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第168話 徴税官・リヒトー再び②
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微睡の宿に入ってすぐ、俺は支配人に命じた。
「支店長。国から馬鹿げた御布令が出た。国は爆破・炎上した処理場の修繕費を国民から金を巻き上げる事でチャラにしたいらしい。王国内で事業をする者は、利益の五十パーセントを税金として緊急徴収するとの事だ。しかも、事業者は従業員に支払った給与の十パーセントも支払わなければならないんだと……。馬鹿馬鹿しい上、意味がないとは思うけど、この税金泥棒達が財務諸表と労働者名簿を見せてくれと傲慢な事を言ってくるから、財務諸表と労働者名簿。ついでに給与台帳もここに持ってきてくれ……。ああ、念の為、会社事業概況書も。それと、こいつ等は客じゃないから、茶は出さなくていいぞ。代わりに塩を持ってきてくれ。こいつ等が帰ってすぐ玄関に撒くから」
俺が言った『馬鹿げた御布令』の部分で、リヒトーが眉を顰めたが、どうでもいい。
国の役割すら碌にこなせない税金泥棒に何を言っても意味がないからだからだ。
国の上層部はゴミとクソ塗れな国で暮らす国民の民意をまるでわかっていない。
俺がそうなるよう立ち回った事にも原因はあるが、国の上層部は国民の数と徴収可能な税金の金額にしか興味がないのだろう。
だからこんなふざけた御布令を出す事ができる。
この後、税金を強制徴収する為、徴税官であるリヒトーは事業者の下を回るのだろう。国が発令した馬鹿げた御布令に従って。自分の職務を果たす為に……。
まるで、盗賊団の団長命令に従い、税金という名の略奪を行う下っ端盗賊のようだ。
「カケル様。財務諸表と労働者名簿、会社事業概況書と給与台帳をお持ちしました」
「ああ、ありがとう。さて、こちらにどうぞ。徴税官様」
支配人から財務諸表と労働者名簿、そして会社事業概況書、給与台帳を受け取った俺は、それをテーブルに置き、徴税官であるリヒトーを席に招く。
「……ええ、それでは拝見させて頂きましょう」
俺の態度にキレ気味のリヒトー。
キレたいのは俺の方である。
この国に人の目と、法律という名の国民の自由と財産を制限する実法定規範がなければ、今頃、従業員総出で国民を先導し、王城にモブフェンリル・バズーカを数億発撃ち込み瓦礫の山にしている所だ。
それ程に、俺の経営する宿をイチャもんで破壊した罪は重い。
パラパラと財務諸表をめくると、リヒトーは顔を顰める。
「……冗談でしょう? 何ですか、このふざけた財務諸表は?」
「何か問題でも?」
この財務諸表は支配人と元経理部員である俺が作り上げたものだ。
正確に作り上げているので、問題などあり得ない。
とぼけた声でそう言うと、リヒトーは苛立ち、手をテーブルに叩き付けた後、声を荒げた。
「問題しかないでしょう! 何です、この法外な人件費はっ! 毎月、赤字……しかも、たった一月で一千億近くの経費計上……あり得ない! 馬鹿にするのもいい加減にして下さいっ!」
ああ、その事か。どうやら徴税官であるリヒトー君には、決算書を読む力が無いようだ。
きっと、税金を徴税する事しか考えていないから理解できないのだろう。
「……無知というのは本当に恐ろしいですね。徴税官様は税金を徴収する以外、何も理解されていないようだ」
「なにっ!?」
俺の言葉に激怒するリヒトー。
会社事業概況書を手に取り、リヒトーの顔の前に近付け、ヒラヒラさせる。
「……何の為に会社事業概況書を用意していると思ってるんですか? 事業内容や労働者数、その他諸々を確認する為でしょう?」
至極真っ当な事を真っ当に指摘されたリヒトーは顔を真っ赤に染める。
もしかしたら、煽り耐性がないのかも知れない。
「……ちっ!」
そう舌打ちすると、会社事業概況書を奪い取り目を通していく。
そして、労働者数に視線を向けると、今度は目を剥き声を荒げた。
「ろ、労働者数、十万人っ!? そ、そんな馬鹿なっ! あり得ないっ!」
馬鹿ではない。すべて事実である。日当で働く冒険者を合わせれば、その数は更に倍になる。
