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モモタとママと虹の架け橋
第百三十二話 暗黒に閉ざされた漁村
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恐怖の余韻が尾を引いて熱が冷めやらぬ中、泣き叫んで離れるのを嫌がる亜紀ちゃんをなんとかなだめたママが、避難袋を探しに行きます。一人残された亜紀ちゃんは、割れるよな叫び声を発し続けました。
すぐに戻ると言って寝室から出ていたママでしたが、なかなか戻ってきません。泣きじゃくる亜紀ちゃんをなだめてあげようと、モモタがそばに寄りそい、頬を伝う涙をなめてやります。亜紀ちゃんは、モモタを強く抱きしめて布団をかぶりうずくまってしまいました。ですが急に「そうだ」と叫んで立ち上がります。
亜紀ちゃんは、モモタを抱えたまま部屋を出て、庭に面した廊下に向かいました。
辺りには家具や調度品が散乱しています。その上を裸足で駆けていきました。割れたガラスも落ちていましたが、幸い踏まずに済んだようです。
倒れていたタンスに乗って背伸びをした亜紀ちゃんは、一生懸命外を見やっていました。灯台を見ようとしているのでしょう。散らかった物が何であるかくちばしでつついて慎重に確認しながら、カンタンが亜紀ちゃんの横に立って一緒に外を見やります。
「あっ、灯台の光がついてないよ」
簡単の声にみんなはびっくりして、タンスの上に上ります。
「本当だ」とキキが言いました。柱に爪を立てて止まったキキは、海が暗闇に沈んでしまったことをモモタに教えてやります。
チュウ太が言いました。
「亜紀ちゃんパパはどうするんだろう。もう帰ってきてるのかな?」
「そうと祈るしかないわね」アゲハちゃんが、元気なさげな声で答えます。
しばらく黙って外を見ていた亜紀ちゃんは、意を決したように唾をのみ込んで庭に背を向けました。タンスから飛び降りると、すぐに寝室へ戻って押入れを開けます。お洋服を引っ張り出すと、急いで着替えていきました。
そして、可愛いポーチから桃色のレインコートを取り出して、その上に纏います。
「まさかっっ…」と、アゲハちゃんが亜紀ちゃんに声をかけました。「この嵐の中お外に出るわけじゃないでしょう?」
やめるように説得しますが、亜紀ちゃんは意に介しません。
チュウ太も止めに入ります。
「よしなよ亜紀ちゃん。こんな雨の中でお外になんか出たら溺れちゃうよ」
モモタも「にゃあにゃあ」鳴いて亜紀ちゃんを思いとどまらせようとしますが、効果はありません。そこでモモタはママのところに行って、亜紀ちゃんを止めてくれるように頼みます。ですが、ママもそれどころではありません。避難袋が見つからなくて焦っているようでした。
「モモター! 亜紀ちゃんがっっ」
キキが叫びます。
モモタは、急いで寝室のほうに戻ると、亜紀ちゃんは廊下を走っていって玄関に座り、可愛い赤い長靴を履き始めていました。手には大きくて寸胴な懐中電灯が握られています。
モモタが強い口調で言いました。
「だめだよ亜紀ちゃん! こんな嵐の中一人でお外に出たら、本当に死んでしまうよ」
亜紀ちゃんは、熱にうなされたように繰り返し独り言を呟いていました。「パパが死んじゃう…パパが死んじゃう…」、と。
玄関の硝子戸を開けた亜紀ちゃんは、宙を見上げて一瞬たじろぎました。もはや雨ではありません。目の前に滝があるかのようです。まさに水の壁としか言いようがありません。しかも全く前が見えませんでした。雨の壁に加えて、地面を強く打ちつける雨粒が飛沫となって沸き立ち、霧のように充満してていたからです。
ですが、亜紀ちゃんは歯を食いしばって一度鼻で大きく息を吸うと、胸に懐中電灯を抱えて横殴りの雨の中へと走り出しました。
「亜紀ちゃーん」モモタが叫びます。堪らず玄関を下りました。それと同時に、アゲハちゃんがモモタの胸にとまります。
「アゲハちゃん・・・」モモタがアゲハちゃんを見つめました。
見つめ返したアゲハちゃんが、微笑んで言います。
「とめたりしないわ。とめてもモモちゃんは絶対行っちゃうもの。それに、モモちゃんなら亜紀ちゃんを助けられると思うわ」
「でも、アゲハちゃんは待っていた方がいいよ。こんなに強い雨の中じゃ、翅が濡れちゃうでしょう?」
「大丈夫よ。いつもたくさんの鱗粉でお手入れしているもの。ちょっとやそっとの雨なんて怖くないわよ」
それを聞いたモモタは、微かに笑って頷きます。アゲハちゃんも笑って頷きました。
モモタはすぐに玄関を飛び出しました。とても激し暴風雨でしたが、モモタにはアゲハちゃんを守りきる自信がありました。屋久杉の森では、一晩こんな嵐に見舞われて耐え抜いたのですから。
亜紀ちゃんのお家は坂の中腹にありましたから、上から流れてくる水が川のようになっていました。モモタは、強く踏ん張っていないと流されてしまいそうです。
モモタを放っておくことが出来ずに、キキたちも外に飛び出してきました。この雨の中では、チュウ太は簡単に流されてしまいますから、カンタンの背中に乗っています。
停電を起こした漁村には、全くといっていいほど明かりがありません。みんなには、走る亜紀ちゃんの姿が見えていません。夜目の利くモモタだけが、その双眸に亜紀ちゃんを捉えることが出来ました。
モモタは、「こっちっ」と言って走り出します。
亜紀ちゃんは、寄せては返す荒れ狂う波が砕け散る港へとやってきました。そして、岸壁から灯台のほうを見やります。
