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第二章

カレンと爺さん2

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「覚醒したって言っても自覚もあんまりないしよぅ」

 ツンと唇を尖らせて不満を表してみる。
 覚醒したような感覚はあるけれどあまり能力そのものに実感がない。

 波瑠も覚醒したことは感じて少しの変化は感じていたが実際に目覚ましい能力の向上はなかった。
 当然それは能力がGから始まるためである。

 体軽い感じと波瑠は言っていたけどそれは速度タイプだったからかもしれない。
 カレンは覚醒してもそんなに違いがないなと思っていた。

 ただやっぱりレベルを上げると変わってくる。
 能力値が上がるまでは我慢である。

「はっ!」

 圭は剣を振り下ろしてモンスターの首を切りつける。
 イノシシのような姿をしたモンスターが首から血を噴き出させながら悲鳴を上げて倒れる。

 このモンスターは名前も単純ビッグボアといい、その肉は普通に食用としても食べられる。
 叫ぶイノシシとそんなに変わらないのだけどこちらはうるさく叫ぶことはない。

 普通だったら死体を台車なりに乗せて持ち帰るのだけど今回はそう出来ない
 今は毒を使ってカレンのレベル上げもしているので毒に冒された肉は食べられず捨て置くしかないのである。

 圭は分厚めの皮の手袋をつけてナイフを手に取った。
 肉は食えないがモンスターの魔石は取れる。

 解体用の手袋は血や油対策であるが毒の対策にもなる。

「ん? ……夜滝ねぇ、避けて!」

「えっ、うわぁ!」

「むっ!」

 腹を切り開いて魔石を探しているとなんだか嫌な予感がした。
 ふと振り返ると夜滝の後ろからビッグボアが走ってくるのが見えた。

 夜滝が転がるようにしてビッグボアをかわすとその先には和輝がいた。

「爺さん!」

 このままでは和輝がビッグボアにひかれる。
 そう思ったが和輝は迫り来るビッグボアを見ても冷静だった。

 一瞬ビッグボアが和輝をすり抜けたようにも見えた。

「あれ仕込み杖だったんだ……」

 無駄のない動きであった。
 和輝は体を横にして最小限の動きでビッグボアをかわすと同時に杖から剣を抜いてビッグボアを一太刀に切り裂いた。

 あれが前線で戦っていたアタッカーなのかと舌を巻くような見事な一撃であった。

「なんだいきなり……」

 和輝はいぶかしむように上下真っ二つに切り裂かれたビッグボアを見た。
 夜滝の方に走ってきたけれど夜滝を狙っていたようには思えなかった。

 もっと遠くから走ってきてたまたまそのルート上に夜滝がいたような雰囲気がある。
 何かに追われているような。

 そんな感じがあった。

「夜滝ねぇ、大丈夫?」

 手袋を脱ぎ捨てて圭が夜滝の元に駆け寄る。

「いてて……なんなんだい、全く」

 圭の手をとって夜滝が立ち上がる。
 発見が早かったので夜滝にケガはなかった。

 服についた土をパンパンと叩いて落とす。

「申し訳ありません!」

 ビッグボアがきた方から男性が走ってきた。

「あなたは?」

「齊藤と申します。狩りの途中でビッグボアが逃げてしまいまして……どうやらご迷惑をおかけしてしまったようで」

「そうだったんですね」

 30代ぐらいだろうか、人の良さそうな男性で申し訳なさそうに頭を下げる。
 狩りの途中でモンスターが逃げてしまうことはよくある。

 どれだけ気を張っていても相手も生き物な以上は想定外なことも起こりうるのだ。

「モンスターはそちらが倒されたようですしそのままお持ちください」

 時折他の覚醒者が追いかけていたモンスターを倒してしまって争いになることもある。
 しかし齊藤はビッグボアは圭たちが倒したのだからとあっさりと譲ってくれた。

「このまま狩りをなさるのですか? ではご一緒に……」

「いや、それには及ばん」

「そ、そうですか」

 圭たちの意思を確認するまでもなく和輝が齊藤の誘いを断った。
 どっちみち誘いは断っただろうけど和輝には迷いもなかった。

 齊藤はそれでも気を悪くした様子もなく再度頭を下げて謝罪すると戻っていった。

「こんなこともあるんだね」

 突然のことに驚いた波瑠もホッと胸を撫で下ろす。

「不測の事態は常に起こり得るからこうした場所では警戒しとかなきゃね」

「そうだねぇ。また圭に助けられちゃったね」

 圭が声をかけてくれなきゃ夜滝はビッグボアにひかれていた。
 体力や筋力のステータスが低い夜滝だったらビッグボアの体当たりも致命的になりかねない。

「夜滝ねぇが無事でよかったよ」

「ボーッと突っ立っていてはいけないね。気を引き締めるよ」

 モンスターがどこで現れるか分からない以上どんなことが起きてもいいような警戒はしなければならない。
 少し戦えるようになって油断していたと夜滝も反省した。

「ううむ……」

「どうかしましたか、和輝さん?」

 姿が見えなくなっても齊藤が向かった先を睨み付けるようにして悩ましげな和輝。

「いや、怪しくてな」

「何が怪しいんですか? 良い人そうでしたけど」

 和輝は齊藤を怪しんでいた。
 しかし圭は齊藤のどこが怪しいのか分からない。

「観察眼もこれから生き残る上で必要だぞ。こんな所に来るのにあの齊藤というかいう男、装備の1つも身につけておらんかった」

「そういえば……」

「装備がないような人もいないこともないが武器すら持っていないのはおかしい」

 齊藤はきっちりした服装をしていたがそれだけではモンスターと戦いにきたというよりも近所を散歩しているようだった。
 身軽さを重視して防具を身につけないなんて人も少数派ではあるがいる。

 しかし齊藤に関しては武器も所有していなかった。
 モンスターを追いかけているなら戦うつもりがあったはず。

 なのに武器もないのはかなり不自然である。

「実力差があると自負をするならあり得る話でもあるが……」

 仮に素手でも大丈夫だと言えるほどの実力者だと仮定することはできる。
 ただしそうであるならばこんなところで素手で狩りをしている理由などないのだ。

 それにそんな実力者がモンスターを逃すはずもない。
 どう考えてもおかしな人物になる。

「だから誘いがあっても断った」

「確かに……言われればおかしいですね」

「今日はもう切り上げた方がいいかもしれんな」

 目的も分からない怪しい人物。
 圭たちはまだ少し早いが狩りを切り上げることにした。
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