ミリしらな乙女ゲームに転生しました。

猫宮乾

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【十三】帰宅して考える

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 叔父様の家から帰宅する頃には、街灯がついていた。
 エルディアス侯爵家の馬車から降りるのを、グレイルが手伝ってくれた。地に足をついた時、私の載せた指先をグレイルがギュッと握った。その感触に顔をあげると、グレイルが優しい顔をして、私を見て笑った。

「有難う、リリア嬢」
「こちらこそ、今日はありがとうございました」

 私が答えると、グレイルが静かに頷いた。そして私の手を持ち上げて、じっと見た。

「愛している」

 そのまま手の甲に口づけられて、私は目を見開いた。一瞬触れただけの唇の感覚に、ビクリとしてしまう。それからすぐにグレイルは手を離した。

「また月曜日に、学園で」
「え、ええ……また」

 ぎこちなく頷いてから、私は家へと入る事にした。出迎えてくれた家令や執事の背後に隠れるようにしながら、チラリと振り返れば、グレイルが馬車に乗り込んでいた。そして帰っていく馬車をぼんやりと見送ってから、私もクリソコーラ侯爵家の中に入った。

 ――緊張した!
 自室までまっすぐ戻ってから、私は一気に赤面して、胸元の服を押さえた。本日の出来事を一気に回想し、本当に婚約したんだなぁと考える。勿論、これからヒロインが現れたり、私が護衛だと伝える事で、この結婚の話は無くなるかもしれないが、それは仕方無いだろう。

 この日は、侍女に手伝ってもらってドレスを脱いでから、入浴後すぐに私はベッドに入った。そして翌日の日曜日もぐっすりと眠った。この王国では、土曜日と日曜日は休日だ。時間も二十四時間であるし、そういう部分は、ほとんど転生前の知識の部分と変わらない。太陽と月もあるし、やはりここはゲームの世界なのだろうなと漠然と思う。違いは、科学の代わりに、便利な魔術や魔導具がある事くらいだろうか。


 こうして週末を過ごし、月曜日、私はいつもの通り学園へと向かった。
 そして席につくと、セレフィ様が私の所まで歩み寄ってきた。

「ど、どうでしたの? ど、どうでしたか? その、ど、どうだったのですか?」

 その言葉に、教室中の視線がこちらに集中したのも感じた。セレフィ様も含めて、皆が私を見て、目を輝かせている。

「……」
「リリア。婚約したのですか?」
「……はい」

 静かに頷くと、セレフィ様がギュッと目を閉じてから小さく頷いた後、目を開けて笑顔になった。

「おめでとうございます。必ず幸せになるように。グレイル卿が何かしたら、私に言いつけて良いですからね。懲らしめておきます!」

 セレフィ様の声に気恥ずかしくなり、私は俯いて小さく頷いた。まぁ色々条件もある婚約であるし、無事に結婚できるかは、まだ分からないのだけれど……悲観的になっていても仕方がないだろう。考えなければならない事は沢山あるが、出来る範囲で頑張っていきたいと思う。

 予鈴がなったので、セレフィ様が自分の席へと戻っていった。
 こうしてこの日も講義が始まった。

 放課後になってから、セレフィ様と二人で生徒会室へと向かう。すると既に、グレイルやエドワード殿下が来ていた。先週までと特に変化のない状況なのだが、グレイルが視界に入った瞬間、無駄にドキリとしてしまった。

 こちらに気づいたグレイルが顔をあげる。視線が合った瞬間、グレイルが柔らかく微笑んだ。これまでグレイルの顔について、私は、さすがは攻略対象だなぁという観点で格好良いと思う事しか無かったが、改めて見ると惹きつけられる。グレイルの容姿が整っている事に気づいてしまった。仕事柄、美醜ではなく、気を配る対象として人の顔を覚える事ばかりだったから、これまで着目してこなかった観点だ。

「リリア……照れていないで、行きましょう」

 セレフィ様に軽く背を押されたので、慌てて私は窓際の自分の席へと向かった。そして書類を挟んでグレイルの正面に座る形となった。生徒会室は広いのだが、仕事は大体このテーブルの上で片づけている。しかし私は照れていたのか、確かに今も頬が熱い。

「まぁなんだ、おめでとう。リリア先輩」

 エドワード殿下が、私が座るとすぐにそう言った。

「……ありがとうございます」

 そんなやりとりをしてから、この日も生徒会の仕事を始めたのだが、なんだか意識しすぎなのが自分ばかりのような気がして、私は終始俯いていた。グレイルには余裕があるようにしか見えないし、本当に週末が夢だったような気分だった。

 そうやって意識していると、そこまで会話を交わすでもなく、この日の生徒会の仕事は終了した。なので、下校するため、校門へと向かって四人で歩いた。別段珍しい事ではないのだが、本日はいちいち緊張していた自分が情けない。私には余裕が全くない。

 このようにして、私は学園から帰宅した。

「……」

 今日はあまり、グレイルとは話せなかった。帰りの馬車の中でそんな事を考えた私は、帰宅後に気が付いた。基本的に私から話しかける事はあまりないので、グレイルが話しかけてくれないと、会話が生まれないからだ。今日は、あまりグレイルが私に話しかけなかったから、会話が生まれなかったんだ……そして、それが寂しかった。

「……私も話題を探さないと」

 そうすれば、もっと話ができるだろう。一人自室で鏡に向かい、何度か頷きながら決意したが――一体私は、いつからこんなに好きになってしまっていたのだろうか……。

「……」

 夜会までは、あと二週間ほどだ。今週末は、受理された婚約同意書の控えを叔父様がエルディアス侯爵家に受け取りに行くという話だから、特にプライベートでグレイルと食事をする予定などは無い。夜会同判時のドレスの色の打ち合わせなどは、既に先日の食事の際に行っているから、今週末は、私にはそちらの用意がある。とすると、学園で生徒会の仕事の傍らに言葉を重ねる事で、親睦を深めて距離を縮めていくしかないのだなと改めて気づいてしまった。グレイルが私の何処を好きになってくれたのかは不明だけど、今は私の方もきちんと好きになった以上、色々な話をして、もっともっと親しくなりたい。

 そんな事を考えながら、この日は就寝した。


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