愛するということ

緒方宗谷

文字の大きさ
191 / 192
エピローグ

1.有紀子と陸の大学生活

しおりを挟む
 なんだかんだ言って、高校を卒業すれば陸との関係は希薄になる、と有紀子は覚悟していた。今まで読んだ恋愛小説や漫画、見ていたドラマを思い返す。大抵最後は別れるのだ。
 卒業とかでこれといった事情もなく別れたり、物語の最後の方で急転直下の大事件が起きたりして、ヒロインの恋は終わりを告げる。
 有紀子と加奈子と陸、3人は別々の大学に進学した。
 不思議なことに、加奈子は都心の大学に進学したのに23区に引っ越さなかった。有紀子は練馬区に引っ越す予定だったので、それを知った加奈子はちょっと残念そうだった。 
 でも加奈子は、有紀子の家から大学に通えると、ちょっと嬉しげだ。加奈子にしてみれば、有紀子のそばにいるために引っ越さなかったのだから、逆に好都合。通学距離は短い方が良い。通学距離短縮を口実にお泊りできる。
 それを聞いた有紀子は、加奈子に家賃代わりにご飯をおごらせよう、と密かに考えていた。
 陸は、有紀子と同じ大学に入りたかったが、学力が足りなくて断念した。もともと頭は良いのだが、記憶が回復してしまったがために、今まで勉強したことを全て忘れてしまったのだ。
 日本語や英語は覚えているのに、なんで数学や歴史は忘れるんだと陸は嘆きながら、勉強に追われる毎日に高3の最後を潰した。それでも一度やったことだから、意外に飲みこみは早く、困難と思われた大学(記憶喪失時なら楽勝の)にギリギリ合格した。
 大学のある地区は、それぞれ違う。有紀子が練馬に住むことを知った陸は、西武線で大学に行けることもあって、同じ練馬に住むことにした。加奈子が有紀子の家に入り浸っているから、結局高校時代とあまり変わらない付き合いだった。
 その後も特別関係が壊れることなく、意外にも長く3人の関係は緩やかに続いている。
 有紀子と陸は、相変わらず一線を超えることは無かった。ただお互いの家にお泊りしたりする関係だ。そのイチャイチャぶりは見ている方が恥ずかしくなるほどだった。
 有紀子としては、いい加減抱いてほしい、と少しムスッとした感がある。でも陸はしないことが愛情の示し方だと考えているらしい。それはそれで自分を大切にしてくれている、と有紀子は嬉しく思うが、「「「女にだって性欲はあるんだよー‼‼‼‼」」」と叫びたい気分でいっぱいだ。
 陸が不能者でないことは、彼の朝の生理現象から明らかだった。それなのに、陸はあまり性に対して積極的ではない。なのに大学で女性から好意を持たれれば、やっぱりふらふら~、となびいてしまう。大学でも結構モテるようだから、有紀子は気が気ではない。
 随分と矛盾した陸の心理だったが、陸は気にも留めていないように思える。
 有紀子も昔の脳波の乱れの話は聞いていたから、もしかしたら何か脳に損傷が残っているのかもしれない、と思った。だから温かく見守る(箱入り彼氏)ことにした。
 陸は、どことなく他の男性とは違う雰囲気を醸し出している。感情の波が緩やかで、ふんわかした(人によってはドライと言うが)した感じだ。
 関係は高校の時と変わらなかったけれど、可もなく不可もない。どちらかといえば楽しい日々が連なって日常となっていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。 王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。 『…本当にすまない、ジュンリヤ』 『謝らないで、覚悟はできています』 敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。 ――たった三年間の別れ…。 三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。 『王妃様、シャンナアンナと申します』 もう私の居場所はなくなっていた…。 ※設定はゆるいです。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

処理中です...