338 / 411
第338話 ヨトゥンヘイム⑬
しおりを挟む
一番初めに、隷属の首輪に手を伸ばしたのは、ダニヘタレという名の霜の巨人。
同胞が隷属の首輪に手を伸ばした事を視認したゲスクズは声を上げて非難する。
『ま、まさか、貴様……! 人間如き下等な生き物の家畜に成り下がる気か!? やめろ! それを首に嵌めたが最後、どんな事をされるかわからないぞ!』
流石は、ゲスクズ。俺の事を握り潰し、投げ捨て、唾を吐き掛けただけの事はある。
よく分かっているじゃないか。
なに、俺も鬼じゃないんでね。そう非道な事をするつもりはない。
ただ、お前らが数百年かけて丘の巨人にしてきた事を数倍返しするだけの事だ。
殺す訳でもないし、十分人道的。
何せ、お前等がやった事を数倍にして返してやるだけの事だからなぁ。
しかし、暑さに負けたダニヘタレにゲスクズの言葉は届かない。
『う、煩い! 煩い煩い煩い! だったら今すぐこの暑さを何とかして見せろ! できもしない癖に勝手な事を抜かすなぁぁぁぁ!』
ダニヘタレはゲスクズの言葉を無視すると真っ赤に熱された隷属の首輪を首に嵌める。
『ぐっ!? ぐぅううううっ!?』
熱せられた隷属の首輪を嵌めた瞬間、ダニヘタレの首がジュウジュウ音を立てて焼ける。
中々の覚悟だ。熱された首輪を首に付けるその姿は、熱した鉄板の上で焼き土下座したどこかの中間管理職を彷彿とさせる。
「クラーケン……。ダニヘタレを楽にしてやってくれ」
そう呟くと、ダニヘタレの体が凍り付く。
水の上位精霊・クラーケンに任せればこんなものだ。
氷漬けとなったダニヘタレをアイテムストレージにしまうと、それを見たゲスクズが声を上げた。
『き、貴様ぁぁぁぁ! ダニヘタレに何をした! そもそも、何故、我々にこのような非道を働く!? 我々が何をした! 我々が何をしたぁぁぁぁ!!』
「いや、何をしたって……もう忘れたのか? つい最近まで俺の土地を不法占拠していただろうが、俺に危害を加えたし、危害を加える相談もしていた。自分達が如何に非道な事をしてきたのか理解してないのか?」
よもやよもやである。
穴を掘って今すぐ埋めたい。
『り、理解していないのか……だとっ!?』
何を憤慨しているんだ。その発言が出てくる時点で理解してないだろ。
俺は冷めた視線をゲスクズに送る。
「お前らさ……自分達が如何に非道な事をしてきたのか認識してないだろ? なら聞くが、お前らは丘の巨人をどこから連れてきた?」
『な、なにぃ?』
丘の巨人の住処は当然の事ながら丘。
決して、雪山ではない。
そう質問すると、ゲスクズは吐き捨てる様に言う。
『そんな事は決まっているだろう。丘の巨人の住処は丘の上。そこから取ってきたのだ! それの何が悪い!』
いや、取ってきたって……。
「カブト虫やクワガタ虫じゃねーんだぞ? あいつ等はお前らと同じ巨人だ。それを取ってきた? 何言ってんだ、お前、頭大丈夫か?」
とても正気とは思えない発言が飛び出てきたが、これがこいつ等の正常な思考回路。
信じられない事にこいつは本気でそう思っている。
俺が信じられない者でも見たかのような表情を浮かべると、ゲスクズも俺と同じ表情を浮かべた。
『ま、まさか、貴様……高々、丘の巨人を取ってきて働かせただけの事で逆恨みして私達にこんな酷い仕打ちを?』
「はあっ?」
ゲスクズの言葉を聞き、思わずそう呟く。
何言ってんだ、こいつ?
俺の事を聖人君子か何かと勘違いしているんじゃないだろうか。
そんな訳ねーだろ。頭、逝かれてんのか。
まあ、確かに可哀想だとは思ったよ?
霜の巨人に誘拐された挙句、劣悪な環境で働かされるだなんて、本当に可哀想だ。
そんな前時代的な事が平然と行われているなんて思いもしなかった。
しかし、俺が憤りを覚えているのはそんな事ではない。
俺が怒りを覚えているのは、俺を握り潰し、投げ捨て、唾を吐き掛けた事。そして、俺が利用権を得た土地を不法占拠し、お前等の手下となり一緒に非道を働く丘の巨人を俺の土地に住まわせていた事だ。
お前等のやった事は、理由もなく人に暴行を働き、他人の土地や池に害虫や特定外来生物を解き放つ様なもの。
人として……いや、巨人として最低の行いだ。
何より、俺の土地を不法占拠していたゲスクズ共が一堂に集まり、俺に危害を加える相談をしていた事が一番ムカつく。
それは家賃滞納者が大家の暴行計画を企てる様なもの。
霜の巨人共が誘拐してきた丘の巨人を元の住処に返す必要もでてきた。
勿論、霜の巨人に誘拐されこの場所に連れて来られたのが数百年前という事もある為、故郷に帰りたいと願う者を対象に帰還作業を行う予定だが、大変な作業だ。
それもこれもすべて、この様な事態を引き起こした霜の巨人が悪い。
「――ちょっと、何言ってんのか理解できねーけど、一応言っとくわ。馬鹿言ってんじゃねーよ。逆恨み? それはお前達が俺にやろうとしていた事だろうがよ! 加害者の分際で被害者面するな! 厚すぎるんだよ、面の皮がっ! 立場を弁え猛省しろっ!」
むしろこれは正当な報復。俺はそれを率先してやっただけだ。
「まあでも、この世界に来て一番初めに出会った霜の巨人がゲスクズ……お前ではなく、もっと友好的な霜の巨人であれば、話は違ったかもしれないな……」
そう呟くと、領主達の非難の目がゲスクズに向く。
『き、貴様ぁぁぁぁ!』
『――や、やはり貴様がすべての元凶ではないかっ!』
『どうしてくれる! お前のせいで、我々にまでとばっちりが……!』
「……いや、黙ってろよ。言っておくが、お前等もゲスクズと同じ穴の狢だからな? お前等もゲスクズと一緒になって俺に危害を加える計画を練っていただろうが」
何ならゲスクズよりも丘の巨人の扱いが酷かった。もし俺がそんなお前達と出会っていたらゲスクズより酷いファーストインプレッションを抱いていた事だろうよ。
霜の巨人がクズ集団である以上、結末は変わらない。
俺と出会い危害を加えた時点でゲームオーバー。
それにこの数百年間、丘の巨人を攫い使い潰して良い思いをする事ができただろ?
お前等、霜の巨人の寿命が何年あるか知らないが残りの寿命はすべて贖罪に使えよ。
それが、俺に危害を加えようとした罪。そして、これまで苦痛を強いてきた丘の巨人に対する贖罪だ。
「折角、助かるチャンスをくれてやったのに……馬鹿な奴等だよ。お前等は……」
結局、隷属の首輪を自ら首に嵌めたのはダニヘタレの一人だけ……。
俺が合図を送ると、エレメンタルがゲスクズ達の背後に現れ、熱せられた隷属の首輪を強引に嵌めていく。
『ぐっ!? 何をする!』
『や、やめろ……! やめろぉぉぉぉ!』
『ぎ、ぎゃああああっ!?』
隷属の首輪をつけられないよう必死になって抵抗するが無駄な事。
上位の存在であるエレメンタルに勝てるはずもない。
『ぐっ、ぎゃああああっ! き、貴様ぁぁぁぁ! この私に首輪を嵌め何をさせるつもりだぁぁぁぁ!』
熱された首輪を首に嵌められ絶叫を上げるゲスクズ達を前に俺は冷めた視線を浮かべる。
「……別に何も?」
そう呟くと、ゲスクズはポカンとした表情を浮かべる。
『――はっ? べ、別に何もだと……?』
自意識過剰な奴だ。当然だろ?
例えば、部屋の中でゴキブリを見つけたらどうする。
ゴキジェットを噴き掛けてゴキブリを抹殺し、万が一、奇跡の生還を遂げ復活するのを防ぐ為、ビニール袋に入れ、ビニール袋が破られ逃げられない様に箱詰めした後、燃えるゴミの日に出し、ゴキブリの残党を滅殺する為、部屋でバルサンを焚くだろ?
