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第167話 徴税官・リヒトー再び①
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国中に鳴り響く火災を告げる鐘の音。
その音を聞き、セントラル王国の宰相であるカティ・アドバンスドは顔を上げる。
「今日は火災が多いな……空気が乾燥しているのか?」
そんな呑気な事を言いながら珈琲を口に含むと、立ち上がり窓から外に視線を向ける。
「……ふむ。ここからでは、様子がわからないか」
まあ、すぐに報告が上がってくるだろう。
そう結論付けると、席に着き再び執務に没頭する。
『さ、宰相っ! カティ宰相はいらっしゃいますかっ!』
しばらくの間、執務に没頭していると、慌しい声が廊下から聞こえてきた。
「うん? 騒がしいな。何か問題事でも発生したのか?」
心当たりはある。
先ほどからけたましく鳴り響く鐘の音。
もしかしたら、貴族街に住む貴族の屋敷が燃えたのかも知れない。
若しくは、ゴミ・排泄物処理問題。
兵士達にはゴミ処理場の管理者の言う事をよく聞き、貴族街から率先してゴミ処理を行うように命じてあるが、我儘な貴族が兵士相手に一悶着起こした可能性も考えられる。
この国の貴族は、社会的な特権を世襲している者が多数を占め、良くも悪くも横暴な者が多い。貴族直轄地の税金免除、領民に対する一定の司法権限。他にも、多くの特権が貴族には与えられている。その為、平民に対し、増長しがちだ。
「やれやれ、面倒事でなければいいのだが……」
そう呟くと同時に、宰相室の扉をノックする音が響く。
声を聴くに兵士長・アンハサウェイの様だ。
「入りなさい……」
ため息交じりにそう言うと、血相を変えた兵士長が宰相室に入ってきた。
「……失礼します。至急、宰相閣下にお伝えしたい事がっ!」
「藪から棒にどうしたのです? 貴族の屋敷でも燃えましたか?」
冗談交じりにそう言うと、アンハサウェイは苦虫を噛み潰したかの様な表情を浮かべる。
「二点、報告があります。まず、一点目ですが、国中のゴミ・排泄物処理場で爆発事故が発生しました」
「はっ?」
思いもよらない報告を聞き、唖然とした表情を浮かべるカティ宰相。
ゴミや汚物の回収を兵士達に任せたその日からそんな問題が発生すると思わず、それしか言葉が出てこない。
頭の中でアンハサウェイの言葉を繰り返し、ようやく、その言葉の意味を認識したカティ宰相は心を落ち着かせる為、珈琲を口に含む。
「……それで、被害状況は? 概要を説明しなさい」
「はい。どうやら兵士と処理場の役人との間で、意思疎通できていない部分があった様で……」
「その結果が、その爆発事故ですか……しかし、同時多発的に爆発事故が起こるとは……テロの可能性は?」
「いえ、直接的な原因はゴミに紛れていたモンスターの魔石。これを処理場で焼却した事にあります。テロの可能性は低いかと……」
「そうですか……しかし、困りましたね」
ゴミ・排泄物処理場での爆発事故。
しかも、同時多発的にそんな事が起きれば、ゴミ処理機能が麻痺してしまう。
その結果、何が起こるのかは明白だ。
ゴミ・排泄物処理場を建て直すにしても時間がかかる。
立て直す為の費用だって馬鹿にならない。
「……起こってしまった事は仕方がありません。ゴミの分別には、細心の注意を持って行うように。ゴミと汚物は稼動している処理場に回しなさい。詳細な被害状況が纏まり次第、早急に連絡を上げるように」
「はい。それともう一点。ゴミ処理に当たっていた兵士の殆どが本日付の退職を申し上げてきました……」
「はっ?」
今、何と言ったのだろうか?
ゴミ・排泄物処理場の爆発事故だけでもお腹一杯だというのに、ここにきての兵士の大量退職??
しかも、ゴミ処理に当たっていた兵士の殆どが本日付の退職を申し上げてきた、だと……。
どうやら突発性の難聴が発症したようだ。
「……すまないな、兵士長。もう一度、報告を聞かせてくれないか?」
アンハサウェイも心の中で頭を抱えながら報告を上げる。
「……はい。ゴミ処理に当たっていた兵士の殆どが本日付の退職を申し上げてきました」
どうやら聞き間違えではなかったようだな。
それを聞いた瞬間、カティ宰相は文字通り頭を抱えた。
「……当然、引き止めたのだろうな?」
「はい。引き止めはしましたが、退職の決意は固く……」
「そうか……」
兵士にゴミ・汚物回収をさせたのが悪かったのだろうか?