今回、俺はマイルームで手に入れたゲーム内通貨を使い、採算度外視でセントラル王国中のエッセンシャルワーカーを雇い入れた。
その数、十万人。この王都には、百万人の王国民が住んでいるので、王都の人口だけで見るなら十人に一人が俺の下で働いている事になる。
日雇い冒険者も合わせると、その数は更に膨大だ。
何せ、セントラル王国中の低ランク冒険者の殆どが、俺の依頼を受けているのだから。
ちなみに、僅か数日しか経っていないにも係わらず、この国がゴミだらけになってしまった理由。その原因の大半は俺にある。勿論、家庭内で発生したゴミも三割ほどあるだろうが、七割は俺達が出したゴミだ。雇った冒険者達が狩ったモンスターの成れの果てともいう。
しかし、そのゴミ……もとい、素材を取り尽くした後のモンスターの成れの果ては、冒険者協会の規定に従い、ちゃんと処置した上で、現実世界の粗大ゴミと同じく処理手数料を冒険者協会経由で国に支払い。所定の場所に捨てている。
普段であれば、エッセンシャルワーカーである低ランク冒険者が国の命に従い、所定の場所に置かれたそれをゴミ・排泄物処理場に持ち運んでくれるのだが、エッセンシャルワーカーを軒並み採用してしまった為、運ぶ者がいなかった。
いや、ある程度、いるにはいたんだろうが、そいつ等も貴族街のゴミを優先して回収していたから、手が回らなかったのだろう。
結果として、毎日溜まり続けるゴミの回収に追い付かず、国中にゴミが積み上げられた。そして、ゴミの回収に不慣れな兵士が不運にも体内にまだ魔石が残されていたモンスターの成れの果てをゴミ・排泄物処理場に運び爆発事故が起こったと、そう言う事である。なお、解体も国の指定した解体業者がしているので、体内に魔石が残っていたとしても、それは俺の責任ではない。所定の処理手数料も支払っているので、俺は悪くない筈だ。
――と、いうのは建前で、仕方がなかったのだ。
国中の人を際限なく雇いまくった結果、何が起こったのか。
微睡の宿の支配人が泣きついてきたのだ。
それも、宿で働く労働者全員を従えて……。
『カケル様っ! むやみやたらに人を雇い続けては破綻してしまいますっ! お願いですからもうお止め下さい!』と言ってきた。
あれには焦った。
まさか、支配人が涙ながらに俺の行いを説得してこようとは……。
思わず、『あ、ああ、わかったよ』と即答してしまいそうになった。
ただでさえ、利益度外視で微睡の宿を経営しているのだ。
金を湯水のように使い労働者を雇い入れ、たいした仕事をさせるつもりのない俺を見て、支配人は発狂したのだと思ったのだろう。
金に余裕のある俺としては、雇うだけ雇って、金を支払い。しばらく様子を見るつもりだったが、完全に当てが外れた。
支配人が納得できる答えを出さなければ、『お暇を頂きます』とか言って辞めてしまいそうな勢いだった為だ。
だから、俺は、労働者と雇い入れた冒険者達全員にダンジョンでのモンスターハントを命じた。勿論、安全面には最大限考慮している。
ある程度レベルが上り、低ランク冒険者から中ランク冒険者クラスのレベルになれば、日当二万コル程度の金額、簡単に稼げるようになる。
ちょっと、中級ダンジョンに入り、ボスモンスターをぶっ倒して素材を剥ぐだけで、大金を稼ぐ事ができるようになるのだ。
それだけ稼ぐ事ができれば、もうエッセンシャルワーカーに戻る事はないだろう。
ついでに、そのまま俺の元から離れてくれれば万々歳だ。
とはいえ、折角、育て上げた労働者。
できれば少し位は残って欲しいという思惑もある。
既にセントラル王国の各地で宿泊業や、ゴミ処理業の他、様々な業務を営んでおり、国中がゴミで溢れかえっている為か、宿泊業は大盛況だ。
俺が持っている土地、建物の周辺はゴミ清掃が行き届いている為、多くの人が利用してくれている。やはり汚い場所に住むというのは、それだけで苦痛を伴うのだろう。まあ、それでも赤字なのだけれども。
俺は、目を剥き大袈裟に騒ぐリヒトーに視線を向けると、ため息を吐きながら告げる。
「労働者名簿を見ればわかると思いますが、事実です。いい加減、自分の物差しで俺の事を測るの止めて頂けますか?」
「うぐっ!? で、ですがっ!」
十万人以上の労働者を雇っている事に納得できないのだろう。