そういう事だよ。処置を終えて尚、何かをしようとは思わない。既にお前達は、ゴミ収集車の到着を箱の中で待つゴキブリと同様の存在なのだから……。
この一週間、霜の巨人であるゲスクズ共をゲスクズ領に閉じ込めていた訳だが、その結果、ゲスクズ領以外のすべての領地の天候が変わった。
そう。まるで冬から春に季節が移行する様に陽気が変わったのだ。
つまりそれは、こいつ等、霜の巨人に、フィールド魔法アイテム『砂漠』の様に天候を『雪』にする力が備わっているという事に他ならない。
『だ、だったら、何故、我々に隷属の首輪を付けた……!? 我々に何かをさせるつもりがないならこんな物を付ける必要なんて……!』
「――いや、あるだろ。俺はお前達の事を一切信用していない。その隷属の首輪はあくまでも保険だ。お前等が叛意を抱いた時、罰する為のな……クラーケン……。ゲスクズ達を凍らせてくれ」
『こ、凍らせるだと!? ま、待て――』
そう呟くと、ゲスクズ達の体が凍り付く。
無駄な禍根や心配事を残す気はない。
この世界にいても害しか及ぼさないゲスクズ共は、凍らせてアイテムストレージの中に封印するに限る。
ただ一人、霜の巨人の中で唯一、自ら隷属の首輪を付けたダニヘタレだけは別だ。
こいつには、犯罪行為を行った丘の巨人を見張るという役割がある。
「さて、ベヒモス。ゲスクズ領へあいつ等を解き放ってくれ」
そう告げると、ベヒモスは霜の巨人と共謀し、同族である丘の巨人達の生活を脅かしていたゴミクズ共を、ゲスクズ領に解き放っていく。
『あ、暑い!? な、何だここはっ!? 何で俺はこんな所に……』
『だ、誰かっ! 誰か助けてくれ! こんな所にいたら死んでしまう!』
灼熱の太陽に熱された丘の巨人達が、泣きながら声を上げる。
しかし、俺にとってはどうでもいい。
何せ、こいつ等は丘の巨人の裏切者。
容赦は不要だ。
俺はアイテムストレージから氷漬けにされたダニヘタレを取り出し解凍すると、灼熱の太陽光に照らされる中、裏切者共の前に立ち、笑顔を浮かべ話しかける。
「おはよう、諸君。今日からここが君達の職場だ。君達の監督は霜の巨人の一人であるダニヘタレ君が務める」
解凍したダニヘタレの背を叩き前に立たせると、ダニヘタレは呆然とした顔で『へっ?』と呟いた。
解凍されたばかりで思考が追い付いていない様だ。
仕方がないので、俺はできる限り優しく説明する。
「君達にはこれから数百年間、霜の巨人と共謀し、同胞である筈の丘の巨人を虐げてきた分、働いて貰うからそのつもりでな。そんでもってお前はその見張りだ」
そう告げると、ダニヘタレは目を大きく見開いた。
---------------------------------------------------------------
次の更新は、4月25日(木)AM7時となります。
同胞が隷属の首輪に手を伸ばした事を視認したゲスクズは声を上げて非難する。
『ま、まさか、貴様……! 人間如き下等な生き物の家畜に成り下がる気か!? やめろ! それを首に嵌めたが最後、どんな事をされるかわからないぞ!』
流石は、ゲスクズ。俺の事を握り潰し、投げ捨て、唾を吐き掛けただけの事はある。
よく分かっているじゃないか。
なに、俺も鬼じゃないんでね。そう非道な事をするつもりはない。
ただ、お前らが数百年かけて丘の巨人にしてきた事を数倍返しするだけの事だ。
殺す訳でもないし、十分人道的。
何せ、お前等がやった事を数倍にして返してやるだけの事だからなぁ。
しかし、暑さに負けたダニヘタレにゲスクズの言葉は届かない。
『う、煩い! 煩い煩い煩い! だったら今すぐこの暑さを何とかして見せろ! できもしない癖に勝手な事を抜かすなぁぁぁぁ!』
ダニヘタレはゲスクズの言葉を無視すると真っ赤に熱された隷属の首輪を首に嵌める。
『ぐっ!? ぐぅううううっ!?』