しかし、拙いな。兵士にたった一日、ゴミ回収をさせただけでこの有り様か……。
これは、至急、対応しなくてはならない事態だ。
国防の要である兵士達がゴミ回収嫌さに大量離職した事が周辺国にバレれば大変な事になる。
「アンハサウェイ。君はもう一度、彼等の説得に当たってくれ。私は至急対応策を考える」
「はい。わかりました」
アンハサウェイの表情が硬い。
恐らく、説得は不可能と考えているのだろう。
アンハサウェイは、渋々、頷くと宰相室から出て行く。
しかし、困った。本当に困った。
これでは、ゴミ回収の目途が立たない。
警備業務に就けた兵士達をゴミ回収に向かわせるのも難しい。
ゴミ回収に就けた瞬間、二の枚になる可能性が拭えない為だ。
こうなったら、国民にゴミ回収を命じる他ないが、貴族連中は絶対にそれをやりたがらないだろうし、貴族直轄地のゴミ回収は国民が行う事。等といった命令を出せば、暴動が起きるかも知れない。
ゴミ・排泄物処理場の修繕費を賄う為、国民に増税を課すことも難しい。
兵士が大量退職した今、国民の暴動が起きればこの国はお終いだ。
何せ、それを抑える兵士の大半が退職してしまったのだから。
回答のない問題を解いているようで頭が痛くなってくる。
しかし、どうする。増税をしなければ、ゴミ・排泄物処理場の修繕費を賄う事もできない。兵士達がいなければ、暴動を抑える事もできない。
ゴミ回収も放置できないし、兵士をゴミ回収に当てればどうなるかは目に見えている。
とはいえ、国中のゴミや排泄物をそのままにしておく訳にはいかない。
ならば、取れる所から取るしかない。
暴動による被害を最小限に抑えつつ税金を取れる所。そう。貴族である。
この国の税制は云わば、身分制度に基づく不公平な課税制度。
平民に税を課し、特権を持つ貴族は贅を尽くす徴税請負制度を取っている。
徴税請負制度というのは、云わば、裕福な者が徴税特権を持つ事で更に裕福となり、国民から税金を毟り取る制度だ。
王都では、まだマシな税制を敷いているので目立った反発もないが、貴族直轄地では酷い税金を課しているという。ちなみに冒険者協会に対する徴税特権は貴族に渡していない。冒険者として稼いだ金額に対する課税は冒険者協会のルールが適用される。
案外、冒険者になりたい者が増加傾向にあるのも、こういった点が関係しているのかも知れないな、と苦笑するカティ宰相。
冒険者協会や貴族に借金するという方法もあるが、これも悪手だ。
既に多額の資金を貴族から借りている。
税制にメスを入れ、貴族に徴税しようとしているにも係わらず、その様な事をしては本末転倒だ。
「……仕方がない。これは国家存続の危機だ。貴族も、国民もわかってくれるだろう」
貴族からも徴税するとわかれば、国民も納得してくれるはずだ。
そう呟くと、カティ宰相は立ち上がり、財務大臣の下に向かった。
◇◆◇
翌日。セントラル王国中に御布令が出る。
その御布令を見た俺こと、翔は目を丸くした。
「カティ宰相の奴、やってくれたな……」
御布令には、ゴミ・排泄物処理場修繕を行う為、緊急徴収を行う事が書かれていた。
対象は奴隷・冒険者を除く全国民の一年間の所得。
しかも、事業者に対する税率は、利益の五十パーセント。貴族に対する税率は五パーセントだ。それでいて、事業者は、従業員に支払っている給与の十パーセントを従業員の代わりに支払わなければならないらしい。
アホらしくて話にならない。
何だ、貴族に対する五パーセントの税率って?
もしかして、貴族にも税金を徴収していますよアピールか??
徴収は徴税官が一軒一軒回って徴収すると書いてあるが、無理筋じゃね?
そんなことできるなら徴税官が一軒一軒回ってゴミの回収巡りをしろよと思う。
しかも、ゴミ・汚物の回収、処理場への運び込みはすべて国民一人一人が行う事?
処理場がぶっ壊れているのにどこにゴミを置けというのだろうか?
ちょっと言っている意味がわからない。
「アホらし……」
そう呟き、『微睡の宿』に戻ると、そこにはセントラル王国の徴税官・リヒトーが待っていた。前と同じく兵士を連れての参上だ。
御布令に書かれていた通り、税金を徴収しに来たのだろう。
「こんにちは、しばらくぶりですね。徴税官のリヒトーです」
「……できる事なら一生顔を合わせたくなかったよ。それで、こんなしがない宿の所有者である俺に何の用です? また家宅捜索ですか?」
あえてそう言うと、リヒトーは眉をひそめた。
「……御冗談を御布令に書いてあったでしょう? 徴収ですよ。あなたは冒険者ですからね。冒険者協会を通じて取引している売買については課税いたしません。しかし、この宿の経営、そして冒険者や元兵士、国民を雇って行っている事業については別です。さあ、財務諸表を見せて下さい。労働者名簿もです」
「財務諸表に労働者名簿をねぇ……見てもつまらないと思いますよ?」
今回、俺は採算を度外視して嫌がらせに走っている。
正直、見るだけ無駄だ。だから、他の所に徴収に行きボコボコにされて来い。
そんな細やかな思いを込めて言うと、リヒトーは目を細める。
「……それを判断するのは私です。いいから見せなさい」
「わかりましたよ。それじゃあ、ついて来て下さい。ああ、一つだけ忠告を……」
俺は満面の笑顔を浮かべながら、リヒトーへ忠告する。
「……これ以上、無法は働かない方が身のためですよ?」
「無法? もしかして、家宅捜索の事を仰られているのですか? 何か誤解があるようですが、あれは国法に基づいた捜索行為の一環ですよ。それに……もしかして、私達、脅されています?」
「いえいえ、脅しだなんて大仰な……あくまでも忠告です……」
偽りのない誠意を持って他者を諭すといった意味をもった言葉だ。
まあいい。忠告は済ませた。
「……それでは、立ち話も何なので、こちらにどうぞ」
「ええ、お邪魔させて頂きます」
そう言うと、俺はリヒトー達を微睡の宿に招き入れた。
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2022年10月24日AM7時更新となります。
その音を聞き、セントラル王国の宰相であるカティ・アドバンスドは顔を上げる。
「今日は火災が多いな……空気が乾燥しているのか?」
そんな呑気な事を言いながら珈琲を口に含むと、立ち上がり窓から外に視線を向ける。
「……ふむ。ここからでは、様子がわからないか」
まあ、すぐに報告が上がってくるだろう。
そう結論付けると、席に着き再び執務に没頭する。
『さ、宰相っ! カティ宰相はいらっしゃいますかっ!』
しばらくの間、執務に没頭していると、慌しい声が廊下から聞こえてきた。
「うん? 騒がしいな。何か問題事でも発生したのか?」
心当たりはある。
先ほどからけたましく鳴り響く鐘の音。
もしかしたら、貴族街に住む貴族の屋敷が燃えたのかも知れない。
若しくは、ゴミ・排泄物処理問題。
兵士達にはゴミ処理場の管理者の言う事をよく聞き、貴族街から率先してゴミ処理を行うように命じてあるが、我儘な貴族が兵士相手に一悶着起こした可能性も考えられる。
この国の貴族は、社会的な特権を世襲している者が多数を占め、良くも悪くも横暴な者が多い。貴族直轄地の税金免除、領民に対する一定の司法権限。他にも、多くの特権が貴族には与えられている。その為、平民に対し、増長しがちだ。
「やれやれ、面倒事でなければいいのだが……」
そう呟くと同時に、宰相室の扉をノックする音が響く。
声を聴くに兵士長・アンハサウェイの様だ。
「入りなさい……」
ため息交じりにそう言うと、血相を変えた兵士長が宰相室に入ってきた。
「……失礼します。至急、宰相閣下にお伝えしたい事がっ!」
「藪から棒にどうしたのです? 貴族の屋敷でも燃えましたか?」
冗談交じりにそう言うと、アンハサウェイは苦虫を噛み潰したかの様な表情を浮かべる。
「二点、報告があります。まず、一点目ですが、国中のゴミ・排泄物処理場で爆発事故が発生しました」
「はっ?」
思いもよらない報告を聞き、唖然とした表情を浮かべるカティ宰相。
