44 / 411
第44話 痛風に苦しむアメイジング・コーポレーションの管理本部長
しおりを挟む
「あ痛たたたっ!」
今の時間は午前八時。
私こと石田は、足の親指や関節が腫れる痛みによって目を覚ます。
枕元に置いた水の入ったペットボトルを手に持つと、痛風発作抑制薬『コノバシノギ』と痛風発作治療薬『ナオルトイイナ』そして尿酸生成抑制薬『サガルトイイナ』。
最後に酸性尿改善薬『アルカリセイニナアレ』を飲み込むと、水で薬を流し込み足を引き摺りながら布団から出る。
痛風で関節が痛いのも問題だが、弁護士を雇い会社に内容証明を送り付けてきた元従業員、高橋翔。
そして、クビにした経理部員を会社に戻さなければならない事も問題だ。
決算業務がそんな大変で重要な業務であると知っていれば、西木社長の役員報酬を上げるだなんて下らない理由の為に経理部員をクビにするような真似はしなかった。
それもこれも、しっかりとした情報を私や西木社長に与えなかった佐藤部長が悪い。
まったく、一度クビにした従業員を呼び戻さないといけないなんて……。
佐藤部長も大変なことをしてくれたものだ。
クビにした経理部員を再雇用したら、責任の所在をハッキリさせるため佐藤部長に対して『懲罰委員会』を開いてやる。
佐藤部長への怒りを糧に痛風の痛みを和らげると、職場のアメイジング・コーポレーションへと出社した。
アメイジング・コーポレーションの就業時間は午前九時から午後十七時まで。
社長室に視線を向けると社長室から明かりが漏れている。
西木社長はもう出社しているらしい。
御年八十五歳にも拘らず元気なことだ。
耳を澄ませば、社長室からゴルフのスイング音が聞こえてくる。
そういえば、毎週土曜日は会社の経費で、格式高いゴルフ場『軽井沢ゴルフ倶楽部』のプレー予約をしていた。
おそらく、それに備えて練習をしているのだろう。
スイング音に淀みがない。
昨日は、四川飯店の予約を取ることができず、大変お怒りではあったが、機嫌が直っているようで本当によかった。
西木社長の機嫌は、山の天気のように変わりやすい。
それにしても、よくあれだけ怒って血管が切れないものだ。
きっと、強靭な血管をお持ちなのだろう。
そんなことを考えていると、始業のベルが室内に流れ始める。
「さて、早速、山本君と小林君に連絡を入れるか……」
高橋君とは係争中。まずは先日、クビにした山本君と小林君だけでも会社に戻さないと……。
しかし、山本君と小林君に電話をかけるも繋がらない。
そういえば、佐藤部長も電話が繋がらないと言っていたが……。
佐藤部長ならばいざ知らず管理本部長である私の電話に出ないなんて事はないはず……。
険しい表情を浮かべながらも、執念深く連絡する。
すると、突然、電話が繋がった。
私の執念の勝利である。
「もしもし、アメイジング・コーポレーションの石田だが……」
しかし、電話口から聞こえてきた声は山本君や小林君のものではなかった。
『おかけになった電話番号への通話は、お客様のご希望によりおつなぎできません』と、お断りのガイダンスが流れ始める。
どうやら着信拒否にされてしまったようだ。
拙い。これは非常に拙い状況だ。
経理部員を会社に戻し、仕事をさせないと決算開示に間に合わず、下手したら上場廃止の危機……。創立百周年に上場廃止。流石にそれだけは避けなければならない。
しかし、うちの会社のシステムが使える事が最低条件だし、今から派遣社員を紹介して貰うにしても、決算開示に間に合うかどうか疑問符が付く。
電話を置き頭を悩ませていると、社長室から私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「石田君! 石田君はいるかっ!」
ゴルフのスイングが終わったらしい。
一生、社長室でゴルフのスイングをしていればいいものを……。
「あー。はいはい」
私はそう呟くと、痛風で痛む足を引き摺りながら、西木社長の待つ社長室へと向かった。
「西木社長、おはようございます」
「ああ、おはよう……。まずはかけたまえ」
西木社長はそう呟くと、椅子からゆっくり立ち上がり、ソファへと腰かける。
そして、足をクロスさせながらテーブルに足を置いた。
行儀が悪いのはいつも通りだ。
ソファに座ると、西木社長が話し始めた。
「それで石田君。高橋君他、二名の経理部員復職の件はどうなったのかね」
