猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第九十二話 愛燃える

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 第三景 王たちの主張

(上手で、家臣たちに囲まれたオーサンとイルカ王がもめている)
(下手で、家臣たちに囲まれたシルチとジュゴン王がもめている)

ジュゴン王
    「シルチやシルチ、可愛いシルチ、イルカを婿になど許しはせぬぞ。
     イルカなんぞ、恐ろしい輩、何を考えるか分かったもんじゃない。
     ジュゴンしか認めはせぬぞ、この入り江には、
     ジュゴン以外は住んではならぬ」

シルチ 「ああ、どうして露見したの?…」
(アゲハちゃんとチムを見やる)

アゲハちゃん
    「わたしではございません」
チム             「わたしでもございません」

ジュゴンの家臣たち
(バリトン、テノールに別れて)
バリトン「イルカのことなどお忘れなさい」

テノール(唱和)           「お忘れなさい」

バリトン「心を虫に嚙まれたのでしょう」

テノール(唱和)          「噛まれたのでしょう」

イルカ王「考え直せ、我が子オーサン、ここに控える娘たちは、
     遠いサンゴ礁に住む家族に頼み、
     よこしてもらった選りすぐりの娘、
     美女、才女、歌声、バタフライ、どれをとってもこの娘たちに、
     敵う者などおるまいて」

オーサン「キキ、君はどう思う? 僕は間違っているのだろうか。
     だが胸にあふれるこの想いは、何によって導かれるのか、
     どこかへ手繰り寄せられるように、
     我が身は何かに引き寄せられる。
     あたかもマングローブの絡み合う根に、
     巻かれて地上に引き上げられる獲物の気分だ。
     だがそこには恐怖はないぞ、それこそ僕の自らの意思で、
     行くべきだと心が叫ぶ」

キキ  「君はこの大家族の王の子にして、
     次に王になるたった一人の子なのだから、
     最も優れたる良き娘と結ばれるが必定だろう。
     だがそれは見た目でもなく、胸びれ尾ひれの力ではない、
     優れたるは、お前に愛され、そしてお前を愛すること。
     王者たる君が、今まで受けた帝王学は、
     全ての真心に通じているはず、それを信じて突き進むことが、
     真の王者というものだろう」

ジュゴン王
   「この浅瀬の皆々は、
    お前の幸せを願っているのを知らぬのか?」

シルチ                    「分かっていますわ、
     お父様」

ジュゴン王
    「その気持ちを無下にするなどもってのほかだ、
     私が選んだ候補たちは、向こうの入り江の王子たち。
     その素晴らしき王子たちの輝く魅力に、
     この入り江の誰もがみんな魅了されているのだから、
     誰であっても異は唱えぬ、お前は絶対確実幸せになれる、
     私と民が保障する」

イルカ王「オーサン、我が子オーサンよ。
     もしお前がフカの谷を越えてイルカを探したとして、
     気にいる娘が見つからぬなら、その時お前はいかがするのか?」

オーサン「無理だという言葉など我が口から、
     吐き出されることなどありますまい。
     我が内に湧きあがる熱い息吹は燃え上がり、
     誰にも消せぬ炎と化して、
     この身の外に溢れんとしている」

イルカ王「なんとオーサンらしからぬこと、お前の言葉は波が運んだ、
     民はみな嘆いておるぞ」

オーサン「僕らしいとは、どのような僕です? 
     わが心の欲する愛を抑えることで、
     軽石のおもちゃと成り果てろと仰るのですか?」

シルチ 「わたしは既に幸せなのです、
     お父様とお母様の娘に生まれ愛されて。
     ですがその幸せは、お二人が王であって、
     王妃であるからではありません。
     愛されているからなのでございます、
     愛しているからでございます」

オーサン「我らの家族が栄えているのは、一重に愛に満ち溢れているがゆえ、
     もし我らに愛がなければ、散り散りとなってしまうでしょう」

シルチ 「皆がわたしの幸せを望んでくれていることは、
     生まれた時から存じております。
     ですが、みんなが見ているわたしの幸せ、
     それは幻想の中のわたしの幸せ。
     華やかな祝いの波に揺られることで、
     そう思いたい心に酔いしれているだけ」

オーサン「僕は必ず戻ります、愛する妻を連れてここに」

シルチ 「あのイルカに伝えたい、胸にあふれる思いのたけを」

オーサン「さようなら、父上、さようなら、母上、また会う日まで」
(下手に疾走する)

シルチ 「わたしは探しに行ってみるわ。
     アゲハちゃんたち、その時はお願い、
     たぶんお父様たちは追ってくるはず、
     別の波間を教えてあげて」
(上手に泳いで行く)

(オーサンが上手から、シルチは下手から再登場して、
 上のほうを泳ぎ回っている。
 ジュゴンの入り江は下手に消え、イルカのサンゴ礁は上手に消える)





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