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第157話 後日談
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ボクは会社にいた筈、なのになんでこんな安上がりなベッドに寝かされているんだ?
マットレスはペラペラだし、病院で使うマットレスとは思えな……。
うん? 病院っ??
ボクこと西木は眉間に皺を寄せ辺りを見渡す。
そこには、魚のような目でテレビを凝視する老人や、外に見える枝に視線を向ける中年。眠ったまま微動だにしない人達の姿があった。
「あ? な、何なんだここはっ……?」
意味がわからずそう呟くと、丁度良く室内に看護師が入ってくる。
「西木さん。目覚めたんですね。体調は大丈夫ですか?」
「あ、ああ、大丈夫だが……」
ど、どういう事だっ?
訳がわからん……。
ボクがそんな表情浮かべていると、それを察したかのように看護師は話を続ける。
「……西木さんは会社で失神しまったんですよ?」
「し、失神?」
「はい。詳しい内容は先生の診断を受けてからとなりますが……」
「そうか、ボクは失神していたのか……」
しかし、ボクは何故、失神していたのだ?
そういえば、取締役会で水戸君に騙され、三十億円でクソみたいな会社を買わされたような……。
「……そ、そうだ。ボクにはやらなければならない事があった。三十億を……三十億円をアメイジング・コーポレーションに返還しなくてはっ!?」
「は(はっ)?」
看護師の声とボクの心の声が奇跡的にシンクロし、心とは裏腹にボクの口が勝手な事をほざく。
ど、どうしてしまったというのだ、ボクはっ!?
そんな事は微塵も考えていないだろうっ!
三十億円を返還しては、ボクが全面的に悪かった事を認めてしまう事になる。
認めたら負けだ。これは横領ではない。騙される前に金を取り返したまでっ!
「ボクのスマホはどこに?」
ボクがスマホを看護師に要求すると、「それでしたらここに……」と、スマホを手渡してきた。
何をするつもりだっ!
まさか、スマホで三十億円もの金をアメイジング・コーポレーションに振り込む気かっ!
もはや、自分の手を離れ、勝手に動き出す体。
しかし、まだまだ甘い。スマホで三十億円もの大金を動かす事できる筈が……。
「ああ、君か。ボクだ。西木だがね。振込用紙を持って、病院まで来てくれ。ああ、三十億円ほどアメイジング・コーポレーションに振り込みをしなければならなくてね。頼んだよ」
看護師に病院の住所を聞きくと、石田管理本部長に至急、振込用紙を持って来させようとするボク。
何故、そうまでして三十億円を振り込もうとするのか意味がわからない。
ボクの思いとは裏腹に勝手に動き回る体もだ。
「それじゃあ、石田君が来るまでの間に所要を済ませようか」
石田管理本部長が来るまでの間に、検査を終え警察からの事情聴取を受ける。
その際、警察に三十億円を返済する予定がある事を告げると、アメイジング・コーポレーション側も三十億円を速やかに返還するなら、業務上横領の被害届を取り下げる用意がある事を告げられた。
ただ、警察官に対する公務執行妨害については、別途、反省文の提出を求められる事となった。
幸いな事に、怪我を負わせた訳ではなかった為、真摯に反省しているのであれば、不起訴処分にしてくれるそうだ。
そうこうしている内に、石田管理本部長が病院内にやってきた。
水戸社長と小田原監査等委員も病院に来たようだ。
お見舞いではあるまい。監視の為だろう。
「それじゃあ、石田君。頼んだよ」
「はい。わかりました」
「水戸君と小田原君も迷惑をかけたな……」
通帳と振込用紙を渡すと、二人は石田管理本部長を連れ無言で去っていった。
眩暈がしてきた。
これで三十億円はおじゃん。
手元に残ったものは、不採算部門が纏められた新設会社と、月百万円の社宅。そして、電子的紙切れになる予定のアメイジング・コーポレーションの株式のみ。
恐らく、ボクは次の株主総会で取締役を解任され、社宅を引き上げる事になる。
流石に月百万円なんて払っていられない。
――と、いうより、何なんだこれはっ!?