「その件ですが……」
素直に言っていいものか判断に迷う。
考えあぐねていると、西木社長がまるで催促するように言葉を重ねてきた。
「それで? 経理部員と連絡は取れたのかね」
「い、いえ、この件は、直属の上司であった佐藤部長から連絡を取らせた方がいいと思いまして、まだ連絡を取っておりません」
私がそういうと、西木社長はまたも怒り出す。
「まだ連絡を取っていない? なにを悠長なことを……。だから君は駄目なんだっ! すぐに佐藤君に連絡を取るよう言いなさい!」
「はい。すぐに連絡致します!」
佐藤部長に連絡する為、社長室を出て自席に戻ろうとする。
しかし、西木社長は私の離席を許さなかった。
「なぜ、席を立とうとする。今、ここで佐藤君に連絡をすればいいじゃないかっ!」
「い、今、ここでですかっ!?」
「なにか問題があるのかね。それともなにか? 隠しごとでもあるんじゃないだろうな」
「い、いえ、そんなことはありませんが……」
スマートフォンを取り出し、佐藤部長に電話をかける。
私が電話をかけると、三コールで佐藤部長が電話に出た。
『はい。佐藤です』
「ああ、佐藤部長ですか。管理部の石田です。実は昨日話した高橋君、他二名の経理部員の件で話がありまして……」
穏便に済ませようと言葉を選びながら電話をしていると、西木社長が横やりを入れてくる。
「石田君。スマートフォンをスピーカーモードに切り替えなさい」
「わ、わかりました」
八十五歳でスマートフォンのスピーカーモードを存じ上げているとは……。
くっ、田中か? 部下の田中君が社長にスマートフォンの使い方を教えたのか?
よ、余計な事を……。
私は西木社長に言われた通り、スマートフォンをスピーカーモードに切り替えると、テーブルの上に置く。
『高橋君達の件? 石田管理本部長が連絡して下さるのではないのですか?』
「いえ、実はですね……」
私がそう呟くと、西木社長がテーブルに置いたスマートフォンを取り上げた。
「ああ、佐藤君か。私だ。社長の西木だ。実は君の方から高橋君を始めとする経理部員二人に連絡を取ってもらいたくてね。ほら、直属の上司だった君の方が、高橋君達も心を開いてくれると思うんだ。やってくれるね?」
有無を言わせぬ社長発言。
しかし、私からすればありがたい。
既に高橋君達とは連絡を取る事はできない。
そのことを知るのは現状私だけだ。
いや、佐藤部長も連絡を取る事ができないんだったかな?
『わかりました……。一度、繋がらなかった以上、やっても無駄とは思いますが、社長がそう仰るのであれば、電話をかけてみますが……』
「そうか。それでは、君の持つスマートフォンをスピーカーモードにして、経理部の電話から高橋君達に電話をかけなさい」
『わかりました。それでは、少しお待ち下さい』
そういうと、佐藤部長は、経理部の卓上電話から高橋君達に電話し始める。
すると、先ほど聞いたお断りのガイダンスがスマートフォン越しに聞こえてきた。
『おかけになった電話番号への通話は、お客様のご希望によりおつなぎできません』
「…………」
どうやら、高橋君達はアメイジング・コーポレーションの電話番号すべてを着信拒否設定にしたらしい。
「なんだこれは? どういうことだ?」
お断りのガイダンスを聞いたことがないのか、西木社長が困惑した表情を浮かべている。すると、スマートフォン越しに佐藤部長が呟いた。
『これは着信拒否されてしまっていますね。これでは高橋君達と連絡を取ることができません』
「なんだとっ!?」
それを聞いた西木社長が怒り出す。
「連絡が取れないとはどういうことかね! 退職後もちゃんと連絡が取れるようにしておかなきゃ駄目じゃないか!」
「社長のおっしゃる通りです。佐藤部長、高橋君達と直接連絡を取る方法はないのですか?」
『はい。申し訳ございません』
「まったく! 申し訳ございませんじゃないよっ! とんでもない事をしてくれたね! 君のお蔭でもうこの会社はお終いだよ! どう責任を取るつもりだっ!」
「社長の仰る通りです。佐藤部長、これは大変な事ですよ! あなたがちゃんと高橋君達に気を使っていれば、未然に防げた事態です。この責任をどう取るつもりですか!」
丁度いい。私の失敗は佐藤部長の失敗。
佐藤部長の失敗は、佐藤部長の失敗だ。
西木社長の頭の中では、いつの間にか佐藤部長の管理が行き届いていなかったお蔭で、こんな事態に陥ったと脳内変換されているらしい。