ゴミや汚物の回収を兵士達に任せたその日からそんな問題が発生すると思わず、それしか言葉が出てこない。
頭の中でアンハサウェイの言葉を繰り返し、ようやく、その言葉の意味を認識したカティ宰相は心を落ち着かせる為、珈琲を口に含む。
「……それで、被害状況は? 概要を説明しなさい」
「はい。どうやら兵士と処理場の役人との間で、意思疎通できていない部分があった様で……」
「その結果が、その爆発事故ですか……しかし、同時多発的に爆発事故が起こるとは……テロの可能性は?」
「いえ、直接的な原因はゴミに紛れていたモンスターの魔石。これを処理場で焼却した事にあります。テロの可能性は低いかと……」
「そうですか……しかし、困りましたね」
ゴミ・排泄物処理場での爆発事故。
しかも、同時多発的にそんな事が起きれば、ゴミ処理機能が麻痺してしまう。
その結果、何が起こるのかは明白だ。
ゴミ・排泄物処理場を建て直すにしても時間がかかる。
立て直す為の費用だって馬鹿にならない。
「……起こってしまった事は仕方がありません。ゴミの分別には、細心の注意を持って行うように。ゴミと汚物は稼動している処理場に回しなさい。詳細な被害状況が纏まり次第、早急に連絡を上げるように」
「はい。それともう一点。ゴミ処理に当たっていた兵士の殆どが本日付の退職を申し上げてきました……」
「はっ?」
今、何と言ったのだろうか?
ゴミ・排泄物処理場の爆発事故だけでもお腹一杯だというのに、ここにきての兵士の大量退職??
しかも、ゴミ処理に当たっていた兵士の殆どが本日付の退職を申し上げてきた、だと……。
どうやら突発性の難聴が発症したようだ。
「……すまないな、兵士長。もう一度、報告を聞かせてくれないか?」
アンハサウェイも心の中で頭を抱えながら報告を上げる。
「……はい。ゴミ処理に当たっていた兵士の殆どが本日付の退職を申し上げてきました」
どうやら聞き間違えではなかったようだな。
それを聞いた瞬間、カティ宰相は文字通り頭を抱えた。
「……当然、引き止めたのだろうな?」
「はい。引き止めはしましたが、退職の決意は固く……」
「そうか……」
兵士にゴミ・汚物回収をさせたのが悪かったのだろうか?
しかし、拙いな。兵士にたった一日、ゴミ回収をさせただけでこの有り様か……。
これは、至急、対応しなくてはならない事態だ。
国防の要である兵士達がゴミ回収嫌さに大量離職した事が周辺国にバレれば大変な事になる。
「アンハサウェイ。君はもう一度、彼等の説得に当たってくれ。私は至急対応策を考える」
「はい。わかりました」
アンハサウェイの表情が硬い。
恐らく、説得は不可能と考えているのだろう。
アンハサウェイは、渋々、頷くと宰相室から出て行く。
しかし、困った。本当に困った。
これでは、ゴミ回収の目途が立たない。
警備業務に就けた兵士達をゴミ回収に向かわせるのも難しい。
ゴミ回収に就けた瞬間、二の枚になる可能性が拭えない為だ。
こうなったら、国民にゴミ回収を命じる他ないが、貴族連中は絶対にそれをやりたがらないだろうし、貴族直轄地のゴミ回収は国民が行う事。等といった命令を出せば、暴動が起きるかも知れない。
ゴミ・排泄物処理場の修繕費を賄う為、国民に増税を課すことも難しい。
兵士が大量退職した今、国民の暴動が起きればこの国はお終いだ。
何せ、それを抑える兵士の大半が退職してしまったのだから。
回答のない問題を解いているようで頭が痛くなってくる。
しかし、どうする。増税をしなければ、ゴミ・排泄物処理場の修繕費を賄う事もできない。兵士達がいなければ、暴動を抑える事もできない。
ゴミ回収も放置できないし、兵士をゴミ回収に当てればどうなるかは目に見えている。
とはいえ、国中のゴミや排泄物をそのままにしておく訳にはいかない。
ならば、取れる所から取るしかない。
暴動による被害を最小限に抑えつつ税金を取れる所。そう。貴族である。
この国の税制は云わば、身分制度に基づく不公平な課税制度。
平民に税を課し、特権を持つ貴族は贅を尽くす徴税請負制度を取っている。
徴税請負制度というのは、云わば、裕福な者が徴税特権を持つ事で更に裕福となり、国民から税金を毟り取る制度だ。
