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モモタとママと虹の架け橋
第六十話 男親と男の子
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モモタたちは、流氷の大地の隅っこまでやってきました。そばにはクジラの群れが迎えにきています。
流氷の世界ともお別れかと思うと、寒さに凍える真っ白大地も、とても別れがたく思ってしまいます。
アゲハちゃんが感慨深く言いました。
「あーあ、あの美味しいみかんジュースともお別れなのね」
チュウ太も後ろ髪引かれる様子。
「ああ、毎日アーモンド三昧だったからな。お米もおいしかったし、至れり尽くせりだったな」
モモタがニンマリ夢見心地。
「うん、あの鮭美味しかったもんね」
みんな食いしん坊満々です。
そんな中、一羽だけしんみり遠くの山を見ているキキがいました。
(オオワシ親父は今頃何してるんだろうな。まさか僕を探してやしないだろうな。あまり食べなくなってきてるって言うし、僕のことなんて忘れてごはんを食べているといいんだけどな)
「キキ、行きましょうよ」とアゲハちゃんに呼ばれて、キキはみんなの方を振り返りました。アゲハちゃんに続いてクジラの方へと歩んでいきます。
クジラの接氷を待っていると、キキは後ろに静かな気配を感じました。そして、優しく雪を踏む音が聞こえました。
キキが振り返ると、そこにはオオワシ親父が仁王様の様に立っていました。心なしか、キキといた時よりも痩せたように見えます。あまりごはんを食べていないのでしょう。
ついてこないキキに気がついて、アゲハちゃんが振り向いて「ぎゃっ」と叫びます。慌ててモモタの陰に隠れました。モモタたちもびっくりして動けなくなってしまいました。
オオワシ親父が、キキに語りかけました。
「行ってしまうのか、俺の息子よ」
キキは少しの間黙っていました。オオワシ親父は、キキの返答を待っています。
キキが答えました。
「うん、僕はいくよ」
「親父の俺を置いて行くのか?」
「うん、僕にはやらなきゃいけないことがあるからね」
「そのトラ猫のことか?」
「そうだよ」
オオワシ親父が、チラリとモモタを見やりました。
チュウ太が怯えて、震える声を絞り出します。
「あのおやじ、キキをひきとめるために僕らのこと食べてしまうんじゃないか?」
「ええ~?」とモモタとアゲハちゃんがたじろぎます。
オオワシ親父が言いました。
「親不孝者め」
キキは、凛とした姿勢で静かにくちばしを開きました。
「・・・お父さん、僕は親不孝なんかじゃありません。僕はとっても親孝行者ですよ。なんたって大空の覇者の息子ですから」
オオワシ親父が、山の方を振り向きます。
「ここに来るまでに、一羽のオオワシの子が食われていた。あれはお前がやったのか?」
「はい。彼は僕を襲ってきたので、返り討ちにしてやりました。そして有り難く食べたんです。とてもお腹が空いてましたから」
後ろから、チュウ太の「すげー」と言う声が聞こえました。
キキの雄姿を聞いて、オオワシ親父が笑みを浮かべます。
キキは続けて言いました。
「お父さん。僕は、お父さんを超える覇者になるために旅立つんです。どうか、このまま旅立たせてください」
「お前はまだ満足に飛べないだろう。半鳥前のヒナ上りが何を言うのか」
「なによ。あなたがっっモガモガモガ~」とアゲハちゃん。後ろからチュウ太に口をふさがれて喋れません。
チュウ太が小声でたしなめます。
「刺激するなって。食べられちゃうよ」
キキが言いました。
「確かに僕は、お父さんから見たら王者にもなれていないヒナ上りに見えるかもしれません。僕の冠する“オオ”は“蒼”かもしれません。でもいつか、僕は僕が冠する“オオ”を“大”にしてみせます。いいえ、そればかりか“王”にだってしてみせます」
オオワシ親父は、真剣な眼差してキキの話を聞いています。
