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モモタとママと虹の架け橋
第九十一話 己の心は誰がためのもの
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第五幕 引きあう赤い糸
(上手にイルカのサンゴ礁、下手にジュゴンの入り江)
(上手にイルカ王、王妃、オーサン、キキ、家臣のイルカたち、
嫁候補の娘たち
下手にジュゴン王、王妃、シルチ、アゲハちゃん、チム,
家臣のジュゴンたち、婿候補ナラユン、マギ、フェーサン)
第一景 オーサンの決意
(上手の段になったサンゴ礁の上部中央にイルカ王、左に王妃、
一番下にオーサン、その右を取り巻くように家臣たち、
家臣の後ろに嫁候補の娘たち)
オーサン(イルカ王を見上げて)
「僕は誰とも結婚しません、既に心はまだ見ぬ君の、
とりことなって久しいのです」
イルカ王「なにバカなことをもうしておるか、フカの谷の向こうには、
イルカの国なぞありはせん」
嫁候補たち
(アルト、メゾソプラノ、ソプラノに別れて、踊りながらオーサンに向かって)
ソプラノ「そうですとも」
アルト 「そうですとも」
メゾソプラノと《アルトとソプラノ》
「いるはずなんて《ありはしません》」
イルカ王「お前が見たのは夢幻ぞ、ここに居並ぶ娘たちを見よ、
この世のものとは思えぬ絶世の美女、
正にお前に相応しい」
オーサン「確かに絡まる海藻、波のいたずら偶然だけれど、
その偶然は奇跡なのです。
まだ死ぬなという運命なのです。
この世は平たい海水の周りを、輪環状に浜珊瑚が囲っています。
その海のほんの小さき一滴だけが、我らが住むこのサンゴ礁。
世界の海は見渡せぬほど、茫漠たる海でできている、
ならばここ以外にイルカがおらぬと、誰が証明できましょう」
(客席に向かって)
「だからこそ僕は行きましょう、再びフカの谷の向こうへ、
その先にいるであろう、まだ見ぬ君のもとへ」
第二景 募る想い
(藻に覆われた潰れた楕円状の大岩の上にジュゴン王と王妃、
下にシルチ、海面付近に王の家臣たち、下手附近に婿候補のナラユン、マギ、フェーサン)
(やや照明落ちる)
シルチ(傍白)
「ああ、あのイルカはどうしているの?
まさかサメにさらわれたなんてことないと思うけど…。
また会いたいわ、あの滑る肌に、また会いたいわ、あの唇に…。
あの方の瞳をまだ知らない、だって天に被せたしゃこ貝の殻が、
真珠を内に隠すように、太陽を覆ってしまったのですもの。
ああ、もしかして恋心かしら…、踊り狂うように躍動する胸、
居ても立っても居られないわ、今すぐあなたに会いたいの」
(下手からアゲハちゃんとチムが入って来て)
アゲハちゃん
「シルチ様、シルチ様、また殿方たちがやってきました、
王様にお呼ばれしたようでした」
チム 「三頭ともにご機嫌斜め、この間のすっぽかし、
まだ根に持っているご様子です」
シルチ 「あの三頭に興味はないわ、とりこになるのはあの方にだけ」
アゲハちゃん
「あのイルカのことをお考えで?」
シルチ 「いっそのことあの大海原へ、旅に立ったらどうかしら」
チム 「バカなことはおやになってシルチ様、ジュゴンの姫がそんなこと、
出来るわけがないでしょう」
シルチ 「あらどうしてそんなこと、どこの誰が決めたのかしら。
わたしたちだって泳げるのだから、
泳いで越えられないこともないでしょう?」
アゲハちゃん
「すてきですわ、シルチ様、イルカだって海の中では、
息をすること叶いませぬから、ジュゴンと大して変わりません。
気を失って流れてくること出来るなら、
泳げないことないでしょう」
(アチコがやって来て、離れたところに隠れて聞いている)
チム 「煽らないで、アゲハちゃん、もし今度賓客をひれ(袖)にしたら、
もう許してくれないでしょう。
四つある浅瀬の中で、この国の浅瀬が一番だけれど、
他の三つがひれを取り合えば、この国よりも大きくなるの」
アゲハちゃん
「シルチ様はどうしたいのです?」
シルチ 「お父様とお母様、二人の行く末が心配です。
だってわたしは一人娘、わたしが婿を取らなければ、
この入り江は誰か別の王のもの。
だけれどわたしは恋い焦がれているの、
あのイルカに寄り添いたいと」
チム 「何をおっしゃいますか、シルチ様、あなたはジュゴン、
あの者はイルカ、種族が全く違うのですよ、
添い遂げられるなど幻想です」
アゲハちゃん
「もし、あのイルカが心の中に、蒔かれた花の種の如く、
シルチ様を慕う想いが、眠っておいでになるのでしたら、
瞳は色鮮やかな閃きに眩んでいることでしょう」
シルチ 「そうね、あなたの言う通り、待ってみましょう、しばしの間、
もしあのイルカがもう一度、フカの谷を越えてくるなら、
御心はわたしのとりこ」
チム 「互いが互いを牢獄の中に、閉じ込めることなど適いましょうか」
