221 / 796
一年生の三学期
第七十一話 SOS
しおりを挟む
奈緒は、警察署を出たきり途方に暮れた様子で歩道に佇み、おろおろとしながら何度も辺りを見渡す。何かを探しているようだが見つからず、後ろを振り返る。視線の先にある自動ドアのわきに、警官が一人立っていた。みぞおちの高さと同じくらいの長い警杖の上部先端に両手を据えている彼は、奈緒を熟視しているように見える。
逡巡するようにしばらく警官を横目で見ながらうろうろしていた奈緒だったが、怖気づいた様子で視線をそらし、警察署に背を向ける。そしてちょうど通りかかったサラリーマンに声をかけた。
「とんとん、とんとん、すいません。電話ボックスはどこですか?」
だが、そのサラリーマンは、首を傾げただけで去って行く。もう幾人かに声をかけるが、知らないとしか返ってこない。
五里霧中で立ち尽くす奈緒が、唯一視界が開けた空間のある後ろを向いて、もう一度ちらりと警官を見やった。
するとその警官は、警杖の上部先端から左手を外し、右手で握ったそれを左手に持ちかえる。ゆらりと揺れて重心を静かに左足に傾けると、右足を上げる素振りを見せた。
それを見たこの子は居たたまれなくなったのか、すぐさま足早にその場を立ち去る。そして、すぐそばの交差点の手前を歩いて来た夫婦らしき老いた二人を見つけて、再び同じ言葉で問う。
「とんとん、とんとん、すいません。電話ボックスどこですか? 電話ボックスどこですか?」
数回息を整えると続けて、赤ちゃん言葉気味に身の上を語る。
「わ た し は、右手右足でごめんなさいっ。身 体 障 がい 者で ごめんな さ い。だ か ら、うまく言葉が でませんっ」
老夫婦は進行方向を見やってから後ろの交差点を眺めて考え込む。そして老紳士がゆっくりと一句一句はっきりとした発音で答えた。
「うーん、分かりやすいのは、ここをまっすぐ行ったところにある郵便局の向こうにあるやつかなぁ」
すると、老婦人が言い添える。
「あとはねぇ――そこの交差点を右に曲がった先にあるななまーとに、公衆電話があったんじゃないかしら」
「図書館に行く道だ!」アハ体験で奈緒叫ぶ。
「そうそう。さらに先に行くとあるわねぇ」
「ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げると、奈緒は急いで横断歩道を渡る。すでに点滅していたから、真ん中に来る頃には赤に変わっていた。渡りきると同時に、優しく待っていてくれた車が流れ始める。
逡巡するようにしばらく警官を横目で見ながらうろうろしていた奈緒だったが、怖気づいた様子で視線をそらし、警察署に背を向ける。そしてちょうど通りかかったサラリーマンに声をかけた。
「とんとん、とんとん、すいません。電話ボックスはどこですか?」
だが、そのサラリーマンは、首を傾げただけで去って行く。もう幾人かに声をかけるが、知らないとしか返ってこない。
五里霧中で立ち尽くす奈緒が、唯一視界が開けた空間のある後ろを向いて、もう一度ちらりと警官を見やった。
するとその警官は、警杖の上部先端から左手を外し、右手で握ったそれを左手に持ちかえる。ゆらりと揺れて重心を静かに左足に傾けると、右足を上げる素振りを見せた。
それを見たこの子は居たたまれなくなったのか、すぐさま足早にその場を立ち去る。そして、すぐそばの交差点の手前を歩いて来た夫婦らしき老いた二人を見つけて、再び同じ言葉で問う。
「とんとん、とんとん、すいません。電話ボックスどこですか? 電話ボックスどこですか?」
数回息を整えると続けて、赤ちゃん言葉気味に身の上を語る。
「わ た し は、右手右足でごめんなさいっ。身 体 障 がい 者で ごめんな さ い。だ か ら、うまく言葉が でませんっ」
老夫婦は進行方向を見やってから後ろの交差点を眺めて考え込む。そして老紳士がゆっくりと一句一句はっきりとした発音で答えた。
「うーん、分かりやすいのは、ここをまっすぐ行ったところにある郵便局の向こうにあるやつかなぁ」
すると、老婦人が言い添える。
「あとはねぇ――そこの交差点を右に曲がった先にあるななまーとに、公衆電話があったんじゃないかしら」
「図書館に行く道だ!」アハ体験で奈緒叫ぶ。
「そうそう。さらに先に行くとあるわねぇ」
「ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げると、奈緒は急いで横断歩道を渡る。すでに点滅していたから、真ん中に来る頃には赤に変わっていた。渡りきると同時に、優しく待っていてくれた車が流れ始める。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
ホッとコーヒー ~偶然見つけたカフェのひととき~
緒方宗谷
エッセイ・ノンフィクション
美味しいコーヒーのお話。
たまに更新します。
店名や場所は特定しないので、お散歩がてら探してみてください。
タイトルにある地名は、最寄駅です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる