337 / 411
第337話 ヨトゥンヘイム⑫
しおりを挟む
まずは一匹……。
「――ありがとう。ベヒモス……。引き続き、同族に鞭を振るう馬鹿共をシバき倒してくれる?」
地の上位精霊・ベヒモスにそうお願いすると、様子を見ていた鞭を振るう丘の巨人達が『ヒッ!』と声を上げる。
同族を傷付け何とも思わないゴミクズ共がどうなろうが俺にとってはどうでもいい。
俺が買い取った領地にそんなゴミクズを住まわせたくないからだ。
今まで同族を虐げる事で良い思いをしてきたんだろ?
悲鳴を上げれば許されると思ったか?
許される筈がないだろ。今まで同族を虐げてきた分、虐げられろ。
一方的に虐げられてきた奴等の千倍虐げられてようやくイーブンだ。
まあ、虐げてきた過去は変わらないので、贖罪を終えた後も窮屈な毎日が待っているだろうが、それも俺の知った事ではない。
『――ひっ!?』
『――や、やめ……ぎゃっ!!?』
『――だ、誰か助け……が……はっ!!?』
ベヒモスの鞭による打撃を体に受け壁に激突していく元カースト上位の丘の巨人達。
おそらく何が起こっているのか分かっていないのだろう。
元カースト上位の丘の巨人達が鞭で打ちのめされていく姿を見て、カースト下位の丘の巨人達はポカンとした表情を浮かべる。
「――ゴミクズ領に蔓延るゴミクズ共の排除は終わったな……。まあ、あれだ。お前等みたいなゴミクズは幾らでも湧いて出てくる。その度に、叩き潰すのも面倒臭いから、お前等、ゴミクズはとりあえず、この領地から出て行ってくれ」
ベヒモスにより一か所に集められたゴミクズ共を前にそう告げるも、聞いている者は誰一人としていない。すべて、ベヒモスにより気絶させられているからだ。
「……まったく。余計な手間を掛けさせるなよ。誰が気絶していいと言った? 今すぐ目を覚まさないと強制的に領から放り出すぞ?」
しかし、誰も目を覚まさない。
まるで屍の様だ。
「仕方がないな……」
この地を治める新たな領主として、ゴミクズ共の掃除くらいしてやるか……。
ゴミクズ共を放逐して野盗になられても困るしな。
日本には臭い物に蓋をするという素晴らしい諺がある。
今、壁に叩き付け気絶させた丘の巨人共は正しく丘の巨人の面汚しにしてゴミクズ。
そして、今丁度、五つの太陽に照らされ灼熱地獄と化したゲスクズ領という名の焼却炉も完備されている。
すべて俺が利用料を支払っている領土だ。
ならゴミは焼却炉に捨てなきゃいけないよね。
そうと決まれば話は早い。
「ベヒモス。ちょっとの間、このゴミクズ共をお願いできるかな?」
ベヒモスに視線を向けそうお願いすると、ベヒモスは地面に手を付け、ゴミクズ共が入りそうな巨大な球体を作り上げる。
そして、その中に、元カースト上位にいた丘の巨人を詰めると、出てこれないよう蓋をして転がし始めた。
流石はベヒモス。ゴミクズ共の扱いをよく分かっている。
しかし、困ったな……。
一つの領を回っただけでこれか……。
ゲスクズ領にウマシカ領。思い返して見ると、どの領にも霜の巨人に与する者がいた。
「大掃除が必要だな……」
俺の領に怠け者と軋轢を生むようなゴミクズは必要ない。
やはり、ゴミクズ共は焼却炉にぶち込んでおくに限る。ぶっちゃけ、それが一番手っ取り早い。
「よし。決めた……。少し面倒だが、すべての領の大掃除をするか」
ゴミクズ共が大量発生するかもしれないが、これも領を治めるのに必要な作業。
「生憎俺はゴミを世話する趣味はないんでね」
そう呟くと、俺は次の領へ向かった。
◆◇◆
『あ、暑い……苦しい。一体、いつまで閉じ込めておくつもりなのだ……』