何故、意思に反して身体が勝手に動くのだっ!
冗談じゃないっ!
これでは、豊かな老後生活を送る事すらできない。
愛人を囲う事も、美味しい物を食べる事も、老人ホームに住む事すらままならない。
ボクが何をしたと言うのだっ!
二十四時間会社の発展を考えてきたからこそ、今のアメイジング・コーポレーションがあるんじゃないか。それを……それをぉぉぉぉ!
その後、病院から留置所送りとなったボクは数日間の勾留と反省文の提出を以って不起訴処分となった。
社宅に戻ると、そこに愛人はおらず、金目の物はすべて無くなっていた。
「ふ、ふふふっ……」
もう。ここまでくると笑えてくる。
膝から崩れ落ち、四つん這いの姿勢を取るも、まだすべてを失った訳ではない。
いいだろう。やってやろうじゃないかっ……。
不採算部門とはいえ、新設会社に着いて来てくれる社員はいる。
ボクはまだやれる。新設会社の不採算部門が黒字になれば再起できる筈だ。
そして、昔の暮らしを取り戻す。
惨めな老後を送るのだけは絶対に嫌だ。周りに惨めだと思われるのも御免だ。
やり直そう。最初からやり直そう。
そして、黒字になったら上場し、株を売ってリタイアする。
アメイジング・コーポレーションを追われた惨めな老人にだけはなってやらない。
いつの間にか自由に動けるようになったボクの身体。
その思いを前に立ち上がると、ボクは腹ごしらえをする為、近くの名代富士そばに向かった。
◇◆◇
私の名は枝野和男。
内部監査室から異動し、総務部へ。高橋翔の退社後、人員不足を理由に経理部に転属する事となったアメイジング・コーポレーションの社員だ。
最近、アメイジング・コーポレーションの業績が落ちている。
正直言って、相当ヤバい状況だ。
実際、本社では会社を辞める人が後を絶えず、崩壊が始まっている。
にも拘らず、私は転職活動すらできずにいた。
経理部が忙しすぎる為だ。時間がない訳ではないが、態々、休日に就職活動するのも正直しんどい。
その為、ようやく第三者委員会の調査報告書が監査法人に渡り、決算開示する事で上場廃止を回避する事はできたが、転職活動は一向に前に進んでいない。
一応、転職サイトに登録して見てはいるが、私に来るオファーの年収が低すぎて動く気にもならないというのも一つある。
私を採用したいのであれば、今の二倍の年収を提示して貰わねば割に合わない。
とはいえ、経理部が一番、会社の状況をわかっている。
正直、この会社に未来はない。二、三年は大丈夫だろうが、四年目は無理だ。確実に倒産する。
そんな時、新しい会社が新設される噂を聞いた。
ネクスト・アメイジングCP株式会社。それが新しく新設される会社の名称だ。
しかも、新設される会社の社長には、この会社の元代表取締役社長である西木社長が就任するらしい。
そして、今、社内では新設される会社の社員募集が社内で行われていた。
私が独自に集めた情報によると、西木社長はこの新設会社を買収するにあたり、三十億円ものお金を支払ったらしい。
毎週土曜日は会社の金でゴルフ場をラウンドし、昼食、夕食は会社の交際費で落とす。役員報酬の八十パーセントは西木元社長の報酬に充てられ、家賃百万円の住居に愛人と共に住んでいる金遣いが荒く自分の保身しか考えていない、あの西木元社長がである。
しかも、ネクスト・アメイジングCP株式会社には、石田管理本部長の異動も決まっている。怪しい限りだ。
会社分割は、通常、経営上優良な事業部門を新設会社に移し、採算の取れない赤字の事業部門と債務の殆どを分割会社に残す、会社にとって都合の良い事業再生手法。
つまり、その情報から考えられる事はただ一つ。
西木元社長は、アメイジング・コーポレーションに不採算部門を残し、ネクスト・アメイジングCP株式会社に優良な事業部門を移す気でいると、そういう事だ。
「枝野。なあ、聞いたか? 新設される会社の社員募集どうするよ?」
「愚問だな。当然、応じるに決まっているだろう」
当たり前だ。あの西木元社長が自分にとって不都合な会社の社長に就任する筈がない。アメイジング・コーポレーションはもうお終いだ。
