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モモタとママと虹の架け橋
第二十二話 森には見えない神秘が息づいている
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そうこうする内に、ミゾゴイの入ったゲージが軽トラックに乗せられました。車が走り出すと同時に、モモタはチュウ太とアゲハちゃんを連れて走り出しました。車が駐車場から出て間もなく、みんなで荷台へと飛び乗ります。
キキも飛び立とうと背伸びをしました。すると、人々の間から「おお~」と歓声が上がりました。
照れ隠しをしながらそっぽを向いたキキは、大きく翼を広げます。すると、更に大歓声が上がります。ほんの一瞬ですが、キキはそのまま動かずにいました。
モモタたちがいなくなったので、ちょっとアゲハちゃんのまねをしてみたのでしょう。だって、自分は空の王者ですから、アイドルの真似事なんてできません。みんなには、自分を畏怖して畏敬の念を持って仰ぎ見させなければなりません。それでもやっぱりアゲハちゃんのまねをしてみたかったのでした。
でも照れ恥ずかしさに耐えきれずに、すぐに飛んで行きました。
ミゾゴイとモモタたちを荷台に乗せた軽トラックを含む数台の車は、森と町の境の野原へとやってきました。
人間の身の丈ほどもある草が生えている中の一角、草が刈られた所に停まった車は、すぐにゲージを地面に下ろします。
小さなゲージから放たれたミゾもんと名付けられたミゾゴイは、名残惜しそうに人間たちを見ています。たぶん、ごはんがとても美味しかったのでしょう。
山へと続く森と町の境をウロウロしているミゾもんに、モモタが言いました。
「ミゾもん君、僕たち虹の雫を探しているんだ。とってもきれいな色で輝く雫なんだって。
森のミゾゴイたちに訊いたら、なぞなぞを問いかけられたんだけど、分からないんだ。いろいろ考えて、君が持ってるって思ったんだけど、知らないかなぁ」
するとミゾもんは、「知ってるー☆ 知ってるー☆」と叫んで、羽ばたきながら滑走していきます。時折滑空するので、すごい速さです。たちまちのうちに、キキ以外の三匹は置いてきぼりにされてしまいました。
モモタとチュウ太が、ミゾもんの匂いとたまにキキが落とすフンの匂いを辿って、山へと戻っていきます。ミゾもんは、空っぽの巣があった場所よりさらに奥の方まで走っていったようでした。
もともと湿気が多い森でしたが、山奥まで来ると小川の周りの大地は湿地帯のようです。
土が洗い流されて残った小川の石石は、生き生きと苔むしていて小さな森と化していました。平瀬になっている所に石の肌が見えているところはほとんどありません。苔は、水中にまでびっしりです。
小川をまたぐ倒木も柔らかな苔に覆われていて、とてもよい踏み心地。よく見ると、苔は小さな杉の木の様に育っています。小さくて可愛いキノコも生えていました。
人が歩いた痕跡はありません。空気はとても澄んでいて、ヒノキの香りがどこからともなく漂ってきます。小川の形も、ちょっとした渓流のように変わってきました。
みんな、ここまで山奥に来るのは初めてでしたが、不思議と怖くありません。
モモタたちが幾つかの小さな滝を登っていくと、とても幻想的な景色が目に飛び込んできました。突然、水の色が翡翠のような緑色に変わったのです。
モモタたちは、思わず感動の声を上げました。
なんて神秘的な光景なのでしょう。川の色は透明なもの、と思い込んでいたアゲハちゃんは、思わず川の上に飛び出して、水面の上を滑るように舞い飛びました。水面の上に走る筋が、あたかもフェアリーテイルのようです。
モモタは水をなめてみます。大変冷たくてまるみを帯びた清涼感が口いっぱいに広がります。とても澄んでいてかすかに甘みがありました。とろみがあって舌を優しく撫でるように包みます。特別な味がしました。人の飲んでいる水は硬くて、口に含んだ水が舌に乗っかって喉をふさぐような感じですが、この水は口内に滲み込むようです。
匂いは無いように思えますが、草木や土の良い香りを凝縮したような雰囲気が、鼻の奥をくすぐります。無香のようでいて無香ではないのでした。大自然の息吹を凝縮したような香りがあるように思えます。
