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二年生の二学期
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まだ中身がずいぶんと残っていることに気をとめる様子を見せない奈緒がコーヒーカップに紅唇を添えて、ミルクと砂糖で薄茶色に色づいた液体を口に含んで何度も頷く。
「わたしのおかずまで食べちゃうくらいだもんね」
「変なこと言わないでよ。サバだのイワシだのをわたしのお皿に放り込んでくるんでしょ?」
「結局わたしが食べさせられる」奈緒が顔面をしわくちゃにして、春樹と務に訴えた。
レジを済ませて外に出ると、奈緒の歩速に合わせた二人と行動を同じくしない務が、心なしか立ち止まろうとしているのかと思えるほど、歩みを遅くする。
「成瀬さん――」
声をかけられた奈緒が、道路の真ん中で振り返る。大きな瞳をぱちくりさせて見つめるこの子に、緊張した面持ちの彼が口をもごもごさせた。
「その……僕も用意してあるんだ、誕生日プレゼント」
ぱあぁっと奈緒の表情が明るくなる。それを見て余計に緊張した様子の務が生唾を飲んで、焦せ焦せとコートの内側に隠れていた黒いシート織りの生地で縁を補強されたブラウン色したボディバッグを背側からわきに引っ張り出すと、その中から奇麗な紙包みを取り出す。差し出されたそれは、春樹が用意したプレゼントよりも大きな包みだった。
待ちきれない様子で奈緒は、瞳から期待を横溢させながら歩み寄って受け取ると、間髪入れずに封を開けて包みを広げる。中にはフォックス毛皮のような色つやをした毛足が短めのモコモコとした塊が入っていた。
歩道と車道の間に走る白線に分け隔てられた奈緒に対して、務がしどろもどろ言葉を紡ぐ。
「本当は結構前に買っていたんだけれど、渡す機会がなくて。それ、マフっていって、日本語では手套っていうのかな? 手袋の親戚みたいなもの。確か去年のいつだったか、手袋の話になった時に、成瀬さん言っていたよね。つけたいけどすぐに片っぽ落として失くしてしまうからつけないって。思い返すと冬の成瀬さんってあかぎれが結構ひどかったし、つらいだろうなって思ったことを思い出して、なんとかできるものはないかなって色々考えた結果、これになった。ポーチみたいに首からかけられるようになってるでしょ。平織りの紐だから、肌に負担かけないと思う。筒状の部分をおなかの前にもってきて、そこに手を入れるの。両手を入れると転んだ時に危ないから、右手だけを入れて。これなら落として失くすことはないでしょ? これでだいぶ楽になるんじゃないかな?」
まだ中身がずいぶんと残っていることに気をとめる様子を見せない奈緒がコーヒーカップに紅唇を添えて、ミルクと砂糖で薄茶色に色づいた液体を口に含んで何度も頷く。
「わたしのおかずまで食べちゃうくらいだもんね」
「変なこと言わないでよ。サバだのイワシだのをわたしのお皿に放り込んでくるんでしょ?」
「結局わたしが食べさせられる」奈緒が顔面をしわくちゃにして、春樹と務に訴えた。
レジを済ませて外に出ると、奈緒の歩速に合わせた二人と行動を同じくしない務が、心なしか立ち止まろうとしているのかと思えるほど、歩みを遅くする。
「成瀬さん――」
声をかけられた奈緒が、道路の真ん中で振り返る。大きな瞳をぱちくりさせて見つめるこの子に、緊張した面持ちの彼が口をもごもごさせた。
「その……僕も用意してあるんだ、誕生日プレゼント」
ぱあぁっと奈緒の表情が明るくなる。それを見て余計に緊張した様子の務が生唾を飲んで、焦せ焦せとコートの内側に隠れていた黒いシート織りの生地で縁を補強されたブラウン色したボディバッグを背側からわきに引っ張り出すと、その中から奇麗な紙包みを取り出す。差し出されたそれは、春樹が用意したプレゼントよりも大きな包みだった。
待ちきれない様子で奈緒は、瞳から期待を横溢させながら歩み寄って受け取ると、間髪入れずに封を開けて包みを広げる。中にはフォックス毛皮のような色つやをした毛足が短めのモコモコとした塊が入っていた。
歩道と車道の間に走る白線に分け隔てられた奈緒に対して、務がしどろもどろ言葉を紡ぐ。
「本当は結構前に買っていたんだけれど、渡す機会がなくて。それ、マフっていって、日本語では手套っていうのかな? 手袋の親戚みたいなもの。確か去年のいつだったか、手袋の話になった時に、成瀬さん言っていたよね。つけたいけどすぐに片っぽ落として失くしてしまうからつけないって。思い返すと冬の成瀬さんってあかぎれが結構ひどかったし、つらいだろうなって思ったことを思い出して、なんとかできるものはないかなって色々考えた結果、これになった。ポーチみたいに首からかけられるようになってるでしょ。平織りの紐だから、肌に負担かけないと思う。筒状の部分をおなかの前にもってきて、そこに手を入れるの。両手を入れると転んだ時に危ないから、右手だけを入れて。これなら落として失くすことはないでしょ? これでだいぶ楽になるんじゃないかな?」
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