公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧

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本編

7、天才魔術師エリザ様

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 わあ、すごい花束!

 翌朝、起きるとリビングには豪華な花が飾られていた。
 私が呆気にとられていると、朝の準備をしていたミラが顔だけ向けて言う。

「あ、お嬢様、騎士団長様から今朝お花が届きましたよ」

 え?!これはロジャーからなの?
 こんなに立派な花束をわざわざ……。
 なんだか申し訳ないな。

 でも何でだろう?

 うーん、私の知らない貴族の風習なのかな。
 この世界は女性をエスコートするのが常識だもの。これもその一環なのかもしれない。

 そんな風に考えて、あまり深く追求するのを止めた。

 今日の午後は王女様とお茶の予定が入っている。
 昼食を終えた私は、ドレスに着替えて約束の庭園に出向いた。


「わあ、さすが王宮の庭園ですね」
 付き添いのミラは辺りをキョロキョロと見回し感嘆の声を上げた。

 うん、本当に綺麗!

 隅々まで手入れが行き届いた庭園には沢山のバラが咲いている。
 お花に見入っていると、どこからともなく人が現れた。

「レイラ様でございますね。王女様があちらでお待ちでございます」

 王女様の侍女らしき女性が案内してくれて、お茶が用意されたテラス席に到着した。

「レイラ! 来てくれてありがとう」
「王女様、お招き頂きありがとうございます」
 私は挨拶をして王女様の向かいに座った。

「ねえレイラ、そんな他人行儀ではなくメアリーと呼んで」
「ええ?!」

 王女様をお名前で呼ぶなんて、私の立場でそんなことしていいのかな?

「いいから、いいから!」
「そ、そうですか……? ではメアリー様」
「うんうん」
 メアリー様は嬉しそうに頷いている。

 思った以上にフランクな人のようでよかった。それに、とても可愛らしい。

 やっぱりヒロインは違うなあ!
 ああ、早くこの可愛いヒロインとエリック様を幸せにしてあげたい……!

 すごーく絵になりそうよね、この二人なら。

 色白で小柄な可愛いメアリー様と、美しい顔に鍛え上げられた精悍な身体となんともいえない色気を持つエリック様が並んだら……!

 ああ、尊い!!

 なんでもざっくばらんに話してくれるメアリー様とは歳が近いこともあり、すぐに意気投合して楽しい時間を過ごした。

 話が盛り上がり過ぎてかなり長い間話し込んでいると、メアリー様の次の予定の時間が来てしまった。

 お妃様候補ともなると、やるべきことがたくさんあって忙しいようだ。


「ではそろそろ行きましょうか」
「はい、今日はとても楽しかったです」

 二人で顔を見合わせて「ふふふ」と笑い合いながら立ち上がり宮殿へ歩き出すと、ロジャーが通りかかった。

 私たちに気づき、挨拶をする。

「王女様、レイラ嬢。お散歩ですか?」
 ロジャーは上品に微笑みながら言った。

「ええ、二人で長いこと話し込んでしまって」
 メアリー様は可愛らしい笑顔で答える。

 あれ。
 な、なんだかいい感じ。ここで二人の恋が進展してしまったらどうしよう。

 少し不安になっていると、ロジャーはニコニコと私に笑いかけてくる。
 その笑顔を見て、私は朝の花を思い出した。

「あ、今朝はお花をありがとうございました」
「昨日、私の部下がご迷惑をかけたお詫びです」
「そんな! 私の不注意でしたのに」
「いえ……。それでは私は失礼いたします」
 ロジャーはそう言って、私の手を取り軽くキスをした。

 さすが小説の男主人公だけあって、一つひとつの動作にさり気ない上品さがある。
 私が感心しているとメアリー様が隣でクスッと笑った。

「あら、私には挨拶してくださらないの?」
 メアリー様は揶揄うような笑顔でロジャーに言う。

 ロジャーは苦笑いをしてメアリー様の手を取りキスをした。


 その瞬間、どこからか高い声が響いてくる。

「まあロジャー様、お久しぶりですわね」

 声の主の方を向くと、そこにいたのは腰まで伸びた黒髪に、はっきりとした目鼻立ちの美しい令嬢だった。

 この人はもしかして……!

 ロジャーは丁寧な様子でその女性に挨拶をする。

「エリザ様、お久しぶりでございます」

 エリザ……!
 王宮魔術師として活躍する中、なんとこの若さで女師団長にまで昇り詰めた天才魔術師だ。

 小説の中ではロジャーに恋するあまり、ヒロインのメアリー様にありとあらゆる嫌がらせを仕掛ける、所謂悪女。

 彼女は魔術を使える分、かなりタチが悪い。
 気をつけないと、メアリー様が危ないわ。

 エリザの様子を窺うと、案の定メアリー様に鋭い視線を送っている。

 あっ!これは確実にライバル認定している。

 やはり小説の内容通り、エリザはロジャーに恋心を抱いており、メアリー様に嫉妬心を覚えたようだった。

 エリザはスッとロジャーの隣に寄り添い、メアリー様に見せつけるように腕を絡めてロジャーに甘えだした。

「任命式、伺えなくて残念でしたわ」
「はい、魔術師の師団長様は国の為、民の為お忙しいですから」
 ロジャーは先ほどより若干無表情な様子で答えている。

「あら、お話し中だったかしら?」

 わざとらしく声を掛けたエリザは、明らかにメアリー様を警戒しているようだったが、メアリー様は笑顔で軽くスルーしながら自己紹介をしている。

 私の方は、メアリー様の侍女だと判断されたのか特に気にされることもない。

 ハラハラする私を尻目にその後は無難に挨拶を交わし、ロジャーとエリザはそれぞれの方向へ散って行き、私もメアリー様と挨拶をして解散した。

 悪女すら上手にあしらうとは、うーん、さすが小説のヒロイン。
 何事もなくて良かった。

 でも、とうとうエリザと接触してしまったからにはこれから気をつけなくては。
 私は一人、改めて気合を入れ直した。
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