このままでは、税金を徴収できないと思ったのかも知れない。
リヒトーは目を血走らせながら書類を漁る。
そして、給与台帳を見て、『ふひっ』と笑った。
よからぬ事を考えているのが透けて見える。
俺は今回出された馬鹿げた御布令の中に、『事業者は従業員に支払った給与の十パーセントも支払わなければならない』といった文章が書かれていた事を思い出す。
「……わかりました。赤字ならば仕方がありません。利益に対する五十パーセントの課税については諦めましょう」
当然だ。御布令に『利益の五十パーセント』と書かれていたので当たり前の事である。
「しかし、こちらについては話が別です。従業員に支払った給与の十パーセントについては、即刻、支払って頂きます!」
人件費に一千億コル。これには、冒険者に対して支払った日当も入っているので、それを除いたとしても相当の金額を支払う事になるだろう。
普通であれば……。
俺はふんぞり返るリヒトーに向かって笑顔を浮かべる。
「そうですか。それでは、具体的に納める金額を算定して下さい。給与名簿があるので簡単ですよね?」
そう言うと、リヒトーは一瞬、戸惑い積み上がった労働者名簿と給与台帳に視線を向ける。
「……先に行っておきますが、うちで働く従業員は御布令の課税対象外。そのため、『従業員に支払った給与の十パーセント』に対する課税は拒否させて頂きます。もし従業員に当たる人がいるなら教えて下さい」
「はあっ? 何を言っているのです? 従業員がいないなんて、そんな筈がないでしょう。そこにいる支配人は? 宿で働いている者は誰なのです? まさか従業員ではないと言い張るつもりではないでしょうね?」
「……ですので、具体的にどの従業員が御布令に当たる課税対象の従業員なのか教えて下さいと言っています。お願いしますよ。徴税官様? 払う金額が分からないのでは納税できないではありませんか」
「……いいでしょう」
そう呟くと、リヒトーは膨大な数の労働者名簿と給与台帳をめくりながら税金計算を始めた。
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2022年10月26日AM7時更新となります。
「支店長。国から馬鹿げた御布令が出た。国は爆破・炎上した処理場の修繕費を国民から金を巻き上げる事でチャラにしたいらしい。王国内で事業をする者は、利益の五十パーセントを税金として緊急徴収するとの事だ。しかも、事業者は従業員に支払った給与の十パーセントも支払わなければならないんだと……。馬鹿馬鹿しい上、意味がないとは思うけど、この税金泥棒達が財務諸表と労働者名簿を見せてくれと傲慢な事を言ってくるから、財務諸表と労働者名簿。ついでに給与台帳もここに持ってきてくれ……。ああ、念の為、会社事業概況書も。それと、こいつ等は客じゃないから、茶は出さなくていいぞ。代わりに塩を持ってきてくれ。こいつ等が帰ってすぐ玄関に撒くから」
俺が言った『馬鹿げた御布令』の部分で、リヒトーが眉を顰めたが、どうでもいい。
国の役割すら碌にこなせない税金泥棒に何を言っても意味がないからだからだ。
国の上層部はゴミとクソ塗れな国で暮らす国民の民意をまるでわかっていない。
俺がそうなるよう立ち回った事にも原因はあるが、国の上層部は国民の数と徴収可能な税金の金額にしか興味がないのだろう。
だからこんなふざけた御布令を出す事ができる。
この後、税金を強制徴収する為、徴税官であるリヒトーは事業者の下を回るのだろう。国が発令した馬鹿げた御布令に従って。自分の職務を果たす為に……。
まるで、盗賊団の団長命令に従い、税金という名の略奪を行う下っ端盗賊のようだ。
「カケル様。財務諸表と労働者名簿、会社事業概況書と給与台帳をお持ちしました」
「ああ、ありがとう。さて、こちらにどうぞ。徴税官様」
支配人から財務諸表と労働者名簿、そして会社事業概況書、給与台帳を受け取った俺は、それをテーブルに置き、徴税官であるリヒトーを席に招く。
「……ええ、それでは拝見させて頂きましょう」
俺の態度にキレ気味のリヒトー。
キレたいのは俺の方である。