そう察したからこそ、その結論に至ったのだろう。
代表取締役社長の地位を他の者に押し付ける事によって……。
その際、一悶着あったと聞いているが、おそらく、それはフェイク。
偽の情報だ。社員にその事を悟らせないよう偽ったのだろう。
「他の奴にも言っておけ。今の内に募集に応じた方がいいぞとな。もしこの募集に乗り遅れれば、アメイジング・コーポレーションと共に沈む事になるぞ?」
「……相変わらず、自信満々だな。わかった。他の奴等にも言っておくよ」
「ああ……」
まあ、敢えて言う必要はないが、決断するのは自分自身だ。
好きにしたらいい。
「……そうだ。名ばかり組合とはいえ、この会社に置いておくのは気が引ける。どの道、この会社は終わりだ。今の内に、新しい会社に名義を変えておこう」
そう呟くと、会社の金庫に預けているアメイジング・コーポレーション労働組合の通帳と印鑑を手に取った。
今の組員が新設される会社に行くという事は実質、この金は新設会社で働く組合員の為に使うべきものだ。持っていっても問題ないだろう
そして、数週間後。私達はアメイジング・コーポレーションを辞め、新設会社の社員となった。
「こ、これはどういう……」
新設会社の出社一日目。そうたった一日目にして、私達は新設会社に異動した事を後悔していた。
出社した場所は、アメイジング・コーポレーションがあったビル。
なんで、このビルに出社するのかわからなかったが、出社し、西木社長の言葉を聞いて初めてわかった。
アメイジング・コーポレーションの取締役達は、ネクスト・アメイジングCP株式会社に不採算部門のすべてを……。西木社長に負債のすべてを押し付けたのだとっ……。
しかし、転職する事はできない。
今、退職しては、転職市場で不利に働く。
壊れたサーバー、回復する見込みのない不採算部門、傲慢な社長。
さ、最悪だ……。
「お、おい。これはどういう事だよっ!」
「お前が募集に応じろと言ったからっ! 言ったから募集に応じたんじゃないかっ!」
「お前のせいだっ! どうしてくれるっ!」
私を囲む有象無象。
い、一体、何でこんな事にっ……。
「ち、違うっ! これは私のせいではないっ!」
極限状態に追い込まれた私は必死に考えを巡らせる。
そもそも、何でこんな事になったのかを、何故、アメイジング・コーポレーションはあんな事になってしまったのかを……。
そして、思い付いた。
経理部にいたからこそ、知り得た事情。
西木社長を退任に追い込もうとした存在の名前を……。
「――あいつだ。高橋だっ! 高橋翔だっ! あいつは西木社長に株主代表訴訟を訴えていた。だから、取締役達は西木社長を捨て駒にし、不採算部門をこの会社にすべて集めた……! アメイジング・コーポレーションは裁判に負け、高橋に億単位の賠償を支払ったとも聞いている。私が悪いんじゃない。すべてあいつが悪いんだっ! あいつが、私達をこんな境遇に追いやったんだっ!」
許す事はできないっ!
許せる筈がないっ!
元居たアメイジング・コーポレーションは名を変え、友愛商事の子会社となり存続し、私達はいつ潰れるかもわからない会社の社員となる。
すべての元凶となったのは、会社を訴え、会社分割に追い込んだ高橋だっ!
高橋の事は、入社してきた頃から気にくわなかった。
「そんな事は知るかっ! 自分の憶測をまるで真実みたいな言い方で噂を流しやがってっ!」
「うるさいっ!! いいから黙っていろっ!」
自分ばかり良い思いをしてっ!
会社から賠償金をぶんどってっ!!
今に覚えていろよ……高橋っ!!!
絶対に目にものを見せてやるからなっ!
理不尽な事はわかっている。しかし、他の社員の手前、スケープゴートを用意せざる負えなかった枝野は呟く。
「絶対にぶっ潰してやる」
と、そう。怨嗟の声を込めて……。
---------------------------------------------------------------
2022年10月4日AM7時更新となります。
マットレスはペラペラだし、病院で使うマットレスとは思えな……。
うん? 病院っ??