空前絶後のこのチャンス。逃す手はない。
「佐藤君。どうするつもりだね! いつまでも黙っていないで、なんとか言ったらどうなんだっ!」
「そうですよ。佐藤部長! 何とか言ったらどうなんです! あなたのせいで大変な事になっているんですからね!」
すると、スマートフォン越しに『ガンッ!』という音が響いてきた。
突然鳴り響いた音に、私と西木社長は顔を見合わせる。
「ど、どうしたんだね。佐藤君、なんとか言ったらどうだ……」
西木社長の勢いが削がれている。
すると、佐藤部長がスマートフォン越しに話しかけてきた。
『……辞めます』
「えっ? 今、なんと言ったんだね?」
『もうやっていられません……。現時点をもってアメイジング・コーポレーションを退職します! 今月分の給与も退職金も要りません!』
「ま、待ちたまえ佐藤君! 石田君もなんか言ったらどうだ。君が佐藤君を責めたからこんな事になっているんじゃないか!」
「い、いえ、私は社長に賛同しただけで……。それに佐藤部長を責めたのは、西木社長です。わ、私はそんな事、言っておりません」
「き、君は何を言っているんだ。君はこのボクが悪いって言うのか? ボクは至極真っ当なことを述べただけじゃないか! それの何が悪い!」
『あんたらがそんなだから、こんな事態になっているんだよ! いつもいつも責任転嫁しやがってっ! パワハラだろうこれは! ふざけるんじゃない! 普段から訳の分からない難癖を付けては懲罰委員会を開き、給与を削減してっ! その削減分は全て社長の役員報酬に上乗せされているじゃないか! 経理部が何も知らないと思うなよ! 結局あんたは自分のことしか考えていないんだっ! 目先の事しか考えていないからこんな事になったんだよ!』
「なんだ君はっ! このボクが君の事を経理部長に引き上げてやったんじゃないかっ! なのにその言いぐさは……。嫌なら辞めろっ! さっさと辞めてしまえっ!」
こうなってはもう収拾がつかない。
数日後、西木社長の言葉が決め手となり、佐藤部長から『退職願』が送られてきた。
今の時間は午前八時。
私こと石田は、足の親指や関節が腫れる痛みによって目を覚ます。
枕元に置いた水の入ったペットボトルを手に持つと、痛風発作抑制薬『コノバシノギ』と痛風発作治療薬『ナオルトイイナ』そして尿酸生成抑制薬『サガルトイイナ』。
最後に酸性尿改善薬『アルカリセイニナアレ』を飲み込むと、水で薬を流し込み足を引き摺りながら布団から出る。
痛風で関節が痛いのも問題だが、弁護士を雇い会社に内容証明を送り付けてきた元従業員、高橋翔。
そして、クビにした経理部員を会社に戻さなければならない事も問題だ。
決算業務がそんな大変で重要な業務であると知っていれば、西木社長の役員報酬を上げるだなんて下らない理由の為に経理部員をクビにするような真似はしなかった。
それもこれも、しっかりとした情報を私や西木社長に与えなかった佐藤部長が悪い。
まったく、一度クビにした従業員を呼び戻さないといけないなんて……。
佐藤部長も大変なことをしてくれたものだ。
クビにした経理部員を再雇用したら、責任の所在をハッキリさせるため佐藤部長に対して『懲罰委員会』を開いてやる。
佐藤部長への怒りを糧に痛風の痛みを和らげると、職場のアメイジング・コーポレーションへと出社した。
アメイジング・コーポレーションの就業時間は午前九時から午後十七時まで。
社長室に視線を向けると社長室から明かりが漏れている。
西木社長はもう出社しているらしい。
御年八十五歳にも拘らず元気なことだ。
耳を澄ませば、社長室からゴルフのスイング音が聞こえてくる。
そういえば、毎週土曜日は会社の経費で、格式高いゴルフ場『軽井沢ゴルフ倶楽部』のプレー予約をしていた。
おそらく、それに備えて練習をしているのだろう。
スイング音に淀みがない。
昨日は、四川飯店の予約を取ることができず、大変お怒りではあったが、機嫌が直っているようで本当によかった。
西木社長の機嫌は、山の天気のように変わりやすい。
それにしても、よくあれだけ怒って血管が切れないものだ。
きっと、強靭な血管をお持ちなのだろう。
そんなことを考えていると、始業のベルが室内に流れ始める。
「さて、早速、山本君と小林君に連絡を入れるか……」
高橋君とは係争中。まずは先日、クビにした山本君と小林君だけでも会社に戻さないと……。