この国に人の目と、法律という名の国民の自由と財産を制限する実法定規範がなければ、今頃、従業員総出で国民を先導し、王城にモブフェンリル・バズーカを数億発撃ち込み瓦礫の山にしている所だ。
それ程に、俺の経営する宿をイチャもんで破壊した罪は重い。
パラパラと財務諸表をめくると、リヒトーは顔を顰める。
「……冗談でしょう? 何ですか、このふざけた財務諸表は?」
「何か問題でも?」
この財務諸表は支配人と元経理部員である俺が作り上げたものだ。
正確に作り上げているので、問題などあり得ない。
とぼけた声でそう言うと、リヒトーは苛立ち、手をテーブルに叩き付けた後、声を荒げた。
「問題しかないでしょう! 何です、この法外な人件費はっ! 毎月、赤字……しかも、たった一月で一千億近くの経費計上……あり得ない! 馬鹿にするのもいい加減にして下さいっ!」
ああ、その事か。どうやら徴税官であるリヒトー君には、決算書を読む力が無いようだ。
きっと、税金を徴税する事しか考えていないから理解できないのだろう。
「……無知というのは本当に恐ろしいですね。徴税官様は税金を徴収する以外、何も理解されていないようだ」
「なにっ!?」
俺の言葉に激怒するリヒトー。
会社事業概況書を手に取り、リヒトーの顔の前に近付け、ヒラヒラさせる。
「……何の為に会社事業概況書を用意していると思ってるんですか? 事業内容や労働者数、その他諸々を確認する為でしょう?」
至極真っ当な事を真っ当に指摘されたリヒトーは顔を真っ赤に染める。
もしかしたら、煽り耐性がないのかも知れない。
「……ちっ!」
そう舌打ちすると、会社事業概況書を奪い取り目を通していく。
そして、労働者数に視線を向けると、今度は目を剥き声を荒げた。
「ろ、労働者数、十万人っ!? そ、そんな馬鹿なっ! あり得ないっ!」
馬鹿ではない。すべて事実である。日当で働く冒険者を合わせれば、その数は更に倍になる。
今回、俺はマイルームで手に入れたゲーム内通貨を使い、採算度外視でセントラル王国中のエッセンシャルワーカーを雇い入れた。
その数、十万人。この王都には、百万人の王国民が住んでいるので、王都の人口だけで見るなら十人に一人が俺の下で働いている事になる。
日雇い冒険者も合わせると、その数は更に膨大だ。
何せ、セントラル王国中の低ランク冒険者の殆どが、俺の依頼を受けているのだから。
ちなみに、僅か数日しか経っていないにも係わらず、この国がゴミだらけになってしまった理由。その原因の大半は俺にある。勿論、家庭内で発生したゴミも三割ほどあるだろうが、七割は俺達が出したゴミだ。雇った冒険者達が狩ったモンスターの成れの果てともいう。
しかし、そのゴミ……もとい、素材を取り尽くした後のモンスターの成れの果ては、冒険者協会の規定に従い、ちゃんと処置した上で、現実世界の粗大ゴミと同じく処理手数料を冒険者協会経由で国に支払い。所定の場所に捨てている。
普段であれば、エッセンシャルワーカーである低ランク冒険者が国の命に従い、所定の場所に置かれたそれをゴミ・排泄物処理場に持ち運んでくれるのだが、エッセンシャルワーカーを軒並み採用してしまった為、運ぶ者がいなかった。
いや、ある程度、いるにはいたんだろうが、そいつ等も貴族街のゴミを優先して回収していたから、手が回らなかったのだろう。
結果として、毎日溜まり続けるゴミの回収に追い付かず、国中にゴミが積み上げられた。そして、ゴミの回収に不慣れな兵士が不運にも体内にまだ魔石が残されていたモンスターの成れの果てをゴミ・排泄物処理場に運び爆発事故が起こったと、そう言う事である。なお、解体も国の指定した解体業者がしているので、体内に魔石が残っていたとしても、それは俺の責任ではない。所定の処理手数料も支払っているので、俺は悪くない筈だ。
――と、いうのは建前で、仕方がなかったのだ。
国中の人を際限なく雇いまくった結果、何が起こったのか。
微睡の宿の支配人が泣きついてきたのだ。
それも、宿で働く労働者全員を従えて……。
『カケル様っ! むやみやたらに人を雇い続けては破綻してしまいますっ! お願いですからもうお止め下さい!』と言ってきた。
あれには焦った。
まさか、支配人が涙ながらに俺の行いを説得してこようとは……。
思わず、『あ、ああ、わかったよ』と即答してしまいそうになった。