ボクこと西木は眉間に皺を寄せ辺りを見渡す。
そこには、魚のような目でテレビを凝視する老人や、外に見える枝に視線を向ける中年。眠ったまま微動だにしない人達の姿があった。
「あ? な、何なんだここはっ……?」
意味がわからずそう呟くと、丁度良く室内に看護師が入ってくる。
「西木さん。目覚めたんですね。体調は大丈夫ですか?」
「あ、ああ、大丈夫だが……」
ど、どういう事だっ?
訳がわからん……。
ボクがそんな表情浮かべていると、それを察したかのように看護師は話を続ける。
「……西木さんは会社で失神しまったんですよ?」
「し、失神?」
「はい。詳しい内容は先生の診断を受けてからとなりますが……」
「そうか、ボクは失神していたのか……」
しかし、ボクは何故、失神していたのだ?
そういえば、取締役会で水戸君に騙され、三十億円でクソみたいな会社を買わされたような……。
「……そ、そうだ。ボクにはやらなければならない事があった。三十億を……三十億円をアメイジング・コーポレーションに返還しなくてはっ!?」
「は(はっ)?」
看護師の声とボクの心の声が奇跡的にシンクロし、心とは裏腹にボクの口が勝手な事をほざく。
ど、どうしてしまったというのだ、ボクはっ!?
そんな事は微塵も考えていないだろうっ!
三十億円を返還しては、ボクが全面的に悪かった事を認めてしまう事になる。
認めたら負けだ。これは横領ではない。騙される前に金を取り返したまでっ!
「ボクのスマホはどこに?」
ボクがスマホを看護師に要求すると、「それでしたらここに……」と、スマホを手渡してきた。
何をするつもりだっ!
まさか、スマホで三十億円もの金をアメイジング・コーポレーションに振り込む気かっ!
もはや、自分の手を離れ、勝手に動き出す体。
しかし、まだまだ甘い。スマホで三十億円もの大金を動かす事できる筈が……。
「ああ、君か。ボクだ。西木だがね。振込用紙を持って、病院まで来てくれ。ああ、三十億円ほどアメイジング・コーポレーションに振り込みをしなければならなくてね。頼んだよ」
看護師に病院の住所を聞きくと、石田管理本部長に至急、振込用紙を持って来させようとするボク。
何故、そうまでして三十億円を振り込もうとするのか意味がわからない。
ボクの思いとは裏腹に勝手に動き回る体もだ。
「それじゃあ、石田君が来るまでの間に所要を済ませようか」
石田管理本部長が来るまでの間に、検査を終え警察からの事情聴取を受ける。
その際、警察に三十億円を返済する予定がある事を告げると、アメイジング・コーポレーション側も三十億円を速やかに返還するなら、業務上横領の被害届を取り下げる用意がある事を告げられた。
ただ、警察官に対する公務執行妨害については、別途、反省文の提出を求められる事となった。
幸いな事に、怪我を負わせた訳ではなかった為、真摯に反省しているのであれば、不起訴処分にしてくれるそうだ。
そうこうしている内に、石田管理本部長が病院内にやってきた。
水戸社長と小田原監査等委員も病院に来たようだ。
お見舞いではあるまい。監視の為だろう。
「それじゃあ、石田君。頼んだよ」
「はい。わかりました」
「水戸君と小田原君も迷惑をかけたな……」
通帳と振込用紙を渡すと、二人は石田管理本部長を連れ無言で去っていった。
眩暈がしてきた。
これで三十億円はおじゃん。
手元に残ったものは、不採算部門が纏められた新設会社と、月百万円の社宅。そして、電子的紙切れになる予定のアメイジング・コーポレーションの株式のみ。
恐らく、ボクは次の株主総会で取締役を解任され、社宅を引き上げる事になる。
流石に月百万円なんて払っていられない。
――と、いうより、何なんだこれはっ!?
何故、意思に反して身体が勝手に動くのだっ!
