猫のモモタ

緒方宗谷

文字の大きさ
393 / 514
モモタとママと虹の架け橋

第二十六話 オオタカのキキとクマハチのミーナ

しおりを挟む
 強い日差しが照りつける天空を切り裂くかのごとく、二羽のタカが舞い飛んでいます。

 とても広い空であるはずなのに、二羽の存在感が凄まじすぎて、他の鳥たちは畑から逃げ出しました。

 かろうじてカラスが残りましたが、みんな二羽のタカを刺激したくないのでしょう。キキたちを気にしながら、隅っこでごはんをついばんでいます。

 タカの女の子は、自分を追って舞い上がってきたキキを見やって言いました。

 「あらあなた、飛べたのね。あの子たちのお友だちのようだから、もしかして飛べないのかしらって思っていたのよ」

 キキは、言いました。

 「さっきなんで笑った。二回も僕を笑っただろう」

 「そうだったかしら。でも、笑うしかないわね。だって猫やネズミなんかと仲良くしているんですもの。食べずにいるなんておかしいものね」

 「モモタたちを悪く言うと、僕が許さないぞ」

 タカの女の子は、ツンとした表情でキキを見やります。

 キキは続けました。

 「見たところタカのようだけど、オオタカではないな。君はいったい何者だい?」

 「わたし? わたしはミーナ。空の王者クマハチのミーナよ」

 キキはびっくりして言いました。

 「王者? 空の王者だって? ちゃんちゃら可笑しいな。だってそうだろう。空の王者はオオタカさ。つまりはこの僕。クマハチなんて聞いたことないな」

 ミーナは笑います。

 「小さな体で元気なこと」

 キキは、ムスッとして言い返します。

 「大きければいいってもんじゃないさ。もしかして君は、オオタカを見たことがないのかい? 僕は、ずっと君が狩りをするところを見ていたけれど、僕には全く敵わないよ。だって、僕よりも飛ぶのは遅いし目もよくなさそうだからね。何より、くちばしだって小さいじゃないか」

 「うふふ、そうね、確かにそうだわ。でも慢心は禁物よ。だってそれは勘違いだもの」

 「勘違い? 僕より早く飛べるって言うのかい?」

 「そうではないわ。あなたがオオタカでいれるのは、逃げ足が速いからよ。わたしたちがいないところに逃げられるから。目がいいおかげで弱く小さいごはんを見つけられるから。だから、わたしたち強者が見向きもしないところでも生きていけるのでしょう?
  そう言う意味では、あなたたちは王者かもね。敗者の中の王者」

 「なにを!」

 キキは、勢いよく上方向に立旋回をしてミーナの上につき、その背に影を落としました。明らかに激怒しています。今まで誰にも見せたことがないほど、全身の羽が逆立っていました。

 キキは、大きく「ヒューーーイーーー」と鳴きました。その声は遠くまで響いて、畑に身をひそめていた小さな動物たちが身を縮ませます。カラスも身をかがめて見上げました。

 「“大”を冠する鷹である僕によくもそんなことを。勝負だ。どちらがすごい獲物を捕まえられるか勝負をしよう」

 「“大”を冠する?」ミーナは一瞬考える素振りを見せて言いました。

 「あはははは、可笑しいわね。あなたが冠しているのは“大”じゃないわ。冠しているのは“蒼”(あお)よ。光の加減で蒼ぽく見えるから、“蒼鷹(オオタカ)”っていうのよ。
  そうかぁ、“大”と勘違いしていたのね。だから自分が王者だって勘違いしちゃったのね」

 キキは、無理に言葉を吐こうとしましたが、なにも出せずにわなわな震えます。

 勝ち誇ったかのようにミーナが言いました。

 「わたし、何度かオオタカを見たことあるけれど、わたしがいる時にオオタカはここには出てこないわ。見てごらんなさい。大空にはわたし以外いないもの」

 言い終わって、ミーナがキキを見やります。
 「いいわ。勝負してあげましょう。あなたにここを飛ぶ資格がないってことを教えてあげるわ」

 そう言って、ミーナは持っていた獲物を持って下りていきます。その先には人間がいました。

 キキは、信じられない光景を目の当たりにしました。なんたることでしょう。高潔たるタカの一種であるミーナが、人間の腕にとまったのです。更には、せっかく仕留めたウサギを丸ごと渡してしまいました。キキには全く信じられません。