「お父さん。僕はお父さんの子で唯一残った息子です。兄弟の中で一番強かったから生き残ったんです。そして、お父さんがごはんも食べずに育ててくれたから、同じくらいの大きさのオオワシにも負けないくらいに育ちました。お父さんのおかげです。ありがとうございました」
破顔一笑したオオワシ親父は、大声を張り上げて言いました。
「それでこそ我が息子。それでこそ偉大な俺の息子。だが覚悟しておけ、この世界の大空に俺よりも強いオオワシはいない。ワシミミズクだってクマタカだって俺には敵わない。オジロワシだって俺にとってはごはんでしかないからな。
お前が真の王者になるって言うのならば、最後は俺を倒さにゃならん。その覚悟はあるのか」
キキは、間髪入れずに答えました。
「はい、その覚悟はできています。色々な空の王者を倒して最強になったら、僕は必ずここに戻ってきて、お父さんに挑みます。そして必ず負かせてみせます」
「はっはっはっはっはっ。よく言った、我が息子。それまで俺は、あの覇王の座で待っているからな」
「はい、お父さん。だからお父さん、しっかりたくさん食べて、力をつけておいてください。だって僕に負けた時、お腹が空いて痩せていたから負けたんだ、なんて言い訳されたら堪りませんから」
「ほざけ」とオオワシ親父が笑いました。「だがそうしよう。俺の血を引くお前ならば、もしやがあるかもしれないからな。ここいらの山にいるうさぎもキツネもみんなみんな喰らって待っていてやる。
早く戻ってこい。さもなくば、ここいら辺には俺以外いなくなってしまうぞ」
「はい、お父さん。行ってきます」
「ああ、道中達者でな。武運長久を祈っているぞ」
「お父さんもお達者で」
お互いに鷹揚な笑みを湛え合います。そうしていつまでも別れを惜しみつつ、キキはモモタたちと共にクジラの背中に乗って、南へと旅立ちました。
※※※
ちなみに、北海道が見えなくなってから、チュウ太はキキに訊きました。
「なあ、キキ。君本当にあのおやじに挑む気かい?」
一瞬、キキの顔が強張ります。瞳を閉じて大きく深呼吸して、震える声を抑えて言いました。
「…もちろんさ。僕は…僕は・・・・・・ごくり〈唾を飲む音〉…大空の王者オオタカ(王鷹)だからね。オオワシをも屠る大空の覇者になるのさ」
「みんなで見てやろうぜ」と意味深に笑うチュウ太は、何度もキキに突かれてクジラの上を追いかけまわされましたとさ。
流氷の世界ともお別れかと思うと、寒さに凍える真っ白大地も、とても別れがたく思ってしまいます。
アゲハちゃんが感慨深く言いました。
「あーあ、あの美味しいみかんジュースともお別れなのね」
チュウ太も後ろ髪引かれる様子。
「ああ、毎日アーモンド三昧だったからな。お米もおいしかったし、至れり尽くせりだったな」
モモタがニンマリ夢見心地。
「うん、あの鮭美味しかったもんね」
みんな食いしん坊満々です。
そんな中、一羽だけしんみり遠くの山を見ているキキがいました。
(オオワシ親父は今頃何してるんだろうな。まさか僕を探してやしないだろうな。あまり食べなくなってきてるって言うし、僕のことなんて忘れてごはんを食べているといいんだけどな)
「キキ、行きましょうよ」とアゲハちゃんに呼ばれて、キキはみんなの方を振り返りました。アゲハちゃんに続いてクジラの方へと歩んでいきます。
クジラの接氷を待っていると、キキは後ろに静かな気配を感じました。そして、優しく雪を踏む音が聞こえました。
キキが振り返ると、そこにはオオワシ親父が仁王様の様に立っていました。心なしか、キキといた時よりも痩せたように見えます。あまりごはんを食べていないのでしょう。
ついてこないキキに気がついて、アゲハちゃんが振り向いて「ぎゃっ」と叫びます。慌ててモモタの陰に隠れました。モモタたちもびっくりして動けなくなってしまいました。
オオワシ親父が、キキに語りかけました。
「行ってしまうのか、俺の息子よ」
キキは少しの間黙っていました。オオワシ親父は、キキの返答を待っています。
キキが答えました。
「うん、僕はいくよ」
「親父の俺を置いて行くのか?」
「うん、僕にはやらなきゃいけないことがあるからね」
「そのトラ猫のことか?」
「そうだよ」
オオワシ親父が、チラリとモモタを見やりました。