冗談じゃないっ!
これでは、豊かな老後生活を送る事すらできない。
愛人を囲う事も、美味しい物を食べる事も、老人ホームに住む事すらままならない。
ボクが何をしたと言うのだっ!
二十四時間会社の発展を考えてきたからこそ、今のアメイジング・コーポレーションがあるんじゃないか。それを……それをぉぉぉぉ!
その後、病院から留置所送りとなったボクは数日間の勾留と反省文の提出を以って不起訴処分となった。
社宅に戻ると、そこに愛人はおらず、金目の物はすべて無くなっていた。
「ふ、ふふふっ……」
もう。ここまでくると笑えてくる。
膝から崩れ落ち、四つん這いの姿勢を取るも、まだすべてを失った訳ではない。
いいだろう。やってやろうじゃないかっ……。
不採算部門とはいえ、新設会社に着いて来てくれる社員はいる。
ボクはまだやれる。新設会社の不採算部門が黒字になれば再起できる筈だ。
そして、昔の暮らしを取り戻す。
惨めな老後を送るのだけは絶対に嫌だ。周りに惨めだと思われるのも御免だ。
やり直そう。最初からやり直そう。
そして、黒字になったら上場し、株を売ってリタイアする。
アメイジング・コーポレーションを追われた惨めな老人にだけはなってやらない。
いつの間にか自由に動けるようになったボクの身体。
その思いを前に立ち上がると、ボクは腹ごしらえをする為、近くの名代富士そばに向かった。
◇◆◇
私の名は枝野和男。
内部監査室から異動し、総務部へ。高橋翔の退社後、人員不足を理由に経理部に転属する事となったアメイジング・コーポレーションの社員だ。
最近、アメイジング・コーポレーションの業績が落ちている。
正直言って、相当ヤバい状況だ。
実際、本社では会社を辞める人が後を絶えず、崩壊が始まっている。
にも拘らず、私は転職活動すらできずにいた。
経理部が忙しすぎる為だ。時間がない訳ではないが、態々、休日に就職活動するのも正直しんどい。
その為、ようやく第三者委員会の調査報告書が監査法人に渡り、決算開示する事で上場廃止を回避する事はできたが、転職活動は一向に前に進んでいない。
一応、転職サイトに登録して見てはいるが、私に来るオファーの年収が低すぎて動く気にもならないというのも一つある。
私を採用したいのであれば、今の二倍の年収を提示して貰わねば割に合わない。
とはいえ、経理部が一番、会社の状況をわかっている。
正直、この会社に未来はない。二、三年は大丈夫だろうが、四年目は無理だ。確実に倒産する。
そんな時、新しい会社が新設される噂を聞いた。
ネクスト・アメイジングCP株式会社。それが新しく新設される会社の名称だ。
しかも、新設される会社の社長には、この会社の元代表取締役社長である西木社長が就任するらしい。
そして、今、社内では新設される会社の社員募集が社内で行われていた。
私が独自に集めた情報によると、西木社長はこの新設会社を買収するにあたり、三十億円ものお金を支払ったらしい。
毎週土曜日は会社の金でゴルフ場をラウンドし、昼食、夕食は会社の交際費で落とす。役員報酬の八十パーセントは西木元社長の報酬に充てられ、家賃百万円の住居に愛人と共に住んでいる金遣いが荒く自分の保身しか考えていない、あの西木元社長がである。
しかも、ネクスト・アメイジングCP株式会社には、石田管理本部長の異動も決まっている。怪しい限りだ。
会社分割は、通常、経営上優良な事業部門を新設会社に移し、採算の取れない赤字の事業部門と債務の殆どを分割会社に残す、会社にとって都合の良い事業再生手法。
つまり、その情報から考えられる事はただ一つ。
西木元社長は、アメイジング・コーポレーションに不採算部門を残し、ネクスト・アメイジングCP株式会社に優良な事業部門を移す気でいると、そういう事だ。
「枝野。なあ、聞いたか? 新設される会社の社員募集どうするよ?」
「愚問だな。当然、応じるに決まっているだろう」
当たり前だ。あの西木元社長が自分にとって不都合な会社の社長に就任する筈がない。アメイジング・コーポレーションはもうお終いだ。
そう察したからこそ、その結論に至ったのだろう。
代表取締役社長の地位を他の者に押し付ける事によって……。