しかし、山本君と小林君に電話をかけるも繋がらない。
そういえば、佐藤部長も電話が繋がらないと言っていたが……。
佐藤部長ならばいざ知らず管理本部長である私の電話に出ないなんて事はないはず……。
険しい表情を浮かべながらも、執念深く連絡する。
すると、突然、電話が繋がった。
私の執念の勝利である。
「もしもし、アメイジング・コーポレーションの石田だが……」
しかし、電話口から聞こえてきた声は山本君や小林君のものではなかった。
『おかけになった電話番号への通話は、お客様のご希望によりおつなぎできません』と、お断りのガイダンスが流れ始める。
どうやら着信拒否にされてしまったようだ。
拙い。これは非常に拙い状況だ。
経理部員を会社に戻し、仕事をさせないと決算開示に間に合わず、下手したら上場廃止の危機……。創立百周年に上場廃止。流石にそれだけは避けなければならない。
しかし、うちの会社のシステムが使える事が最低条件だし、今から派遣社員を紹介して貰うにしても、決算開示に間に合うかどうか疑問符が付く。
電話を置き頭を悩ませていると、社長室から私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「石田君! 石田君はいるかっ!」
ゴルフのスイングが終わったらしい。
一生、社長室でゴルフのスイングをしていればいいものを……。
「あー。はいはい」
私はそう呟くと、痛風で痛む足を引き摺りながら、西木社長の待つ社長室へと向かった。
「西木社長、おはようございます」
「ああ、おはよう……。まずはかけたまえ」
西木社長はそう呟くと、椅子からゆっくり立ち上がり、ソファへと腰かける。
そして、足をクロスさせながらテーブルに足を置いた。
行儀が悪いのはいつも通りだ。
ソファに座ると、西木社長が話し始めた。
「それで石田君。高橋君他、二名の経理部員復職の件はどうなったのかね」
「その件ですが……」
素直に言っていいものか判断に迷う。
考えあぐねていると、西木社長がまるで催促するように言葉を重ねてきた。
「それで? 経理部員と連絡は取れたのかね」
「い、いえ、この件は、直属の上司であった佐藤部長から連絡を取らせた方がいいと思いまして、まだ連絡を取っておりません」
私がそういうと、西木社長はまたも怒り出す。
「まだ連絡を取っていない? なにを悠長なことを……。だから君は駄目なんだっ! すぐに佐藤君に連絡を取るよう言いなさい!」
「はい。すぐに連絡致します!」
佐藤部長に連絡する為、社長室を出て自席に戻ろうとする。
しかし、西木社長は私の離席を許さなかった。
「なぜ、席を立とうとする。今、ここで佐藤君に連絡をすればいいじゃないかっ!」
「い、今、ここでですかっ!?」
「なにか問題があるのかね。それともなにか? 隠しごとでもあるんじゃないだろうな」
「い、いえ、そんなことはありませんが……」
スマートフォンを取り出し、佐藤部長に電話をかける。
私が電話をかけると、三コールで佐藤部長が電話に出た。
『はい。佐藤です』
「ああ、佐藤部長ですか。管理部の石田です。実は昨日話した高橋君、他二名の経理部員の件で話がありまして……」
穏便に済ませようと言葉を選びながら電話をしていると、西木社長が横やりを入れてくる。
「石田君。スマートフォンをスピーカーモードに切り替えなさい」
「わ、わかりました」
八十五歳でスマートフォンのスピーカーモードを存じ上げているとは……。
くっ、田中か? 部下の田中君が社長にスマートフォンの使い方を教えたのか?
よ、余計な事を……。
私は西木社長に言われた通り、スマートフォンをスピーカーモードに切り替えると、テーブルの上に置く。
『高橋君達の件? 石田管理本部長が連絡して下さるのではないのですか?』
「いえ、実はですね……」
私がそう呟くと、西木社長がテーブルに置いたスマートフォンを取り上げた。
「ああ、佐藤君か。私だ。社長の西木だ。実は君の方から高橋君を始めとする経理部員二人に連絡を取ってもらいたくてね。ほら、直属の上司だった君の方が、高橋君達も心を開いてくれると思うんだ。やってくれるね?」
有無を言わせぬ社長発言。
しかし、私からすればありがたい。
既に高橋君達とは連絡を取る事はできない。
そのことを知るのは現状私だけだ。
いや、佐藤部長も連絡を取る事ができないんだったかな?