上を見れば、身を焦がす灼熱の太陽が五つ。
地面は砂漠を通り越してマグマとなり、我が身を焼いている。
『我々はいつまで、この場に留まっておれば良いのだ……。もう一週間だぞ……!』
皆がイライラするのも分かる。
精霊は飲まず食わずでも生きていける。
しかし、魔力の補給無くして生きていくのは難しい。
魔力を含む食べ物やそれに類する物。
その補給が無ければ、人間と同様に霜の巨人も死を迎える。
『煩いぞ……怒りは余計な体力を使う。もう喋るな。そんな事をしている暇があれば、知恵を働かせ、この場を乗り切る為の案を考えろ……』
ゲスクズの言葉に、他の領主達は激怒する。
『被害者振るでないわ! 元はと言えば、貴様のせいだろうがぁぁぁぁ!』
『そうだ! 我々がこんな非道な目に遭っているのは全て貴様のせいだ!』
『貴様さえ我々をこの領地に誘わなければこんな事にはならなかった!』
激昂する領主達を見てゲスクズはほくそ笑む。
『……ならばどうする。試しに私を殺してみるか? 貴様らにそれができるならやってみるがいい』
ゲスクズがそう発破をかけると、剣呑な空気がその場に流れる。
『……やめておけ。体力の無駄だ。何より、今ここでゲスクズを殺せば、私達も終わる。ここまで生き永らえているのは、ペロペロザウルスの卵を食べ魔力を貯めていたゲスクズのお陰である事を忘れるな』
ペロペロザウルスの卵には、豊富な魔力が含まれている。
この場にいる霜の巨人全員が生きていられるのは、ゲスクズが貯めていた豊富な魔力があったからに他ならない。
外野から援護射撃があった事に気を良くしたゲスクズは調子に乗って声を上げる。
『そうだ! ヘタレバカの言う通り、この私がいなければ、とうの昔にお前らは死んでいる。今、お前らが生きていられるのもすべて私のお陰だ。その事を忘れるなっ!』
ゲスクズの言葉に青筋を浮かべる領主達。
そんな領主達の顔を見てゲスクズは不満気な表情を浮かべる。
『……なんだその表情は? この私に助けて貰っている分際で何か文句があるのか? 別に私一人の為に力を使う事もできる。お前達を助けてやっているのは、あくまでも温情だ。不満があるなら別にいいんだぞ?』
『ぐっ!? き、貴様ぁぁぁぁ!!』
ゲスクズに向かって声を上げると足下にヒビが入る。
ゴミクズは『ひっ!?』と悲鳴を上げると、ゲスクズに視線を向けた。
『まったく……。立場が分かっていないようだな。私がその気になれば、お前ら全員を灼熱地獄に叩き出す事ができる。碌に魔力も提供できない分際で、その事を忘れるでないわ!』
ゲスクズの言葉に不満気に押し黙る領主達。
しかし、ゲスクズも静観している訳ではない。
彼奴は必ずこの地に戻ってくる。
次に会ったら目に物を見せてくれるわ……。
流石のゲスクズもエレメンタルには敵わない。だからこそ、エレメンタルを使役するカケル張本人に狙いを定める。
我々を殺す機会は多分にあった。
しかし、殺さず封じ込める選択をしたという事は、奴に巨人を殺す度胸がないという事を端的に示している。
モブフェンリルの皮を被っていようが、所詮は人間。この地を数百年に渡り統治してきた霜の巨人の敵ではない。
『くくくっ、次、私の目の前に姿を現した時……それがお前の最後だ……!』
すると、ゲスクズの想定よりだいぶ早くその時が訪れる。
「……お前の最後? まさか、俺の事を言っているのか?」
『……っ!?』
見上げると、ゲスクズの目に忌々しきモブフェンリルの姿が写る。
ゲスクズが生み出した檻は、フィールド魔法『砂漠』の効果を受けぬようゲスクズが作り出した氷の檻。
その外側にカケルがいる事を認識したゲスクズは檻の形状を槍に変え、攻撃する為、氷でできた槍を伸ばす。
『このクソモブフェンリルがぁぁぁぁ! 死ねぇぇぇぇ!』
威勢よく吠えるゲスクズ。
そんなゲスクズを嘲笑うかの様に檻の真横に地の上位精霊・ベヒモスが顕現すると、思い切り鞭を振りかぶる。
『ま、まさか……! や、やめろぉぉぉぉ!』
自分達を守っていた氷の檻が壊されそうになり慌て叫ぶゲスクズ。
他の領主達もベヒモスの出現に慌てふためき顔を引き攣らせる。
「やめろ? やめる訳がないだろ。今、お前何しようとした? 俺に攻撃を仕掛けようとしたよなぁ!? なら、反撃されても文句はねーよなぁ!? ベヒモスッ! 霜の巨人を守るその檻をぶっ壊せ!」
『『『や、やめろぉぉぉぉ!!』』』
しなる鞭。
ベヒモスが思い切り力を込め、檻に鞭を打ち付けると、氷でできた檻にヒビが入り、霜の巨人達の自重により容易く崩壊していく。
『ぎゃああああっ!?』
『あ、熱い! 熱いぃぃぃぃ!』
『誰か! 誰でもいい! 誰か助けてくれぇぇぇぇ!』
自分達を守っていた氷の檻が壊れた事で、再び灼熱の太陽に焼かれる事になった霜の巨人達は絶叫を上げ、誰彼構わず助けを求める。
「――そんなに助けて欲しいなら、助けてやってもいいぞ。ほら、助けて欲しい奴はその首輪を嵌めろ」
防熱防寒効果のあるモブフェンリルスーツを装備した俺は、アイテムストレージから隷属の首輪を取り出すと、灼熱の太陽に焼かれのたうち回る霜の巨人達の目の前に放った。
隷属の首輪を見て呆然とした表情を浮かべる霜の巨人。
『――ま、まさか、この首輪を付けろとでもいうつもりか?』
『ふ、ふざけるなぁぁぁぁ! 高々、人間の分際でこの私達に指図をするだとぉぉぉぉ!?』
ふざけてなどいない。至って大真面目に言っている。
しかし、太陽に焼かれているというのに我慢強い奴等だ。さっきまで助けてとほざいていたのに嘘の様である。
「何を言うかと思えば……別に強制している訳じゃない。これは温情だ。助かりたい奴だけ首輪を付けろ。そのまま溶けて無くなりたい奴は好きにしたらいい」
そう冷たく突き放すと、霜の巨人達は滝のような汗を流しながら隷属の首輪を凝視する。
隷属の首輪を嵌めたが最後、逆らう事ができなくなる。だからこそ、隷属の首輪を嵌める事を躊躇しているのだろう。
その判断は大正解だ。
何故なら、その隷属の首輪は呪われている。
そして、その呪いは解呪不能。
隷属の首輪に付いている呪いは、絶対遵守の呪い。
一度嵌めたら最後、隷属の首輪の持ち主の言う事を絶対に遵守しなければならない解呪不能な呪い。
しかも、隷属の首輪を付けるかどうか迷っている内に隷属の首輪に熱が伝わり真っ赤に熱されている。首に嵌めた瞬間、二重の意味で痛い目を見る事が確定している呪いの首輪だ。
「さあ、どうした? 隷属の首輪を付けるのか付けねーのか、さっさと決めろ」
そう告げると、大半の霜の巨人が固唾を飲む中、その内、一人が隷属の首輪に手を伸ばした。
---------------------------------------------------------------
次の更新は、4月18日(木)AM7時となります。
「――ありがとう。ベヒモス……。引き続き、同族に鞭を振るう馬鹿共をシバき倒してくれる?」
地の上位精霊・ベヒモスにそうお願いすると、様子を見ていた鞭を振るう丘の巨人達が『ヒッ!』と声を上げる。
同族を傷付け何とも思わないゴミクズ共がどうなろうが俺にとってはどうでもいい。
俺が買い取った領地にそんなゴミクズを住まわせたくないからだ。
今まで同族を虐げる事で良い思いをしてきたんだろ?
悲鳴を上げれば許されると思ったか?
許される筈がないだろ。今まで同族を虐げてきた分、虐げられろ。
一方的に虐げられてきた奴等の千倍虐げられてようやくイーブンだ。
まあ、虐げてきた過去は変わらないので、贖罪を終えた後も窮屈な毎日が待っているだろうが、それも俺の知った事ではない。
『――ひっ!?』
『――や、やめ……ぎゃっ!!?』
『――だ、誰か助け……が……はっ!!?』
ベヒモスの鞭による打撃を体に受け壁に激突していく元カースト上位の丘の巨人達。
おそらく何が起こっているのか分かっていないのだろう。
元カースト上位の丘の巨人達が鞭で打ちのめされていく姿を見て、カースト下位の丘の巨人達はポカンとした表情を浮かべる。
「――ゴミクズ領に蔓延るゴミクズ共の排除は終わったな……。まあ、あれだ。お前等みたいなゴミクズは幾らでも湧いて出てくる。その度に、叩き潰すのも面倒臭いから、お前等、ゴミクズはとりあえず、この領地から出て行ってくれ」
ベヒモスにより一か所に集められたゴミクズ共を前にそう告げるも、聞いている者は誰一人としていない。すべて、ベヒモスにより気絶させられているからだ。
「……まったく。余計な手間を掛けさせるなよ。誰が気絶していいと言った? 今すぐ目を覚まさないと強制的に領から放り出すぞ?」
しかし、誰も目を覚まさない。
まるで屍の様だ。
「仕方がないな……」
この地を治める新たな領主として、ゴミクズ共の掃除くらいしてやるか……。
ゴミクズ共を放逐して野盗になられても困るしな。
日本には臭い物に蓋をするという素晴らしい諺がある。
今、壁に叩き付け気絶させた丘の巨人共は正しく丘の巨人の面汚しにしてゴミクズ。
そして、今丁度、五つの太陽に照らされ灼熱地獄と化したゲスクズ領という名の焼却炉も完備されている。
すべて俺が利用料を支払っている領土だ。
ならゴミは焼却炉に捨てなきゃいけないよね。
そうと決まれば話は早い。
「ベヒモス。ちょっとの間、このゴミクズ共をお願いできるかな?」
ベヒモスに視線を向けそうお願いすると、ベヒモスは地面に手を付け、ゴミクズ共が入りそうな巨大な球体を作り上げる。
そして、その中に、元カースト上位にいた丘の巨人を詰めると、出てこれないよう蓋をして転がし始めた。
流石はベヒモス。ゴミクズ共の扱いをよく分かっている。
しかし、困ったな……。
一つの領を回っただけでこれか……。
ゲスクズ領にウマシカ領。思い返して見ると、どの領にも霜の巨人に与する者がいた。
「大掃除が必要だな……」
俺の領に怠け者と軋轢を生むようなゴミクズは必要ない。
やはり、ゴミクズ共は焼却炉にぶち込んでおくに限る。ぶっちゃけ、それが一番手っ取り早い。
「よし。決めた……。少し面倒だが、すべての領の大掃除をするか」
ゴミクズ共が大量発生するかもしれないが、これも領を治めるのに必要な作業。
「生憎俺はゴミを世話する趣味はないんでね」
そう呟くと、俺は次の領へ向かった。
◆◇◆
『あ、暑い……苦しい。一体、いつまで閉じ込めておくつもりなのだ……』
上を見れば、身を焦がす灼熱の太陽が五つ。
地面は砂漠を通り越してマグマとなり、我が身を焼いている。
『我々はいつまで、この場に留まっておれば良いのだ……。もう一週間だぞ……!』
皆がイライラするのも分かる。
精霊は飲まず食わずでも生きていける。