その際、一悶着あったと聞いているが、おそらく、それはフェイク。
偽の情報だ。社員にその事を悟らせないよう偽ったのだろう。
「他の奴にも言っておけ。今の内に募集に応じた方がいいぞとな。もしこの募集に乗り遅れれば、アメイジング・コーポレーションと共に沈む事になるぞ?」
「……相変わらず、自信満々だな。わかった。他の奴等にも言っておくよ」
「ああ……」
まあ、敢えて言う必要はないが、決断するのは自分自身だ。
好きにしたらいい。
「……そうだ。名ばかり組合とはいえ、この会社に置いておくのは気が引ける。どの道、この会社は終わりだ。今の内に、新しい会社に名義を変えておこう」
そう呟くと、会社の金庫に預けているアメイジング・コーポレーション労働組合の通帳と印鑑を手に取った。
今の組員が新設される会社に行くという事は実質、この金は新設会社で働く組合員の為に使うべきものだ。持っていっても問題ないだろう
そして、数週間後。私達はアメイジング・コーポレーションを辞め、新設会社の社員となった。
「こ、これはどういう……」
新設会社の出社一日目。そうたった一日目にして、私達は新設会社に異動した事を後悔していた。
出社した場所は、アメイジング・コーポレーションがあったビル。
なんで、このビルに出社するのかわからなかったが、出社し、西木社長の言葉を聞いて初めてわかった。
アメイジング・コーポレーションの取締役達は、ネクスト・アメイジングCP株式会社に不採算部門のすべてを……。西木社長に負債のすべてを押し付けたのだとっ……。
しかし、転職する事はできない。
今、退職しては、転職市場で不利に働く。
壊れたサーバー、回復する見込みのない不採算部門、傲慢な社長。
さ、最悪だ……。
「お、おい。これはどういう事だよっ!」
「お前が募集に応じろと言ったからっ! 言ったから募集に応じたんじゃないかっ!」
「お前のせいだっ! どうしてくれるっ!」
私を囲む有象無象。
い、一体、何でこんな事にっ……。
「ち、違うっ! これは私のせいではないっ!」
極限状態に追い込まれた私は必死に考えを巡らせる。
そもそも、何でこんな事になったのかを、何故、アメイジング・コーポレーションはあんな事になってしまったのかを……。
そして、思い付いた。
経理部にいたからこそ、知り得た事情。
西木社長を退任に追い込もうとした存在の名前を……。
「――あいつだ。高橋だっ! 高橋翔だっ! あいつは西木社長に株主代表訴訟を訴えていた。だから、取締役達は西木社長を捨て駒にし、不採算部門をこの会社にすべて集めた……! アメイジング・コーポレーションは裁判に負け、高橋に億単位の賠償を支払ったとも聞いている。私が悪いんじゃない。すべてあいつが悪いんだっ! あいつが、私達をこんな境遇に追いやったんだっ!」
許す事はできないっ!
許せる筈がないっ!
元居たアメイジング・コーポレーションは名を変え、友愛商事の子会社となり存続し、私達はいつ潰れるかもわからない会社の社員となる。
すべての元凶となったのは、会社を訴え、会社分割に追い込んだ高橋だっ!
高橋の事は、入社してきた頃から気にくわなかった。
「そんな事は知るかっ! 自分の憶測をまるで真実みたいな言い方で噂を流しやがってっ!」
「うるさいっ!! いいから黙っていろっ!」
自分ばかり良い思いをしてっ!
会社から賠償金をぶんどってっ!!
今に覚えていろよ……高橋っ!!!
絶対に目にものを見せてやるからなっ!
理不尽な事はわかっている。しかし、他の社員の手前、スケープゴートを用意せざる負えなかった枝野は呟く。
「絶対にぶっ潰してやる」
と、そう。怨嗟の声を込めて……。
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2022年10月4日AM7時更新となります。
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25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
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