猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第九十三話 運命の愛を求めて  

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 第四幕 逃避行

(フカの谷。薄暗く、サンゴもほとんどない。断崖絶壁の岩が連なり、海底は見えない)

 第一景 フカの谷

(たくさんの様々なサメが泳いでいる。上手オーサン、下手にシルチが泳いでいる)

下手にいる様々なサメたち
    (合唱)
    「ここは弱肉強食、強い俺らが生き残り、弱い魚は死んでいく。
     弱いやつらは入ってこない、だからサメしか住んでいない」

上手にいる様々なサメたち
    (合唱)
    「ここは弱肉強食、強い俺らが生き残り、弱い魚は死んでいく。
     弱いやつらは入ってこない、だからサメしか住んでいない」

下手のひねたカマストガリザメ
    「おい見ろ海面、何かがいるぞ、白い何かが、
     光の加減で煌めく水面?」

上手の甲高い声のシュモクザメ
    (鼻先でオーサンを指して)
    「なんだあいつは、一直線に泳いでくるぞ」

下手のねじれ声のレモンザメ
    「いいや違うぞ、あれはジュゴンだ、しかも極上、
     玉のような娘じゃないか」

上手のくもり声のトラフザメ
    「イルカじゃないか、西のサンゴに住むイルカ」

下手の様々なサメたち
    (合唱)
    「やいやい、ねーちゃん、なにをしている? 
     ここはお前の来るところじゃない、俺たちだからいいものの、
     ホオジロザメなら喰い千切られるぞ。
     へいへい、ねーちゃん、遊んでいこうぜ、
     サメの泳ぎは最高なんだぜ、
     ジュゴンなんかじゃ味わえなぞ、キレキレ泳法」

シルチ 「やめてわたしは行くところがあるの、この谷を越えた先の海」

下手の様々なサメたち
(口々に)
    「フカの谷の向こうには、サンゴ礁が広がっている」

    「そしてその向こうは外洋だ」

    「あんたの行くべきところじゃないぞ」

    「行ってもジュゴンは住んでいない」
    (合唱)       
                    「住んでいない」

上手の様々なサメたち
    (合唱)
    「おい、イルカ野郎、ここをどこだと思っているんだ、
     俺たちサメの縄張りなんだぜ、
     イルカなんかが来ていい場所ではないんだぜ」

オーサン「分かっているさ、だが僕はどうしても、
     ここを越えていかなければならぬ、まだ見ぬ君に出会うために。 
     僕に向かう混じりなき優しさが、海に溶けて肌身に滲みる」

シルチ 「(下手のサメたちに向かって)イルカはいるの?
     群青色の優雅なくちばしを持つ高貴なイルカ」

下手の様々なサメたち
    (合唱)
    「いないぞそんなの、イルカなんて小さな歯しかないのだから」

上手の様々なサメたち
    (合唱)
    「バカな野郎だ、まだ見ないのにいる気でいるのか? 
     妄想爆装笑える野郎だ、ここは通してやんねえぜ」

上手の甲高い声のサメ
    「そら捕まえろ、一頭だけだ、こちとらたくさんいるんだから、
     みんなで噛めばごはんにできるぞ、そら捕まえろ」

下手のひねたカマストガリザメ
    「絶世の美女だ、深い谷に光明を射すような、
     あれは俺がいただく獲物、他の誰にも渡さない」

下手のねじれ声のレモンザメ
    「いいや、俺のさ、俺が独占して連れ帰る、
     真っ暗なねぐらが華やぐぞ」

ジュゴン王
(中央の海面付近を家臣たちと共に泳ぎ回りながら)
    「ああ、シルチ、どこに行ったか教えておくれ、
     可愛い声を聞かせておくれ」

イルカ王
(ジュゴンの真下の海中で、家臣たちを連れて泳ぎ回る)
    「あのたわけ者め、想像すれば分かること、
     王になるのが唯一の幸せ、妃を迎えて平穏に暮らせ。
     オーサン、オーサン、オーサンよ、それが我が意、民の願い」

シルチ 
(下手の海中でサメたちに追いかけられながら)
    「もうだめだわ、追いつかれる…」

オーサン
(上手の海中で、サメたちに追いかけられながら)
    「(サメの)数が多すぎて、どこへ行っても泳ぎ塞がれ…」

(オーサンとシルチが中央で交差する。振り返って)
オーサンと《シルチ》
(同時に)
    「白き天使?」《群青のあなた?》

シルチ 「ああ、生きていらしゃいましたのね、
     またお目にかかりたいと思っておりました」

オーサン「その声は夢に出てきた天使の囁き、いやまさか、
     だが偶然だとしたら、奇跡そのもの、
     それも満天の綺羅星の如くから、
     目当ての君を見つけるほどの」

シルチ 「突然いなくなったから心配しておりましたのよ」
(オーサンのひれに自らのひれを重ねる)

オーサン「この温もり、夢の温もり、よもや君か、
     僕を黄泉の淵から蘇らしたのは」

シルチ 「嵐の翌日、入り江の外で漂っていたあなた、
     助けたるはわたしの真心ただ一つ」

オーサン「暗黒の闇に閉ざされた、死者の世界に光をもたらす、
     その純白の姿、
     その身の白さに導かれたればこそ、今僕はここにいる。
     生きてここにいるのだ君のもとに、その白き輝きが導いたのだ。
     確かに君だ、海水を伝わる、僕が求めた真心は、
     まさに君から溢れたるもの」
(シルチと共に回転しながら)
    「しかし何たることだ、イルカでないとは…。
     だがそれでもかまわない、僕は…。
     …いやまずはじめに名乗らなければなるまい、僕の名はオーサン、
     フカの谷を西に越えたところにあるサンゴ礁に住む、
     大きなイルカの家族を束ねる王の息子」

シルチ 「わたしはシルチ、
     フカの谷を東に越えたところにある四つの浅瀬で、
     一番大きな浅瀬に住み、多くのジュゴンを束ねる王の一人娘」

オーサン「僕は君を愛している」

シルチ 「わたしもあなたを愛しているわ」

オーサンと《シルチ》 
    「僕《わたし》たちが、再会できたのは運命、
     互いの違いを知ってもなお、惹かれあうならきっと、
     僕ら《わたしたち》は結ばれる定めにあるのだ《のよ》」

シルチ 「勘違いなんかではないわ、わたしは一目ぼれではないの、
     あなたを介抱する間に、芽生えて育った気持ちなの、
     あなたが去ってからもずっと、膨れて押さえられない…」

オーサン「僕だって同じさ、気を失っていたにも関わらず、
     白き天使として君が、まぶたの裏までやってきて、
     脳裏に姿を焼きつけた」

オーサンと《シルチ》
    「愛しているよ《愛しているわ》」
    (合唱)
    「一生一緒に…運命を共に」










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