愛するということ

緒方宗谷

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59.有紀子と加奈子と里美の食事会

1.隠れ家

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 3月、卒業式の前に有紀子は、加奈子と相談して、里美とランチをすることにした。
 “記憶喪失喪失事件”(記憶が戻って記憶喪失中の記憶を喪失したから、加奈子がつけた)が無ければ、と有紀子が想像すると、偶然陸達と出会って(有紀子はたこ焼き計画を知らない)多分早めのお夕食を食べるか、おやつにスイーツを食べていただろう、という結論に至ったからだ。
 そこで、有紀子はお気に入りのカフェでランチを計画した。いつも加奈子と2人で食べに行く小さなカフェで、住宅街の中にある。2人だけでしか行かないカフェなので一応相棒に相談してみると、加奈子は喜んで「行こう行こう」と言った。
 国分寺と一橋学園駅の間にあるカフェで、姉妹2人だけで切り盛りしているアットホームな雰囲気のお店。料理は月替わりで、世界の郷土料理をワンプレートで提供している。
 席についた里美は、店内を見渡して有紀子に言った。
「すごく雰囲気のいいお店ね、すっごいすてき」
「ありがとう、そう言ってくれてうれしい」
 壁は光沢のある白に近い灰色のレンガ、卵色の床は厚い木材を組み合わせたような感じのヘリンボーン模様。フローリングというより石畳みたいだ。
 吊るされたステンドグラスのライトが天上に並んでいる。裾壁や窓の一部にもステンドグラスが填められていて、透過する陽の光が煌めいていた。
 木の歪んだ凸凹を活かした輪郭のイスと、タイルが貼られたテーブルがゆったりと配されている。北欧スタイルを思わせる店作りだ。
 のどかな牧歌的な雰囲気を帯びたスローライフな感じのお家だと里美は思った。確か、母親が持っている木のぬくもりを感じさせる部屋作りの本に出てくる家や室内がこんな雰囲気。とてもさっぱりしていてシンプルで、清潔感のある綺麗でおしゃれな感じだ。
「このテーブル、わたしの曾おばあちゃんが好きそう」
 里美はテーブルを撫でながら言った。
 20cm四方くらいのタイルが表面に敷き詰められたテーブルは、店内を独特な雰囲気にしていた。濃淡だけで分けた2つの青で描かれた花と、2つの黄緑で描かれた花が、ひとマスおきに填められている。
 壁にある棚の窪みには、同じような色で模様が描かれた食器や小さな置物が飾られていた。里美が店内にある物を指さして、「あれがすてき、これがすてき」、と褒めて回る。
 すると、加奈子が笑って言った。
「そうでしょ、わたしもそう思ってた」
「でも渡辺さんのセンスよね。村上さんじゃ無理」
 グサッと刺された仕草をした加奈子に、2人は笑った。
 有紀子はポルトガル風塩豚とあさりの煮込み料理、加奈子はムーマナオ、里美はロスティを注文した。
「へぇ、わたし聞いたことない料理ばかり。渡辺さん達は知ってた?」メニューを見ながら、里美が言った。
「うん、わたしも加奈も(ムーマナオは)食べたことあるよ」有紀子が答える。
「月変わりだけど、来ると大抵これ(ムーマナオ)があるから変わってる気しないね」加奈子はニタッと笑って、小声で((本当は毎月同じなんじゃないの?))と言う。
 「本当、わたしもそう思う」と有紀子も笑った。

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