しかし、魔力の補給無くして生きていくのは難しい。
魔力を含む食べ物やそれに類する物。
その補給が無ければ、人間と同様に霜の巨人も死を迎える。
『煩いぞ……怒りは余計な体力を使う。もう喋るな。そんな事をしている暇があれば、知恵を働かせ、この場を乗り切る為の案を考えろ……』
ゲスクズの言葉に、他の領主達は激怒する。
『被害者振るでないわ! 元はと言えば、貴様のせいだろうがぁぁぁぁ!』
『そうだ! 我々がこんな非道な目に遭っているのは全て貴様のせいだ!』
『貴様さえ我々をこの領地に誘わなければこんな事にはならなかった!』
激昂する領主達を見てゲスクズはほくそ笑む。
『……ならばどうする。試しに私を殺してみるか? 貴様らにそれができるならやってみるがいい』
ゲスクズがそう発破をかけると、剣呑な空気がその場に流れる。
『……やめておけ。体力の無駄だ。何より、今ここでゲスクズを殺せば、私達も終わる。ここまで生き永らえているのは、ペロペロザウルスの卵を食べ魔力を貯めていたゲスクズのお陰である事を忘れるな』
ペロペロザウルスの卵には、豊富な魔力が含まれている。
この場にいる霜の巨人全員が生きていられるのは、ゲスクズが貯めていた豊富な魔力があったからに他ならない。
外野から援護射撃があった事に気を良くしたゲスクズは調子に乗って声を上げる。
『そうだ! ヘタレバカの言う通り、この私がいなければ、とうの昔にお前らは死んでいる。今、お前らが生きていられるのもすべて私のお陰だ。その事を忘れるなっ!』
ゲスクズの言葉に青筋を浮かべる領主達。
そんな領主達の顔を見てゲスクズは不満気な表情を浮かべる。
『……なんだその表情は? この私に助けて貰っている分際で何か文句があるのか? 別に私一人の為に力を使う事もできる。お前達を助けてやっているのは、あくまでも温情だ。不満があるなら別にいいんだぞ?』
『ぐっ!? き、貴様ぁぁぁぁ!!』
ゲスクズに向かって声を上げると足下にヒビが入る。
ゴミクズは『ひっ!?』と悲鳴を上げると、ゲスクズに視線を向けた。
『まったく……。立場が分かっていないようだな。私がその気になれば、お前ら全員を灼熱地獄に叩き出す事ができる。碌に魔力も提供できない分際で、その事を忘れるでないわ!』
ゲスクズの言葉に不満気に押し黙る領主達。
しかし、ゲスクズも静観している訳ではない。
彼奴は必ずこの地に戻ってくる。
次に会ったら目に物を見せてくれるわ……。
流石のゲスクズもエレメンタルには敵わない。だからこそ、エレメンタルを使役するカケル張本人に狙いを定める。
我々を殺す機会は多分にあった。
しかし、殺さず封じ込める選択をしたという事は、奴に巨人を殺す度胸がないという事を端的に示している。
モブフェンリルの皮を被っていようが、所詮は人間。この地を数百年に渡り統治してきた霜の巨人の敵ではない。
『くくくっ、次、私の目の前に姿を現した時……それがお前の最後だ……!』
すると、ゲスクズの想定よりだいぶ早くその時が訪れる。
「……お前の最後? まさか、俺の事を言っているのか?」
『……っ!?』
見上げると、ゲスクズの目に忌々しきモブフェンリルの姿が写る。
ゲスクズが生み出した檻は、フィールド魔法『砂漠』の効果を受けぬようゲスクズが作り出した氷の檻。