シルチ 「その牢獄の内と外を、決めるのは誰てもありません、
決めるのはわたし、そしてあの方」
(暗転)
(上手にイルカのサンゴ礁、下手にジュゴンの入り江)
(上手にイルカ王、王妃、オーサン、キキ、家臣のイルカたち、
嫁候補の娘たち
下手にジュゴン王、王妃、シルチ、アゲハちゃん、チム,
家臣のジュゴンたち、婿候補ナラユン、マギ、フェーサン)
第一景 オーサンの決意
(上手の段になったサンゴ礁の上部中央にイルカ王、左に王妃、
一番下にオーサン、その右を取り巻くように家臣たち、
家臣の後ろに嫁候補の娘たち)
オーサン(イルカ王を見上げて)
「僕は誰とも結婚しません、既に心はまだ見ぬ君の、
とりことなって久しいのです」
イルカ王「なにバカなことをもうしておるか、フカの谷の向こうには、
イルカの国なぞありはせん」
嫁候補たち
(アルト、メゾソプラノ、ソプラノに別れて、踊りながらオーサンに向かって)
ソプラノ「そうですとも」
アルト 「そうですとも」
メゾソプラノと《アルトとソプラノ》
「いるはずなんて《ありはしません》」
イルカ王「お前が見たのは夢幻ぞ、ここに居並ぶ娘たちを見よ、
この世のものとは思えぬ絶世の美女、
正にお前に相応しい」
オーサン「確かに絡まる海藻、波のいたずら偶然だけれど、
その偶然は奇跡なのです。
まだ死ぬなという運命なのです。
この世は平たい海水の周りを、輪環状に浜珊瑚が囲っています。
その海のほんの小さき一滴だけが、我らが住むこのサンゴ礁。
世界の海は見渡せぬほど、茫漠たる海でできている、
ならばここ以外にイルカがおらぬと、誰が証明できましょう」
(客席に向かって)
「だからこそ僕は行きましょう、再びフカの谷の向こうへ、
その先にいるであろう、まだ見ぬ君のもとへ」
第二景 募る想い
(藻に覆われた潰れた楕円状の大岩の上にジュゴン王と王妃、
下にシルチ、海面付近に王の家臣たち、下手附近に婿候補のナラユン、マギ、フェーサン)
(やや照明落ちる)
シルチ(傍白)
「ああ、あのイルカはどうしているの?
まさかサメにさらわれたなんてことないと思うけど…。
また会いたいわ、あの滑る肌に、また会いたいわ、あの唇に…。
あの方の瞳をまだ知らない、だって天に被せたしゃこ貝の殻が、
真珠を内に隠すように、太陽を覆ってしまったのですもの。
ああ、もしかして恋心かしら…、踊り狂うように躍動する胸、
居ても立っても居られないわ、今すぐあなたに会いたいの」
(下手からアゲハちゃんとチムが入って来て)
アゲハちゃん
「シルチ様、シルチ様、また殿方たちがやってきました、
王様にお呼ばれしたようでした」
チム 「三頭ともにご機嫌斜め、この間のすっぽかし、
まだ根に持っているご様子です」
シルチ 「あの三頭に興味はないわ、とりこになるのはあの方にだけ」
アゲハちゃん
「あのイルカのことをお考えで?」
シルチ 「いっそのことあの大海原へ、旅に立ったらどうかしら」
チム 「バカなことはおやになってシルチ様、ジュゴンの姫がそんなこと、
出来るわけがないでしょう」
シルチ 「あらどうしてそんなこと、どこの誰が決めたのかしら。
わたしたちだって泳げるのだから、
泳いで越えられないこともないでしょう?」
アゲハちゃん
「すてきですわ、シルチ様、イルカだって海の中では、
息をすること叶いませぬから、ジュゴンと大して変わりません。
気を失って流れてくること出来るなら、
泳げないことないでしょう」
(アチコがやって来て、離れたところに隠れて聞いている)
チム 「煽らないで、アゲハちゃん、もし今度賓客をひれ(袖)にしたら、
もう許してくれないでしょう。
四つある浅瀬の中で、この国の浅瀬が一番だけれど、
他の三つがひれを取り合えば、この国よりも大きくなるの」
アゲハちゃん
「シルチ様はどうしたいのです?」
シルチ 「お父様とお母様、二人の行く末が心配です。
だってわたしは一人娘、わたしが婿を取らなければ、
この入り江は誰か別の王のもの。
だけれどわたしは恋い焦がれているの、
あのイルカに寄り添いたいと」
チム 「何をおっしゃいますか、シルチ様、あなたはジュゴン、
あの者はイルカ、種族が全く違うのですよ、
添い遂げられるなど幻想です」
アゲハちゃん
「もし、あのイルカが心の中に、蒔かれた花の種の如く、
シルチ様を慕う想いが、眠っておいでになるのでしたら、
瞳は色鮮やかな閃きに眩んでいることでしょう」
シルチ 「そうね、あなたの言う通り、待ってみましょう、しばしの間、
もしあのイルカがもう一度、フカの谷を越えてくるなら、
御心はわたしのとりこ」
チム 「互いが互いを牢獄の中に、閉じ込めることなど適いましょうか」
シルチ 「その牢獄の内と外を、決めるのは誰てもありません、
決めるのはわたし、そしてあの方」
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