ミリしらな乙女ゲームに転生しました。

猫宮乾

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【十四】夜会デビュー

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 夜会当日が訪れた。迎えに訪れた馬車で、グレイルにエルディアス侯爵家へと案内されたのは、お茶の時間帯を少し過ぎた頃の事だった。夜会の準備は終わっているらしく、現在午後五時……私は、グレイルと共に、夜会が開催される二階の広間の扉の前に立っている。緊張しないはずがない。同時に婚約発表も行われるのだという。

「行こう」

 背中に軽く触れられて促されたので、私は静かに頷いた。段取りとしては、まずはエルディアス侯爵夫妻であるグレイルのご両親に挨拶をする事になっている。まだ招待客の姿はあまりない。中へと入り、私はすぐにグレイルのお母様と宰相閣下の姿に気が付いた。

「父上、母上。ご紹介致します。クリソコーラ侯爵家のリリア嬢です」

 二人の正面で歩みを止め、グレイルが私を一瞥してから、そう述べた。深く頭を下げ、私は挨拶をする。

「お初にお目にかかります。リリア・クリソコーラと申します」
「気を楽にすると良い」
「ええ。旦那様の言う通りです」

 声がかけられたので、私は視線を正した。正面には、厳しいと評判であるが優しそうな笑顔を浮かべている宰相閣下と、その隣で柔和に微笑しているエルディアス侯爵夫人の姿がある。ある種の威厳のようなものを感じて、私は気圧されそうになった。二人はじっと私を見てからそれぞれ頷き、続いてグレイルを見た。

「グレイル、リリア嬢に失礼が無いように」
「リリアさん、グレイルはまだまだ未熟ですが、どうぞよろしくお願いいたします。エルディアス侯爵家は、あなたを歓迎します」

 穏やかな声音に、私は曖昧に頷いた。未熟なのは私の方だと思うが、歓迎という言葉を聞いて、少しだけ緊張が解けた。その後、一言二言と会話をしてから、次第に招待客達が到着したという話を聞き、私達は挨拶に備えて、視線を扉へと向けた。

 叔父様夫妻が訪れる頃には、私は挨拶にも少しだけ慣れてきていた。
 ほとんど私以外の三名が対処してくれるため、私は名乗ってお辞儀をするだけで良かった。自発的に話す機会はほとんど無かった。

 こうして午後六時半になった時、本格的に夜会が始まった。一流の音楽家達が、楽器を奏でる中で、壁際のテーブルに並べられた料理やアルコールのグラスを参加客が手に取っている。この王国では、二十歳から飲酒が解禁されるので、私やグレイルが手に持っているのは、ノンアルコールのシャンパンだ。冒頭に宰相閣下から挨拶があり、グレイルが宰相補佐官となった事についてと、私との婚約についての話があった。続いてグレイルが挨拶をする番になり、そこでも私は紹介された。それらが済んでから、簡単なダンスが始まる事となった。幼少時からダンスも習っていたので、なんとか私は踊る事が出来た。グレイルのリードが巧みだったから、ほとんど困る事は無かった。

 ダンスをしていて思うのは、体が熱くなるという点だ。緊張しながらも集中してミスが無いように踊る内、ごっそりと体力が持っていかれたような気分になった。二曲連続で踊ってから、三曲目の時には、思わず視線でグラスを探してしまった。すると気づいた様子で、グレイルがダンスの輪から外れてくれて、私を促し壁際まで下がると、飲み物を渡してくれた。

「ありがとうございます」

 冷えているシャンパンが美味だ。魔導具で温度管理がなされている。

「いいや。こちらこそ、ありがとう」
「え?」
「リリア嬢と踊る事が出来て、幸せでならないんだ。ダンスはそう好きなわけでは無かったんだが、リリア嬢とだったら嫌いじゃない」

 そう言って笑ったグレイルの表情に惹きつけられて、私は思わず口元を綻ばせた。

「私もダンスを夜会で踊るのは初めてですが、グレイル卿が一緒で本当に良かったです。楽しいものですね」

 隣にグレイルがいてくれたら、今後も夜会を楽しむ事が出来そうだと漠然と思う。
 その後、時折挨拶やお祝いの言葉をかけられた際には対応し、合間に何度かダンスをし、私とグレイルは夜会を楽しんだ。

 帰りの馬車に乗る頃には、熱気で暑さを感じていた。
 グレイルが送ってくれる事になったので、夜会終了後、二人で馬車に乗り込む。すると、クリソコーラ侯爵家に到着する直前に、グレイルに言われた。

「リリア」
「はい」
「――と、呼んでも構わないか?」
「え? ええ」
「リリア」
「はい」
「悪い、呼んでみただけだ」

 照れくさそうに笑っているグレイルを見ていたら、私まで照れてしまいそうになった。この日から、私はグレイルに呼び捨てで呼ばれるようになった。馬車が停車すると、グレイルが先に降りてから、私に手を差し出した。

「グレイル卿、今日はありがとうございました」
「俺の方こそ、礼が言いたい」

 そんなやりとりをしてから、グレイルは馬車に乗り込んだ。私は家令と共に、馬車を見送る。あっという間の時間だった。楽しくなかったと言ったらうそになる。私としては、夜会デビューは成功したと考えながら、目を伏せて静かに両頬を持ち上げた。



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