その外側にカケルがいる事を認識したゲスクズは檻の形状を槍に変え、攻撃する為、氷でできた槍を伸ばす。
『このクソモブフェンリルがぁぁぁぁ! 死ねぇぇぇぇ!』
威勢よく吠えるゲスクズ。
そんなゲスクズを嘲笑うかの様に檻の真横に地の上位精霊・ベヒモスが顕現すると、思い切り鞭を振りかぶる。
『ま、まさか……! や、やめろぉぉぉぉ!』
自分達を守っていた氷の檻が壊されそうになり慌て叫ぶゲスクズ。
他の領主達もベヒモスの出現に慌てふためき顔を引き攣らせる。
「やめろ? やめる訳がないだろ。今、お前何しようとした? 俺に攻撃を仕掛けようとしたよなぁ!? なら、反撃されても文句はねーよなぁ!? ベヒモスッ! 霜の巨人を守るその檻をぶっ壊せ!」
『『『や、やめろぉぉぉぉ!!』』』
しなる鞭。
ベヒモスが思い切り力を込め、檻に鞭を打ち付けると、氷でできた檻にヒビが入り、霜の巨人達の自重により容易く崩壊していく。
『ぎゃああああっ!?』
『あ、熱い! 熱いぃぃぃぃ!』
『誰か! 誰でもいい! 誰か助けてくれぇぇぇぇ!』
自分達を守っていた氷の檻が壊れた事で、再び灼熱の太陽に焼かれる事になった霜の巨人達は絶叫を上げ、誰彼構わず助けを求める。
「――そんなに助けて欲しいなら、助けてやってもいいぞ。ほら、助けて欲しい奴はその首輪を嵌めろ」
防熱防寒効果のあるモブフェンリルスーツを装備した俺は、アイテムストレージから隷属の首輪を取り出すと、灼熱の太陽に焼かれのたうち回る霜の巨人達の目の前に放った。
隷属の首輪を見て呆然とした表情を浮かべる霜の巨人。
『――ま、まさか、この首輪を付けろとでもいうつもりか?』
『ふ、ふざけるなぁぁぁぁ! 高々、人間の分際でこの私達に指図をするだとぉぉぉぉ!?』
ふざけてなどいない。至って大真面目に言っている。
しかし、太陽に焼かれているというのに我慢強い奴等だ。さっきまで助けてとほざいていたのに嘘の様である。
「何を言うかと思えば……別に強制している訳じゃない。これは温情だ。助かりたい奴だけ首輪を付けろ。そのまま溶けて無くなりたい奴は好きにしたらいい」
そう冷たく突き放すと、霜の巨人達は滝のような汗を流しながら隷属の首輪を凝視する。
隷属の首輪を嵌めたが最後、逆らう事ができなくなる。だからこそ、隷属の首輪を嵌める事を躊躇しているのだろう。
その判断は大正解だ。
何故なら、その隷属の首輪は呪われている。
そして、その呪いは解呪不能。
隷属の首輪に付いている呪いは、絶対遵守の呪い。
一度嵌めたら最後、隷属の首輪の持ち主の言う事を絶対に遵守しなければならない解呪不能な呪い。
しかも、隷属の首輪を付けるかどうか迷っている内に隷属の首輪に熱が伝わり真っ赤に熱されている。首に嵌めた瞬間、二重の意味で痛い目を見る事が確定している呪いの首輪だ。
「さあ、どうした? 隷属の首輪を付けるのか付けねーのか、さっさと決めろ」
そう告げると、大半の霜の巨人が固唾を飲む中、その内、一人が隷属の首輪に手を伸ばした。
---------------------------------------------------------------
次の更新は、4月18日(木)AM7時となります。
126
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる