ミリしらな乙女ゲームに転生しました。

猫宮乾

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【十五】夏休みの開始

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 その内に、夏休みが訪れた。今年、私の予定表には、旅行という名目の仕事と、本当の旅行が入っている。仕事の方は、ついにセレフィ様のお見合いが決定し、その付き人の一人として、隣国まで出かけるというものだ。

 セレフィ様がご婚約なさる予定の相手は、隣にあるサリマアベル王国の第一王子のリュフェル殿下だ。サリマアベル王国は、友好的な隣国で、規模は小さいが大切な同盟国だと聞いている。現地での密やかなる護衛に最適なのが私という状況だ。

 もし私がグレイルと婚約していなかったならば、ご成婚後は、私もサリマアベル王国に何らかの形でついていった可能性が非常に高い。多分今後、グレイルとの話が立ち消えた時なども、私は恐らく隣国に行く事になるだろう。

 さてもう一つの旅行の方であるが、そのグレイルと出かける。エルディアス侯爵領地の一角にある別荘へと招かれている。グレイルのお母様の、メアリ様のお招きだから、二人旅というわけではないが、正直少し緊張している。

 本日は、近衛騎士団としての打ち合わせが内々にあるため、私は王宮に来ている。万が一誰かに見られた場合は、叔父様の忘れ物を届けに来たと答える事に決まっている。事情を知っている近衛騎士や、零部隊所属だが表向きは侍女として王宮や後宮に仕えている者も多いので、窮地の場合はフォローを入れてもらえる事もある。近衛騎士には階級があって、それは爵位とは異なる独自の制度だ。

 叔父様の執務室に向かうと、顔をあげた叔父様が微笑した。

「座ってくれ」
「失礼いたします」

 頷いて私が長椅子に座ると、立ち上がった叔父様が部屋を施錠した。

「分かっているとは思うが、隣国は――」

 こうして打ち合わせが始まった。魔獣被害が、この王国よりも多い事などが主要な話題だった。というのは、魔獣というのは、空間の歪みを通り抜けて出現するのだが、隣国にはその歪みが生じやすいからなのだという。この設定が乙女ゲーム由来のものなのかを私は知らないが、もしそうだとするならば、恐らくRPG風の戦闘システムがあったのではないかと思う。

「以上だ。何か質問は?」
「ありません」
「そうか。ではもう一つの旅行の方でいくつか」

 叔父様が頷いてから話を変えた。頷いて、私は次の言葉を待つ。

「単刀直入に言うが、婚約をしたとは言え、まだ学生の身でもあるし、結婚するまでは節度ある行動をするように。メアリ様がご一緒ならば問題は起きないかとは思うが、気を付けるように」

 それを聞いて、私は頷いた。

「失礼の無いよう、慎んだ行動をしたいと思います」
「うん……そうだな」

 その後は、エルディアス侯爵領地へ行く際に持参する土産の品についての話などをして、この日の話し合いは終了した。

 退室してから、私は久しぶりに訪れた王宮の回廊をゆっくりと歩いていた。すると王宮の玄関の所に、グレイルが立っていた。こちらに気づいた様子はなく、他の宰相補佐官と共に、出かけていく宰相閣下をお見送りしている様子だった。それが済んだ後は、年上の同僚や部下に、何事か指示を出しているのが分かった。私は気づくとぼんやりと立ったままで、その光景を見ていた。学園以外で顔を合わせた事はほとんど無いので、働いている姿が新鮮に見える。いつもよりも、理知的な目をしている気がした。私に対しては圧倒的に笑顔が多いグレイルだが、真剣で真面目な表情も……私は好きだ。その時、何気ない様子で、グレイルがこちらへと視線を流した。そして目を見開いた。隣にいた同僚達に声をかけてから、グレイルが歩み寄ってくる。

「リリア」
「ごきげんよう、グレイル卿」
「どうしてここに?」
「叔父様の忘れ物を届けに来ました」
「そうだったのか。俺に会いに来てくれたのかと舞い上がりそうになった」

 グレイルが真面目な顔でいうものだから、私は思わず笑ってみせた。

「お仕事の邪魔をするような事は致しません」
「……ああ。確かに、リリアがそばにいたら、仕事の効率は落ちそうだ。リリアの事を考えるのに忙しくて、手が止まるかもしれない。今から帰る所か?」
「ええ」
「俺も今日の仕事は終わった所なんだ。良かったらその、この後お茶でもどうだ?」
「――よろしければ、ご一緒させて下さい」
 私が頷くと、グレイルの表情が明るくなった。

「他の者に伝えて、荷物を取ってくる。少し待っていて欲しい」
「分かりました」

 こうして、私はそのまま玄関でグレイルを待っている事になった。グレイルはすぐに戻ってきた。私はその間に、クリソコーラ侯爵家の馬車を帰しておいた。そして合流後、エルディアス侯爵家の馬車に、グレイルにエスコートされて乗り込んだ。

 四季がある王都は、今は、とても暑い。これからもっと暑くなる。
 馬車に乗り込むと、温度調節の魔導具の効果で、中が冷えていた。私の隣に並んで座ったグレイルは、御者に行先を告げてから、微笑した。

「学園が無いと会える時間が極端に減るから、本当に今日は僥倖だ。会いたかった」
「……私も、お会いしたかったです」
「これからは、いつ会えるかと、きちんと聞いておくと決めた。お互いの都合が良い日に、約束をしておこう」

 そんな話をしながら向かった先は、私も聞いた事のあるカフェだった。最近流行しているそうで、ケーキが評判だ。セレフィ様が、食べたいけれど気軽に行って騒ぎを起こすわけにもいかないとして、内々にお取り寄せをしていた事を思いだす。それもあってか、王室御用達の看板が出ていた。店内は混雑していたが、特別室が空いているとの事で、私達はそこに案内された。

「七月中は、忙しいと話していたな」

 席についてすぐ、仕切りなおすようにグレイルが言った。頷いた私は、隣国に行く話を伝えた。

「セレフィ様もとうとうご婚約なさるのか」
「ええ。沢山の候補のお相手がいたそうですが、最終的にはセレフィ様ご自身がお決めになったと伺っております」
「――ああ。というよりも、セレフィローズ王女殿下のたっての希望だ。先方が承諾しなかったため、話がまとまらず、今まで決定されなかったともいえる」
「?」
「サリマアベル王国は国内の情勢が不安定な部分があるそうでな。人為的に時空の歪みを出現させ、王家の転覆を狙って、魔獣災害を引き起こす集団がいるという話がある。だから、他国の後ろ盾よりも国内の基盤づくりを強固にすべきだと主張している者が王城にいたと聞いている」
「……私が、今回の旅行の間、しっかりとセレフィ様をお守りいたします」
「俺としては、リリアには自分を大切にしてもらいたい限りだ。危険が迫ったら、逃げてくれ。尤も、王城は安全だろうし、道中も滞在中も近衛騎士が共にいるというから、過度に不安に思う必要は無いが」

 その近衛騎士の一人も私なのだが、零部隊に関しては内密なので、私は頷くにとどめた。
 そこへ、ケーキと飲み物が運ばれてきた。チョコレートのケーキを見て、思わず目を輝かせる。この日二人で食べたケーキは、非常に甘い味がした。


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