『わかりました……。一度、繋がらなかった以上、やっても無駄とは思いますが、社長がそう仰るのであれば、電話をかけてみますが……』
「そうか。それでは、君の持つスマートフォンをスピーカーモードにして、経理部の電話から高橋君達に電話をかけなさい」
『わかりました。それでは、少しお待ち下さい』
そういうと、佐藤部長は、経理部の卓上電話から高橋君達に電話し始める。
すると、先ほど聞いたお断りのガイダンスがスマートフォン越しに聞こえてきた。
『おかけになった電話番号への通話は、お客様のご希望によりおつなぎできません』
「…………」
どうやら、高橋君達はアメイジング・コーポレーションの電話番号すべてを着信拒否設定にしたらしい。
「なんだこれは? どういうことだ?」
お断りのガイダンスを聞いたことがないのか、西木社長が困惑した表情を浮かべている。すると、スマートフォン越しに佐藤部長が呟いた。
『これは着信拒否されてしまっていますね。これでは高橋君達と連絡を取ることができません』
「なんだとっ!?」
それを聞いた西木社長が怒り出す。
「連絡が取れないとはどういうことかね! 退職後もちゃんと連絡が取れるようにしておかなきゃ駄目じゃないか!」
「社長のおっしゃる通りです。佐藤部長、高橋君達と直接連絡を取る方法はないのですか?」
『はい。申し訳ございません』
「まったく! 申し訳ございませんじゃないよっ! とんでもない事をしてくれたね! 君のお蔭でもうこの会社はお終いだよ! どう責任を取るつもりだっ!」
「社長の仰る通りです。佐藤部長、これは大変な事ですよ! あなたがちゃんと高橋君達に気を使っていれば、未然に防げた事態です。この責任をどう取るつもりですか!」
丁度いい。私の失敗は佐藤部長の失敗。
佐藤部長の失敗は、佐藤部長の失敗だ。
西木社長の頭の中では、いつの間にか佐藤部長の管理が行き届いていなかったお蔭で、こんな事態に陥ったと脳内変換されているらしい。
空前絶後のこのチャンス。逃す手はない。
「佐藤君。どうするつもりだね! いつまでも黙っていないで、なんとか言ったらどうなんだっ!」
「そうですよ。佐藤部長! 何とか言ったらどうなんです! あなたのせいで大変な事になっているんですからね!」
すると、スマートフォン越しに『ガンッ!』という音が響いてきた。
突然鳴り響いた音に、私と西木社長は顔を見合わせる。
「ど、どうしたんだね。佐藤君、なんとか言ったらどうだ……」
西木社長の勢いが削がれている。
すると、佐藤部長がスマートフォン越しに話しかけてきた。
『……辞めます』
「えっ? 今、なんと言ったんだね?」
『もうやっていられません……。現時点をもってアメイジング・コーポレーションを退職します! 今月分の給与も退職金も要りません!』
「ま、待ちたまえ佐藤君! 石田君もなんか言ったらどうだ。君が佐藤君を責めたからこんな事になっているんじゃないか!」
「い、いえ、私は社長に賛同しただけで……。それに佐藤部長を責めたのは、西木社長です。わ、私はそんな事、言っておりません」
「き、君は何を言っているんだ。君はこのボクが悪いって言うのか? ボクは至極真っ当なことを述べただけじゃないか! それの何が悪い!」
『あんたらがそんなだから、こんな事態になっているんだよ! いつもいつも責任転嫁しやがってっ! パワハラだろうこれは! ふざけるんじゃない! 普段から訳の分からない難癖を付けては懲罰委員会を開き、給与を削減してっ! その削減分は全て社長の役員報酬に上乗せされているじゃないか! 経理部が何も知らないと思うなよ! 結局あんたは自分のことしか考えていないんだっ! 目先の事しか考えていないからこんな事になったんだよ!』
「なんだ君はっ! このボクが君の事を経理部長に引き上げてやったんじゃないかっ! なのにその言いぐさは……。嫌なら辞めろっ! さっさと辞めてしまえっ!」
こうなってはもう収拾がつかない。
数日後、西木社長の言葉が決め手となり、佐藤部長から『退職願』が送られてきた。
97
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。
クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる