猫のモモタ

緒方宗谷

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力に頼るマスの話

理想と現実の差に膝をついても、振り向けばほら、別の理想が寄り添ってくれるよ

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 川の上流にやって来ると、泣いているマスが、何匹も流されて来ました。
 「どうしたの?」
 「うん、もっと上の方にイジメッ子がいてね、いっぱいご飯がとれる所を1人で陣取っちゃったんだ。
  それで、みんな追いやられて流れて来たというわけさ」
 モモタが行ってみると、だんだんと川が狭くなって来ました。大きな石がゴロゴロしていて、左右は高い土の崖に囲まれています。
 「こんなところに、まだ魚が要るのかなぁ?」
 崖の木は根っこがむき出しで、ちょっと怖い気がしてきました。それでも進み続けて、ようやく1匹のマスに出会いました。
 「沢山のマスが、泣きながら流されてきたけど、君が泣かしたのかな」
 「だとしたらどうなんだ?」
 「何でそんなことするの?団らんって言葉知らないの?」
 「みんなと分け合えって言うのか?そんなことできるもんか!」
 マスは聞いてくれないので、カブトムシの話を教えてあげました。
 「僕知ってるんだ、そんなことをしていると、いつかひどい目に遇うよ」
 話を聞き終わったマスは、モモタに言います。
 「君は家猫だろ?ここがどんなところか知らないんだ。
  君は毎日食べるに困らなかったかもしれないけど、ここは違う。
  ご飯はたまにしか流れてこないのさ。
  何日も食べれないことだってあるんだよ」
 信じられなさそうなモモタをよそに、マスは続けます。
 「どうやって、1匹の虫を10匹のマスで分けるんだ?」
 モモタは答えられません。マスは付け加えました。
 「ここで食べていけるのは、僕だけさ。
  ご飯は下流より多いけど、流れも早くて滝がいくつもある。
  ここに暮らすのは、簡単じゃない。
  でも下流は、ご飯は少ないけど、流れは緩やかで滝もない、川幅も広いから、同じ場所に何匹も住めるんだ」
 泣いていた子達を思うと、やはりみんなで上流に住めたらと思うモモタでした。
 「確かに君の言うカブトムシと僕は同じかもしれない。
  みんなで助け合えるのが、一番素晴らしいことだって知っている。
  でも、みんなをここに住まわせたら、みんな餓えてしまうよ。
  みんなはみんなの力に合わせて、住めるところに流れていったんだ。
  ここに住みたいって夢は破れたけど、下流に夢や幸せがないわけじゃない。
  泣いてた彼らが笑えるかは、彼ら次第さ」
 モモタは、自然の厳しさを目の当たりにして、自分がどれだけ恵まれて育ったのかを知りました。
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