 上空を旋回しながらキキが見ていると、男の人は、ナイフでウサギの肉を削ぎ落して、ミーナに与えました。ミーナは、それを足で押さえつけて、美味しそうについばんでいます。

 王者だと豪語していたミーナは、自らの獲物を人間に渡し、小さな肉片を分け与えてもらっているばかりか、それに喜びを覚えているようでした。人間に頭を撫でられて、ミーナは手のひらにすり寄っています。

 しばらくすると、人間はミーナを乗せた手を高々と掲げました。一瞬の静寂が人間とミーナを包みます。そして、二人息を合わせてアクションを起こします。ミーナは再び大空へと飛び立ちました。

 舞い上がってきたミーナに、キキが訊きました。

 「なぜあんな大物を人間にあげたんだ。まさかとは思うけど、人間に飼われているのか?人間に飼われているなんて情けない」

 「飼われているわけじゃないわ。わたしたちは戦友よ。わたしとあの人間で協力し合って、狩りをしているの」

 キキには信じられません。

 天空を駆ける二羽のタカが、それぞれの存在を示すかのごとく声高々に咆哮を上げます。

 鋭い眼光を放つ黄色の虹彩を持つ目に睨まれて、カラスたちも逃げ出しました。キキの旋回範囲が広がって、カラスをも射程に収めたからです。

 カラスはくちばしも大きく爪も鋭いのですが、猛禽類には及びません。同じくらいの大きさのキキを相手にしても、力では全く敵わないのです。

 キキが自らを空の王者と称するだけのことはあります。キキには、カラスすら一撃で仕留めてごはんにしてしまうほどの、圧倒的な力がありました。

 キキとは違う軸で旋回していたミーナは、必死に獲物を選別しています。

 ミーナには勝算がありました。実は、飛び立つ前からすでにある程度の目星がついていたのです。今日一日何度も上空から獲物の位置を観察していましたし、人の腕から飛び立つときには、すでに目標をある程度定めていたからです。

 (ネズミ、トカゲ、カエル、どれも違うわ。――イタチ、あれだわ!)

 ミーナの瞳がイタチを捉えた瞬間、狙いを定めるために小さく左旋回して、照準が定まると同時に、イタチめがけて下降を開始しました。

 悠然と舞うキキは、ミーナの動きを鷹揚に見やってから、前を向きました。そして、突然右上方に弧を描いて舞い上がって背を下にしたかと思うと、ひらりと下方向にUターンして、そのまま地面へと一直線に突入していきます。

 弾丸のようなスピードです。ミーナの耳に風を切る音が聞こえたかと思うと、一瞬にして自分を追い越していくキキの背中が見えました。

 信じられない速さです。モモタたちでさえ、あんなにも早く飛ぶキキを見たことがありません。

 一生懸命走って逃げるイタチですが、もはや運命は決していました。姿を上空から捕えられてはなす術もありません。瞬く間に距離を縮められて、一瞬でキキに鷹掴みにされてしまいました。

 しかも、ミーナがウサギを捕まえた時のようにもんどりうって取っ組み合うことなく、飛行体勢を崩さず、高々と飛翔していきます。

 ミーナは、狩りにおいて全くキキの足元にも及びませんでした。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

たったひとつの願いごと

りおん雑貨店
絵本
銀河のはてで、世界を見守っている少年がおりました。 その少年が幸せにならないと、世界は冬のままでした。 少年たちのことが大好きないきものたちの、たったひとつの願いごと。 それは…

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

ぽんちゃん、しっぽ!

こいちろう
児童書・童話
 タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

美少女仮面とその愉快な仲間たち(一般作)

ヒロイン小説研究所
児童書・童話
未来からやってきた高校生の白鳥希望は、変身して美少女仮面エスポワールとなり、3人の子ども達と事件を解決していく。未来からきて現代感覚が分からない望みにいたずらっ子の3人組が絡んで、ややコミカルな一面をもった年齢指定のない作品です。

処理中です...