防波堤によってコの字型に囲まれた港の外の海は、竜蛇が絡み合って悶えているかのように混沌としていました。時折大きな波がやってきては、防波堤にぶつかって、その上を流れて内側に落ちていきます。
亜紀ちゃんの足はレインコートで見えていませんでしたが、とても震えていることでしょう。その振動がモモタにも伝わってきて、とても強い恐怖と闘っていることが窺えました。
すぐに戻ると言って寝室から出ていたママでしたが、なかなか戻ってきません。泣きじゃくる亜紀ちゃんをなだめてあげようと、モモタがそばに寄りそい、頬を伝う涙をなめてやります。亜紀ちゃんは、モモタを強く抱きしめて布団をかぶりうずくまってしまいました。ですが急に「そうだ」と叫んで立ち上がります。
亜紀ちゃんは、モモタを抱えたまま部屋を出て、庭に面した廊下に向かいました。
辺りには家具や調度品が散乱しています。その上を裸足で駆けていきました。割れたガラスも落ちていましたが、幸い踏まずに済んだようです。
倒れていたタンスに乗って背伸びをした亜紀ちゃんは、一生懸命外を見やっていました。灯台を見ようとしているのでしょう。散らかった物が何であるかくちばしでつついて慎重に確認しながら、カンタンが亜紀ちゃんの横に立って一緒に外を見やります。
「あっ、灯台の光がついてないよ」
簡単の声にみんなはびっくりして、タンスの上に上ります。
「本当だ」とキキが言いました。柱に爪を立てて止まったキキは、海が暗闇に沈んでしまったことをモモタに教えてやります。
チュウ太が言いました。
「亜紀ちゃんパパはどうするんだろう。もう帰ってきてるのかな?」
「そうと祈るしかないわね」アゲハちゃんが、元気なさげな声で答えます。
しばらく黙って外を見ていた亜紀ちゃんは、意を決したように唾をのみ込んで庭に背を向けました。タンスから飛び降りると、すぐに寝室へ戻って押入れを開けます。お洋服を引っ張り出すと、急いで着替えていきました。
そして、可愛いポーチから桃色のレインコートを取り出して、その上に纏います。
「まさかっっ…」と、アゲハちゃんが亜紀ちゃんに声をかけました。「この嵐の中お外に出るわけじゃないでしょう?」
やめるように説得しますが、亜紀ちゃんは意に介しません。
チュウ太も止めに入ります。
「よしなよ亜紀ちゃん。こんな雨の中でお外になんか出たら溺れちゃうよ」
モモタも「にゃあにゃあ」鳴いて亜紀ちゃんを思いとどまらせようとしますが、効果はありません。そこでモモタはママのところに行って、亜紀ちゃんを止めてくれるように頼みます。ですが、ママもそれどころではありません。避難袋が見つからなくて焦っているようでした。
「モモター! 亜紀ちゃんがっっ」
キキが叫びます。
モモタは、急いで寝室のほうに戻ると、亜紀ちゃんは廊下を走っていって玄関に座り、可愛い赤い長靴を履き始めていました。手には大きくて寸胴な懐中電灯が握られています。
モモタが強い口調で言いました。
「だめだよ亜紀ちゃん! こんな嵐の中一人でお外に出たら、本当に死んでしまうよ」
亜紀ちゃんは、熱にうなされたように繰り返し独り言を呟いていました。「パパが死んじゃう…パパが死んじゃう…」、と。
玄関の硝子戸を開けた亜紀ちゃんは、宙を見上げて一瞬たじろぎました。もはや雨ではありません。目の前に滝があるかのようです。まさに水の壁としか言いようがありません。しかも全く前が見えませんでした。雨の壁に加えて、地面を強く打ちつける雨粒が飛沫となって沸き立ち、霧のように充満してていたからです。
ですが、亜紀ちゃんは歯を食いしばって一度鼻で大きく息を吸うと、胸に懐中電灯を抱えて横殴りの雨の中へと走り出しました。
「亜紀ちゃーん」モモタが叫びます。堪らず玄関を下りました。それと同時に、アゲハちゃんがモモタの胸にとまります。
「アゲハちゃん・・・」モモタがアゲハちゃんを見つめました。
見つめ返したアゲハちゃんが、微笑んで言います。
「とめたりしないわ。とめてもモモちゃんは絶対行っちゃうもの。それに、モモちゃんなら亜紀ちゃんを助けられると思うわ」
「でも、アゲハちゃんは待っていた方がいいよ。こんなに強い雨の中じゃ、翅が濡れちゃうでしょう?」
「大丈夫よ。いつもたくさんの鱗粉でお手入れしているもの。ちょっとやそっとの雨なんて怖くないわよ」
それを聞いたモモタは、微かに笑って頷きます。アゲハちゃんも笑って頷きました。
モモタはすぐに玄関を飛び出しました。とても激し暴風雨でしたが、モモタにはアゲハちゃんを守りきる自信がありました。屋久杉の森では、一晩こんな嵐に見舞われて耐え抜いたのですから。
亜紀ちゃんのお家は坂の中腹にありましたから、上から流れてくる水が川のようになっていました。モモタは、強く踏ん張っていないと流されてしまいそうです。
モモタを放っておくことが出来ずに、キキたちも外に飛び出してきました。この雨の中では、チュウ太は簡単に流されてしまいますから、カンタンの背中に乗っています。
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モモタは、「こっちっ」と言って走り出します。
亜紀ちゃんは、寄せては返す荒れ狂う波が砕け散る港へとやってきました。そして、岸壁から灯台のほうを見やります。
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