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一年生の三学期
🐿️
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奈緒は笑ったが、警官はにこりともせずに質問を続ける。
「事件事故に巻き込まれたというわけではないんですね。迷子になったわけでもないし、一緒にいたわけでもない――と?」
「やだーって言って、こうこうって行っちゃった」
奈緒はそう言ってから、エコバックに入っていた本を取り出す。それは、千代紙をちぎって作ったちぎり絵の画集と、童話『モモタとママと虹の架け橋』の新刊だった。
「あれー? わかんない。これと関係ありますか?」奈緒がすがるように顔を上げる。
「家に帰ったのでは?」
「そうかもしれないけれども、分からない」
「家は近いですか?」
「わたしは北千束ですから、近いです。違う? 遠いです」
「もう一人の方は?」
「荏原中延 です から、近いです」
「それでは一度、家に行って確認してみたらどうですか? 電話してみるとか」
「そうですね、そうしてみます」
警官にその意思はなかったのだろうが、うまく言いくるめられた奈緒は、会話の流れと結果に疑問を持つ様子もなく、満足した様子で後ろを振り返り、そこで気がついて向き直った。
「違います。捕まりました」
警官がぴくりと反応する。
「警察にですか?」
「分かりません」
「なにか心当たりでも?」
警官の声のトーンが少し変わった。
奈緒は恐怖を覚えたのかいっとき絶句して、少し甘えるように言った。
「わたしは、身 体 障 がい 者、なので、ごめんなさい。お友達がどこか 分かりま せ ん。声を かけようと しましたところ、“クラスメイタ”なお友達に、どこかに連れていかれ ました。 どこですか?」
「……」警官は答えなかった。
奈緒が、ちぎり絵画集を指さす。
「これがき れ い で す。わたしは リハビリで 絵手紙を習っているので、今度これをやりたいです。それで今日、コーヒーを 飲みに行こうとした時に、ちょっと手前にある小さなレストランでオムライスを食べたいなと思い 出した ところでした。ご はんを 食べながら、お友達と談笑したいです。でもそれ、今、思いました。だっておなかがすいているから。うちに帰って、お昼を食べる 予定 ですから、おなかがすいて もうだめ。頭がぱぁっとなって、な んに も 思い出せなく なる。お母さんに相談する。そうしたら、どうしたら ちぎり絵できるか 知れるかもしれないから」
しばらくして返答があった。
「そうですね、それがいいかもしれませんね。そのお友達も、一緒にいたお友達の家に行かれたのかもしれませんしね」
その声は、初めの優しい声だった。
「そ う か も し れ ま せ ん。ありがとう ござい“も”した。それでは 失礼 し ま す」
奈緒は終始甘えるような声を発し続け、丁重にお辞儀すると、足早に自動ドアへと向かう。その途中右側あった落とし物を管理する窓口にいた、丸メガネでスキンヘッドの年配男性の視線をさけるように左を向いて外へと急ぐ。
図書館を出た時は、まだ十二時前だったのに、いつの間にか時間は二時を回っていた。
「事件事故に巻き込まれたというわけではないんですね。迷子になったわけでもないし、一緒にいたわけでもない――と?」
「やだーって言って、こうこうって行っちゃった」
奈緒はそう言ってから、エコバックに入っていた本を取り出す。それは、千代紙をちぎって作ったちぎり絵の画集と、童話『モモタとママと虹の架け橋』の新刊だった。
「あれー? わかんない。これと関係ありますか?」奈緒がすがるように顔を上げる。
「家に帰ったのでは?」
「そうかもしれないけれども、分からない」
「家は近いですか?」
「わたしは北千束ですから、近いです。違う? 遠いです」
「もう一人の方は?」
「荏原中延 です から、近いです」
「それでは一度、家に行って確認してみたらどうですか? 電話してみるとか」
「そうですね、そうしてみます」
警官にその意思はなかったのだろうが、うまく言いくるめられた奈緒は、会話の流れと結果に疑問を持つ様子もなく、満足した様子で後ろを振り返り、そこで気がついて向き直った。
「違います。捕まりました」
警官がぴくりと反応する。
「警察にですか?」
「分かりません」
「なにか心当たりでも?」
警官の声のトーンが少し変わった。
奈緒は恐怖を覚えたのかいっとき絶句して、少し甘えるように言った。
「わたしは、身 体 障 がい 者、なので、ごめんなさい。お友達がどこか 分かりま せ ん。声を かけようと しましたところ、“クラスメイタ”なお友達に、どこかに連れていかれ ました。 どこですか?」
「……」警官は答えなかった。
奈緒が、ちぎり絵画集を指さす。
「これがき れ い で す。わたしは リハビリで 絵手紙を習っているので、今度これをやりたいです。それで今日、コーヒーを 飲みに行こうとした時に、ちょっと手前にある小さなレストランでオムライスを食べたいなと思い 出した ところでした。ご はんを 食べながら、お友達と談笑したいです。でもそれ、今、思いました。だっておなかがすいているから。うちに帰って、お昼を食べる 予定 ですから、おなかがすいて もうだめ。頭がぱぁっとなって、な んに も 思い出せなく なる。お母さんに相談する。そうしたら、どうしたら ちぎり絵できるか 知れるかもしれないから」
しばらくして返答があった。
「そうですね、それがいいかもしれませんね。そのお友達も、一緒にいたお友達の家に行かれたのかもしれませんしね」
その声は、初めの優しい声だった。
「そ う か も し れ ま せ ん。ありがとう ござい“も”した。それでは 失礼 し ま す」
奈緒は終始甘えるような声を発し続け、丁重にお辞儀すると、足早に自動ドアへと向かう。その途中右側あった落とし物を管理する窓口にいた、丸メガネでスキンヘッドの年配男性の視線をさけるように左を向いて外へと急ぐ。
図書館を出た時は、まだ十二時前だったのに、いつの間にか時間は二時を回っていた。
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