FRIENDS

緒方宗谷

文字の大きさ
220 / 796
一年生の三学期

🐿️

しおりを挟む
 奈緒は笑ったが、警官はにこりともせずに質問を続ける。
「事件事故に巻き込まれたというわけではないんですね。迷子になったわけでもないし、一緒にいたわけでもない――と?」
「やだーって言って、こうこうって行っちゃった」
 奈緒はそう言ってから、エコバックに入っていた本を取り出す。それは、千代紙をちぎって作ったちぎり絵の画集と、童話『モモタとママと虹の架け橋』の新刊だった。
「あれー? わかんない。これと関係ありますか?」奈緒がすがるように顔を上げる。
「家に帰ったのでは?」
「そうかもしれないけれども、分からない」
「家は近いですか?」
「わたしは北千束ですから、近いです。違う? 遠いです」
「もう一人の方は?」
「荏原中延 です から、近いです」
「それでは一度、家に行って確認してみたらどうですか? 電話してみるとか」
「そうですね、そうしてみます」
 警官にその意思はなかったのだろうが、うまく言いくるめられた奈緒は、会話の流れと結果に疑問を持つ様子もなく、満足した様子で後ろを振り返り、そこで気がついて向き直った。
「違います。捕まりました」
 警官がぴくりと反応する。
「警察にですか?」
「分かりません」
「なにか心当たりでも?」
 警官の声のトーンが少し変わった。
 奈緒は恐怖を覚えたのかいっとき絶句して、少し甘えるように言った。
「わたしは、身 体 障 がい 者、なので、ごめんなさい。お友達がどこか 分かりま せ ん。声を かけようと しましたところ、“クラスメイタ”なお友達に、どこかに連れていかれ ました。 どこですか?」
「……」警官は答えなかった。
 奈緒が、ちぎり絵画集を指さす。
「これがき れ い で す。わたしは リハビリで 絵手紙を習っているので、今度これをやりたいです。それで今日、コーヒーを 飲みに行こうとした時に、ちょっと手前にある小さなレストランでオムライスを食べたいなと思い 出した ところでした。ご はんを 食べながら、お友達と談笑したいです。でもそれ、今、思いました。だっておなかがすいているから。うちに帰って、お昼を食べる 予定 ですから、おなかがすいて もうだめ。頭がぱぁっとなって、な んに も 思い出せなく なる。お母さんに相談する。そうしたら、どうしたら ちぎり絵できるか 知れるかもしれないから」
 しばらくして返答があった。
「そうですね、それがいいかもしれませんね。そのお友達も、一緒にいたお友達の家に行かれたのかもしれませんしね」
 その声は、初めの優しい声だった。
「そ う か も し れ ま せ ん。ありがとう ござい“も”した。それでは 失礼 し ま す」
 奈緒は終始甘えるような声を発し続け、丁重にお辞儀すると、足早に自動ドアへと向かう。その途中右側あった落とし物を管理する窓口にいた、丸メガネでスキンヘッドの年配男性の視線をさけるように左を向いて外へと急ぐ。
 図書館を出た時は、まだ十二時前だったのに、いつの間にか時間は二時を回っていた。









しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。 前編 「恋愛譚」 : 序章〜第5章 後編 「青春譚」 : 第6章〜

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

処理中です...