チュウ太が怯えて、震える声を絞り出します。
「あのおやじ、キキをひきとめるために僕らのこと食べてしまうんじゃないか?」
「ええ~?」とモモタとアゲハちゃんがたじろぎます。
オオワシ親父が言いました。
「親不孝者め」
キキは、凛とした姿勢で静かにくちばしを開きました。
「・・・お父さん、僕は親不孝なんかじゃありません。僕はとっても親孝行者ですよ。なんたって大空の覇者の息子ですから」
オオワシ親父が、山の方を振り向きます。
「ここに来るまでに、一羽のオオワシの子が食われていた。あれはお前がやったのか?」
「はい。彼は僕を襲ってきたので、返り討ちにしてやりました。そして有り難く食べたんです。とてもお腹が空いてましたから」
後ろから、チュウ太の「すげー」と言う声が聞こえました。
キキの雄姿を聞いて、オオワシ親父が笑みを浮かべます。
キキは続けて言いました。
「お父さん。僕は、お父さんを超える覇者になるために旅立つんです。どうか、このまま旅立たせてください」
「お前はまだ満足に飛べないだろう。半鳥前のヒナ上りが何を言うのか」
「なによ。あなたがっっモガモガモガ~」とアゲハちゃん。後ろからチュウ太に口をふさがれて喋れません。
チュウ太が小声でたしなめます。
「刺激するなって。食べられちゃうよ」
キキが言いました。
「確かに僕は、お父さんから見たら王者にもなれていないヒナ上りに見えるかもしれません。僕の冠する“オオ”は“蒼”かもしれません。でもいつか、僕は僕が冠する“オオ”を“大”にしてみせます。いいえ、そればかりか“王”にだってしてみせます」
オオワシ親父は、真剣な眼差してキキの話を聞いています。
「お父さん。僕はお父さんの子で唯一残った息子です。兄弟の中で一番強かったから生き残ったんです。そして、お父さんがごはんも食べずに育ててくれたから、同じくらいの大きさのオオワシにも負けないくらいに育ちました。お父さんのおかげです。ありがとうございました」
破顔一笑したオオワシ親父は、大声を張り上げて言いました。
「それでこそ我が息子。それでこそ偉大な俺の息子。だが覚悟しておけ、この世界の大空に俺よりも強いオオワシはいない。ワシミミズクだってクマタカだって俺には敵わない。オジロワシだって俺にとってはごはんでしかないからな。
お前が真の王者になるって言うのならば、最後は俺を倒さにゃならん。その覚悟はあるのか」
キキは、間髪入れずに答えました。
「はい、その覚悟はできています。色々な空の王者を倒して最強になったら、僕は必ずここに戻ってきて、お父さんに挑みます。そして必ず負かせてみせます」
「はっはっはっはっはっ。よく言った、我が息子。それまで俺は、あの覇王の座で待っているからな」
「はい、お父さん。だからお父さん、しっかりたくさん食べて、力をつけておいてください。だって僕に負けた時、お腹が空いて痩せていたから負けたんだ、なんて言い訳されたら堪りませんから」
「ほざけ」とオオワシ親父が笑いました。「だがそうしよう。俺の血を引くお前ならば、もしやがあるかもしれないからな。ここいらの山にいるうさぎもキツネもみんなみんな喰らって待っていてやる。
早く戻ってこい。さもなくば、ここいら辺には俺以外いなくなってしまうぞ」
「はい、お父さん。行ってきます」
「ああ、道中達者でな。武運長久を祈っているぞ」
「お父さんもお達者で」
お互いに鷹揚な笑みを湛え合います。そうしていつまでも別れを惜しみつつ、キキはモモタたちと共にクジラの背中に乗って、南へと旅立ちました。
※※※
ちなみに、北海道が見えなくなってから、チュウ太はキキに訊きました。
「なあ、キキ。君本当にあのおやじに挑む気かい?」
一瞬、キキの顔が強張ります。瞳を閉じて大きく深呼吸して、震える声を抑えて言いました。
「…もちろんさ。僕は…僕は・・・・・・ごくり〈唾を飲む音〉…大空の王者オオタカ(王鷹)だからね。オオワシをも屠る大空の覇者になるのさ」
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