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二年生の一学期
第百四十二話 追想
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小皿を使ってみんなが味見をする。
「案外美味いじゃん」
春樹が舌を巻くとみんなも味を褒めたので、奈緒は自慢げになって「おかわりいかが?」、と鍋をお玉でかき混ぜた。
おばあちゃんが用意した茶色い木のお椀に注がれた成瀬家のスープを啜りながら、春樹がほっと一息つく。
「ここ数日、なに食べても美味かったな。特に煮込み系。カレーに巻狩鍋に奈緒特製成瀬家スープ。とくに巻狩り鍋は絶品だった」
「当然です。まめぶ汁には負けませんよ」
「まべぶって?」みんなが首を傾げる。
「あの、甘いんだかしょっぱいんだかよく分からなくて有名なお汁ですよ」
奈緒がみんなに向かって叫ぶように言った。
「今日の朝、七時十五分に見たじゃない。知らないなんて、じぇじぇじぇだよ」
奈緒とおばあちゃんは、歴戦を駆け抜けてきた戦友であるかのようにお互いを見つめて微笑みあう。
お椀を空にしたみんなが、それぞれの荷物をまとめて玄関に集まって靴を履く中、最初に立ち上がった春樹が、みんなの頭を見渡しながらニットジャケットのポケットに両手を入れる。
「帰りに朝市寄って行くだろ。来た時は飲食関係しか気にしなかったけど、野菜や食器の店もあったし、ちょっと見て行こうぜ」
みんなの様子を眺めていたおばあちゃんが頬を柔和に綻ばせて、南の黒いフードと裾を直してやるというおせっかいを焼きながら、孫が奈緒のよだれをティッシュで拭ってやるさまを見やる。
「有料だけど夜市もあるらしいよ、夏には。聞いた話だと音楽イベントもなにかするらしいから、暇があったらおいでなさいな。ここにはなにもないですけれども、ないからこそ満たされるなにかがあるのでしょうね。だからこそ、なにかを見出して移住してくる方や訪れる方がいるんでしょう。東京では、欲しいものはなんでも手に入るのだろうけれど、それと引き換えに差し出している心の大切な部分もたくさんあるから、失った形のない、言葉にもできない魂のかけらが多くなりすぎて小さくすり減ってしまったのなら、こんなおばあちゃんが用意する田舎料理でもよければもてなしますよ。だからいつでもおいで。歓迎しますからね」
「「「はい、ぜひに」」」
磊落に笑うおばあちゃんを見て、みんなは見惚れた様子だった。
家庭菜園側から歩道に出ると、みんなは微かに身を震わせる。温かな陽射しとは裏腹に、肌を撫でる空気はひんやりとしていた。
「案外美味いじゃん」
春樹が舌を巻くとみんなも味を褒めたので、奈緒は自慢げになって「おかわりいかが?」、と鍋をお玉でかき混ぜた。
おばあちゃんが用意した茶色い木のお椀に注がれた成瀬家のスープを啜りながら、春樹がほっと一息つく。
「ここ数日、なに食べても美味かったな。特に煮込み系。カレーに巻狩鍋に奈緒特製成瀬家スープ。とくに巻狩り鍋は絶品だった」
「当然です。まめぶ汁には負けませんよ」
「まべぶって?」みんなが首を傾げる。
「あの、甘いんだかしょっぱいんだかよく分からなくて有名なお汁ですよ」
奈緒がみんなに向かって叫ぶように言った。
「今日の朝、七時十五分に見たじゃない。知らないなんて、じぇじぇじぇだよ」
奈緒とおばあちゃんは、歴戦を駆け抜けてきた戦友であるかのようにお互いを見つめて微笑みあう。
お椀を空にしたみんなが、それぞれの荷物をまとめて玄関に集まって靴を履く中、最初に立ち上がった春樹が、みんなの頭を見渡しながらニットジャケットのポケットに両手を入れる。
「帰りに朝市寄って行くだろ。来た時は飲食関係しか気にしなかったけど、野菜や食器の店もあったし、ちょっと見て行こうぜ」
みんなの様子を眺めていたおばあちゃんが頬を柔和に綻ばせて、南の黒いフードと裾を直してやるというおせっかいを焼きながら、孫が奈緒のよだれをティッシュで拭ってやるさまを見やる。
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「「「はい、ぜひに」」」
磊落に笑うおばあちゃんを見て、みんなは見惚れた様子だった。
家庭菜園側から歩道に出ると、みんなは微かに身を震わせる。温かな陽射しとは裏腹に、肌を撫でる空気はひんやりとしていた。
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