩いていこう)
 里美の心は諦念でいっぱいだった。良い意味での諦念。清々しい諦めの気持ちは、失恋の価値を悟ったかのようだ。

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