ただでさえ、利益度外視で微睡の宿を経営しているのだ。
金を湯水のように使い労働者を雇い入れ、たいした仕事をさせるつもりのない俺を見て、支配人は発狂したのだと思ったのだろう。
金に余裕のある俺としては、雇うだけ雇って、金を支払い。しばらく様子を見るつもりだったが、完全に当てが外れた。
支配人が納得できる答えを出さなければ、『お暇を頂きます』とか言って辞めてしまいそうな勢いだった為だ。
だから、俺は、労働者と雇い入れた冒険者達全員にダンジョンでのモンスターハントを命じた。勿論、安全面には最大限考慮している。
ある程度レベルが上り、低ランク冒険者から中ランク冒険者クラスのレベルになれば、日当二万コル程度の金額、簡単に稼げるようになる。
ちょっと、中級ダンジョンに入り、ボスモンスターをぶっ倒して素材を剥ぐだけで、大金を稼ぐ事ができるようになるのだ。
それだけ稼ぐ事ができれば、もうエッセンシャルワーカーに戻る事はないだろう。
ついでに、そのまま俺の元から離れてくれれば万々歳だ。
とはいえ、折角、育て上げた労働者。
できれば少し位は残って欲しいという思惑もある。
既にセントラル王国の各地で宿泊業や、ゴミ処理業の他、様々な業務を営んでおり、国中がゴミで溢れかえっている為か、宿泊業は大盛況だ。
俺が持っている土地、建物の周辺はゴミ清掃が行き届いている為、多くの人が利用してくれている。やはり汚い場所に住むというのは、それだけで苦痛を伴うのだろう。まあ、それでも赤字なのだけれども。
俺は、目を剥き大袈裟に騒ぐリヒトーに視線を向けると、ため息を吐きながら告げる。
「労働者名簿を見ればわかると思いますが、事実です。いい加減、自分の物差しで俺の事を測るの止めて頂けますか?」
「うぐっ!? で、ですがっ!」
十万人以上の労働者を雇っている事に納得できないのだろう。
このままでは、税金を徴収できないと思ったのかも知れない。
リヒトーは目を血走らせながら書類を漁る。
そして、給与台帳を見て、『ふひっ』と笑った。
よからぬ事を考えているのが透けて見える。
俺は今回出された馬鹿げた御布令の中に、『事業者は従業員に支払った給与の十パーセントも支払わなければならない』といった文章が書かれていた事を思い出す。
「……わかりました。赤字ならば仕方がありません。利益に対する五十パーセントの課税については諦めましょう」
当然だ。御布令に『利益の五十パーセント』と書かれていたので当たり前の事である。
「しかし、こちらについては話が別です。従業員に支払った給与の十パーセントについては、即刻、支払って頂きます!」
人件費に一千億コル。これには、冒険者に対して支払った日当も入っているので、それを除いたとしても相当の金額を支払う事になるだろう。
普通であれば……。
俺はふんぞり返るリヒトーに向かって笑顔を浮かべる。
「そうですか。それでは、具体的に納める金額を算定して下さい。給与名簿があるので簡単ですよね?」
そう言うと、リヒトーは一瞬、戸惑い積み上がった労働者名簿と給与台帳に視線を向ける。
「……先に行っておきますが、うちで働く従業員は御布令の課税対象外。そのため、『従業員に支払った給与の十パーセント』に対する課税は拒否させて頂きます。もし従業員に当たる人がいるなら教えて下さい」
「はあっ? 何を言っているのです? 従業員がいないなんて、そんな筈がないでしょう。そこにいる支配人は? 宿で働いている者は誰なのです? まさか従業員ではないと言い張るつもりではないでしょうね?」
「……ですので、具体的にどの従業員が御布令に当たる課税対象の従業員なのか教えて下さいと言っています。お願いしますよ。徴税官様? 払う金額が分からないのでは納税できないではありませんか」
「……いいでしょう」
そう呟くと、リヒトーは膨大な数の労働者名簿と給与台帳をめくりながら税金計算を始めた。
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2022年10月26日AM7時更新となります。
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