愛するということ

緒方宗谷

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59.有紀子と加奈子と里美の食事会

2.世界最強

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 まず初めに、3人分のラタトゥイユが運ばれてきた。テーブルに置かれたスープを見て、加奈子が声を弾ませる。
「お、珍しくポタージュじゃないんだね」
 有紀子が、「トマトスープ? わたしこれ飲んだことないんだよね」と言う。お店の人が、スペイン料理の野菜のトマト煮込みだと教えてくれた。それを具だくさんスープとして提供したようだ。
 しばらくして運ばれてきたムーマナオは、タイ風豚しゃぶ丼。可愛い星粒が描かれた丸い平皿に盛られたライスの上に、豚しゃぶ、レタスが盛られていて、一番上にこれでもかとパクチーが乗っている。
 初めて見るムーマナオに興味津々の里美が、お皿を覗き込んだ。
「不思議な香りのハーブね」
「パクチーだよ、香菜ともいうかな」と加奈子。「若しくはシャンツァイ。この独特の香りと味が堪んないんだよ」
 加奈子が「ニシシ」と笑って説明して、更に続ける。
「辛酸っぱいドレッシングがかかってるの」
「どんな味?」
「東南アジアって感じの味」
 随分と大雑把な説明だ。付け合せのライムを絞りかけた加奈子は、スプーンですくって里美に味見をさせてあげた。
「とても美味しい! 本当、東南アジアって感じの味」
 目を大きくあけた里美にそう言われた有紀子は、「あはは」と笑った。
「結局その表現しかないのね」
 2人だけでなく、以前食べた有紀子もそれ以外に味を表現できなかった。
 続いて出てきたのは、有紀子の煮込み料理だ。縁に、ハナニラに似た青い花が描かれたスープ用の深い丸皿の上半分に雑穀ライスが盛られていて、下半分に殻付きアサリ3つ、豚肉の四角い塊3つ、煮崩れたトマトが順番に3列並ぶ。他に丸い白い豆、長くて白い豆、薄緑の豆が入っている。少量のスープがかかっていて、一番上にパクチーが乗っていた。
「へぇ、自然なお味」
 里美が一口味見させてもらっている間に、ロスティが運ばれてきた。ジャガイモの細切りと玉ねぎの駒切りをこんがりきつね色に焼いたドイツ料理。加奈子の料理と同じ丸皿の下半分に半月状にロスティがあって、上半分にドイツ風のサラミを使ったサラダが盛られている。
 3人とも初めて見る料理だ。「一口味見させて」と加奈子が言うと、「見た目はお好み焼きみたいね」と有紀子も興味津々。まず初めに2人に味見をさせた里美が言った。
「メニューにはドイツ料理って書いてあったけど、何でパクチーが乗ってるんだろう?」
「ホントだ」と有紀子が頓狂に呟き、加奈子が「パクチー押しなんだよ」とニタニタしながら適当に言った。適当だが本人は大まじめだ。
 有紀子が、「まあ、じゃがいもだね」とロスティの味を評した。恐れもなく店員に聞こえるくらいの声に、他の2人は堪えきれずに笑う。
 里美は美味しそうにパクパク食べながら、ポロッと言った。
「美味しいけど、口がパクチーの味でいっぱいっ」
「パクチーは世界を制するのだ‼」
 加奈子が満足気に〆た。

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