モモタは、そういえば、と顔をあげ、辺りを見渡しました。
何事かと、そのしぐさを見やるチュウ太に、モモタが言いました。
「ここ、とっても空気が澄んでるね。木々や土の優しい香りしかしないもの」
「あら、今頃気がついたの?」とアゲハちゃん。
「うん、そういえば、こんなに生き生きとした気配をいっぱい感じるのに、なんて心地がいいんだろう。熊やヘビだっているだろうし、空にはタカだってるだろうに」
気を抜いたら食べられてしまうかもしれません。ですが、そのことで湧き上がる恐怖よりも、森林が作り出す神聖な空気が心を満たして、恐怖を消し去ってくれているのです。
翡翠緑のところと透明なところが触れ合う境が揺らめいています。あたかも水がないかのように思えるほど透き通っていて、川底の石が見えるほどなのに、翡翠緑と色が混ざっていきません。モモタはとても不思議に思いました。
チュウ太が言いました。
「見ろよ、モモタ。見る角度によって、色が変わるぜ」
ちょろちょろと、高い石と低い石を行き来しながら、立ち上がったりしゃがんだりしているチュウ太が、続けて言いました。
「これは間違いないよ。絶対虹の雫があるよ。そうでなかったら、こんな不思議なことってないだろう?」
興奮気味に自分を見るチュウ太に、モモタも心が躍り始めます。三匹は、渓流の苔むした石の上を歩いて、さらに上流へと登っていきました。
川を挟む背の低い崖の幅が広がっていきます。それに対して川の幅は変わりません。ですから、河原が広くなりました。河原と言っても、石はみんな苔むしていましたから、深緑のじゅうたんが敷き詰められているようです。
下流の方よりもふかふかした苔のじゅうたんです。長い年月を経て、萌芽しては命を全うして枯れ、そして新たな命を育む腐葉土へと帰っていったのです。芽吹いては枯れて芽吹いては枯れて、を悠久の時の中で営んできたものですから、硬い石と表面の苔の間には、薄いながらも栄養たっぷりの土があるのです。ですから、とてもふかふかなのでした。
心なしか、河原の石が大きくなってきた、とモモタは感じました。勘違いではありません。ほどなくして、みるみる間にほとんどの石がイノシシの様に大きなものばかりになりました。
地続きの同じ一つの山なのに、こんなにも表情を変えるなんてなんてすごいんだろうと、みんな感動せずにはいられませんでした。
キキも飛び立とうと背伸びをしました。すると、人々の間から「おお~」と歓声が上がりました。
照れ隠しをしながらそっぽを向いたキキは、大きく翼を広げます。すると、更に大歓声が上がります。ほんの一瞬ですが、キキはそのまま動かずにいました。
モモタたちがいなくなったので、ちょっとアゲハちゃんのまねをしてみたのでしょう。だって、自分は空の王者ですから、アイドルの真似事なんてできません。みんなには、自分を畏怖して畏敬の念を持って仰ぎ見させなければなりません。それでもやっぱりアゲハちゃんのまねをしてみたかったのでした。
でも照れ恥ずかしさに耐えきれずに、すぐに飛んで行きました。
ミゾゴイとモモタたちを荷台に乗せた軽トラックを含む数台の車は、森と町の境の野原へとやってきました。
人間の身の丈ほどもある草が生えている中の一角、草が刈られた所に停まった車は、すぐにゲージを地面に下ろします。
小さなゲージから放たれたミゾもんと名付けられたミゾゴイは、名残惜しそうに人間たちを見ています。たぶん、ごはんがとても美味しかったのでしょう。
山へと続く森と町の境をウロウロしているミゾもんに、モモタが言いました。
「ミゾもん君、僕たち虹の雫を探しているんだ。とってもきれいな色で輝く雫なんだって。
森のミゾゴイたちに訊いたら、なぞなぞを問いかけられたんだけど、分からないんだ。いろいろ考えて、君が持ってるって思ったんだけど、知らないかなぁ」
するとミゾもんは、「知ってるー☆ 知ってるー☆」と叫んで、羽ばたきながら滑走していきます。時折滑空するので、すごい速さです。たちまちのうちに、キキ以外の三匹は置いてきぼりにされてしまいました。
モモタとチュウ太が、ミゾもんの匂いとたまにキキが落とすフンの匂いを辿って、山へと戻っていきます。ミゾもんは、空っぽの巣があった場所よりさらに奥の方まで走っていったようでした。