王都では、まだマシな税制を敷いているので目立った反発もないが、貴族直轄地では酷い税金を課しているという。ちなみに冒険者協会に対する徴税特権は貴族に渡していない。冒険者として稼いだ金額に対する課税は冒険者協会のルールが適用される。
案外、冒険者になりたい者が増加傾向にあるのも、こういった点が関係しているのかも知れないな、と苦笑するカティ宰相。
冒険者協会や貴族に借金するという方法もあるが、これも悪手だ。
既に多額の資金を貴族から借りている。
税制にメスを入れ、貴族に徴税しようとしているにも係わらず、その様な事をしては本末転倒だ。
「……仕方がない。これは国家存続の危機だ。貴族も、国民もわかってくれるだろう」
貴族からも徴税するとわかれば、国民も納得してくれるはずだ。
そう呟くと、カティ宰相は立ち上がり、財務大臣の下に向かった。
◇◆◇
翌日。セントラル王国中に御布令が出る。
その御布令を見た俺こと、翔は目を丸くした。
「カティ宰相の奴、やってくれたな……」
御布令には、ゴミ・排泄物処理場修繕を行う為、緊急徴収を行う事が書かれていた。
対象は奴隷・冒険者を除く全国民の一年間の所得。
しかも、事業者に対する税率は、利益の五十パーセント。貴族に対する税率は五パーセントだ。それでいて、事業者は、従業員に支払っている給与の十パーセントを従業員の代わりに支払わなければならないらしい。
アホらしくて話にならない。
何だ、貴族に対する五パーセントの税率って?
もしかして、貴族にも税金を徴収していますよアピールか??
徴収は徴税官が一軒一軒回って徴収すると書いてあるが、無理筋じゃね?
そんなことできるなら徴税官が一軒一軒回ってゴミの回収巡りをしろよと思う。
しかも、ゴミ・汚物の回収、処理場への運び込みはすべて国民一人一人が行う事?
処理場がぶっ壊れているのにどこにゴミを置けというのだろうか?
ちょっと言っている意味がわからない。
「アホらし……」
そう呟き、『微睡の宿』に戻ると、そこにはセントラル王国の徴税官・リヒトーが待っていた。前と同じく兵士を連れての参上だ。
御布令に書かれていた通り、税金を徴収しに来たのだろう。
「こんにちは、しばらくぶりですね。徴税官のリヒトーです」
「……できる事なら一生顔を合わせたくなかったよ。それで、こんなしがない宿の所有者である俺に何の用です? また家宅捜索ですか?」
あえてそう言うと、リヒトーは眉をひそめた。
「……御冗談を御布令に書いてあったでしょう? 徴収ですよ。あなたは冒険者ですからね。冒険者協会を通じて取引している売買については課税いたしません。しかし、この宿の経営、そして冒険者や元兵士、国民を雇って行っている事業については別です。さあ、財務諸表を見せて下さい。労働者名簿もです」
「財務諸表に労働者名簿をねぇ……見てもつまらないと思いますよ?」
今回、俺は採算を度外視して嫌がらせに走っている。
正直、見るだけ無駄だ。だから、他の所に徴収に行きボコボコにされて来い。
そんな細やかな思いを込めて言うと、リヒトーは目を細める。
「……それを判断するのは私です。いいから見せなさい」
「わかりましたよ。それじゃあ、ついて来て下さい。ああ、一つだけ忠告を……」
俺は満面の笑顔を浮かべながら、リヒトーへ忠告する。
「……これ以上、無法は働かない方が身のためですよ?」
「無法? もしかして、家宅捜索の事を仰られているのですか? 何か誤解があるようですが、あれは国法に基づいた捜索行為の一環ですよ。それに……もしかして、私達、脅されています?」
「いえいえ、脅しだなんて大仰な……あくまでも忠告です……」
偽りのない誠意を持って他者を諭すといった意味をもった言葉だ。
まあいい。忠告は済ませた。
「……それでは、立ち話も何なので、こちらにどうぞ」
「ええ、お邪魔させて頂きます」
そう言うと、俺はリヒトー達を微睡の宿に招き入れた。
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2022年10月24日AM7時更新となります。
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