もともと湿気が多い森でしたが、山奥まで来ると小川の周りの大地は湿地帯のようです。
土が洗い流されて残った小川の石石は、生き生きと苔むしていて小さな森と化していました。平瀬になっている所に石の肌が見えているところはほとんどありません。苔は、水中にまでびっしりです。
小川をまたぐ倒木も柔らかな苔に覆われていて、とてもよい踏み心地。よく見ると、苔は小さな杉の木の様に育っています。小さくて可愛いキノコも生えていました。
人が歩いた痕跡はありません。空気はとても澄んでいて、ヒノキの香りがどこからともなく漂ってきます。小川の形も、ちょっとした渓流のように変わってきました。
みんな、ここまで山奥に来るのは初めてでしたが、不思議と怖くありません。
モモタたちが幾つかの小さな滝を登っていくと、とても幻想的な景色が目に飛び込んできました。突然、水の色が翡翠のような緑色に変わったのです。
モモタたちは、思わず感動の声を上げました。
なんて神秘的な光景なのでしょう。川の色は透明なもの、と思い込んでいたアゲハちゃんは、思わず川の上に飛び出して、水面の上を滑るように舞い飛びました。水面の上に走る筋が、あたかもフェアリーテイルのようです。
モモタは水をなめてみます。大変冷たくてまるみを帯びた清涼感が口いっぱいに広がります。とても澄んでいてかすかに甘みがありました。とろみがあって舌を優しく撫でるように包みます。特別な味がしました。人の飲んでいる水は硬くて、口に含んだ水が舌に乗っかって喉をふさぐような感じですが、この水は口内に滲み込むようです。
匂いは無いように思えますが、草木や土の良い香りを凝縮したような雰囲気が、鼻の奥をくすぐります。無香のようでいて無香ではないのでした。大自然の息吹を凝縮したような香りがあるように思えます。
モモタは、そういえば、と顔をあげ、辺りを見渡しました。
何事かと、そのしぐさを見やるチュウ太に、モモタが言いました。
「ここ、とっても空気が澄んでるね。木々や土の優しい香りしかしないもの」
「あら、今頃気がついたの?」とアゲハちゃん。
「うん、そういえば、こんなに生き生きとした気配をいっぱい感じるのに、なんて心地がいいんだろう。熊やヘビだっているだろうし、空にはタカだってるだろうに」
気を抜いたら食べられてしまうかもしれません。ですが、そのことで湧き上がる恐怖よりも、森林が作り出す神聖な空気が心を満たして、恐怖を消し去ってくれているのです。
翡翠緑のところと透明なところが触れ合う境が揺らめいています。あたかも水がないかのように思えるほど透き通っていて、川底の石が見えるほどなのに、翡翠緑と色が混ざっていきません。モモタはとても不思議に思いました。
チュウ太が言いました。
「見ろよ、モモタ。見る角度によって、色が変わるぜ」
ちょろちょろと、高い石と低い石を行き来しながら、立ち上がったりしゃがんだりしているチュウ太が、続けて言いました。
「これは間違いないよ。絶対虹の雫があるよ。そうでなかったら、こんな不思議なことってないだろう?」
興奮気味に自分を見るチュウ太に、モモタも心が躍り始めます。三匹は、渓流の苔むした石の上を歩いて、さらに上流へと登っていきました。
川を挟む背の低い崖の幅が広がっていきます。それに対して川の幅は変わりません。ですから、河原が広くなりました。河原と言っても、石はみんな苔むしていましたから、深緑のじゅうたんが敷き詰められているようです。
下流の方よりもふかふかした苔のじゅうたんです。長い年月を経て、萌芽しては命を全うして枯れ、そして新たな命を育む腐葉土へと帰っていったのです。芽吹いては枯れて芽吹いては枯れて、を悠久の時の中で営んできたものですから、硬い石と表面の苔の間には、薄いながらも栄養たっぷりの土があるのです。ですから、とてもふかふかなのでした。
心なしか、河原の石が大きくなってきた、とモモタは感じました。勘違いではありません。ほどなくして、みるみる間にほとんどの石がイノシシの様に大きなものばかりになりました。
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