熱せられた隷属の首輪を嵌めた瞬間、ダニヘタレの首がジュウジュウ音を立てて焼ける。
中々の覚悟だ。熱された首輪を首に付けるその姿は、熱した鉄板の上で焼き土下座したどこかの中間管理職を彷彿とさせる。
「クラーケン……。ダニヘタレを楽にしてやってくれ」
そう呟くと、ダニヘタレの体が凍り付く。
水の上位精霊・クラーケンに任せればこんなものだ。
氷漬けとなったダニヘタレをアイテムストレージにしまうと、それを見たゲスクズが声を上げた。
『き、貴様ぁぁぁぁ! ダニヘタレに何をした! そもそも、何故、我々にこのような非道を働く!? 我々が何をした! 我々が何をしたぁぁぁぁ!!』
「いや、何をしたって……もう忘れたのか? つい最近まで俺の土地を不法占拠していただろうが、俺に危害を加えたし、危害を加える相談もしていた。自分達が如何に非道な事をしてきたのか理解してないのか?」
よもやよもやである。
穴を掘って今すぐ埋めたい。
『り、理解していないのか……だとっ!?』
何を憤慨しているんだ。その発言が出てくる時点で理解してないだろ。
俺は冷めた視線をゲスクズに送る。
「お前らさ……自分達が如何に非道な事をしてきたのか認識してないだろ? なら聞くが、お前らは丘の巨人をどこから連れてきた?」
『な、なにぃ?』
丘の巨人の住処は当然の事ながら丘。
決して、雪山ではない。
そう質問すると、ゲスクズは吐き捨てる様に言う。
『そんな事は決まっているだろう。丘の巨人の住処は丘の上。そこから取ってきたのだ! それの何が悪い!』
いや、取ってきたって……。
「カブト虫やクワガタ虫じゃねーんだぞ? あいつ等はお前らと同じ巨人だ。それを取ってきた? 何言ってんだ、お前、頭大丈夫か?」
とても正気とは思えない発言が飛び出てきたが、これがこいつ等の正常な思考回路。
信じられない事にこいつは本気でそう思っている。
俺が信じられない者でも見たかのような表情を浮かべると、ゲスクズも俺と同じ表情を浮かべた。
『ま、まさか、貴様……高々、丘の巨人を取ってきて働かせただけの事で逆恨みして私達にこんな酷い仕打ちを?』
「はあっ?」
ゲスクズの言葉を聞き、思わずそう呟く。
何言ってんだ、こいつ?
俺の事を聖人君子か何かと勘違いしているんじゃないだろうか。
そんな訳ねーだろ。頭、逝かれてんのか。
まあ、確かに可哀想だとは思ったよ?
霜の巨人に誘拐された挙句、劣悪な環境で働かされるだなんて、本当に可哀想だ。
そんな前時代的な事が平然と行われているなんて思いもしなかった。
しかし、俺が憤りを覚えているのはそんな事ではない。
俺が怒りを覚えているのは、俺を握り潰し、投げ捨て、唾を吐き掛けた事。そして、俺が利用権を得た土地を不法占拠し、お前等の手下となり一緒に非道を働く丘の巨人を俺の土地に住まわせていた事だ。
お前等のやった事は、理由もなく人に暴行を働き、他人の土地や池に害虫や特定外来生物を解き放つ様なもの。
人として……いや、巨人として最低の行いだ。
何より、俺の土地を不法占拠していたゲスクズ共が一堂に集まり、俺に危害を加える相談をしていた事が一番ムカつく。
それは家賃滞納者が大家の暴行計画を企てる様なもの。
霜の巨人共が誘拐してきた丘の巨人を元の住処に返す必要もでてきた。
勿論、霜の巨人に誘拐されこの場所に連れて来られたのが数百年前という事もある為、故郷に帰りたいと願う者を対象に帰還作業を行う予定だが、大変な作業だ。
それもこれもすべて、この様な事態を引き起こした霜の巨人が悪い。
「――ちょっと、何言ってんのか理解できねーけど、一応言っとくわ。馬鹿言ってんじゃねーよ。逆恨み? それはお前達が俺にやろうとしていた事だろうがよ! 加害者の分際で被害者面するな! 厚すぎるんだよ、面の皮がっ! 立場を弁え猛省しろっ!」
むしろこれは正当な報復。俺はそれを率先してやっただけだ。
「まあでも、この世界に来て一番初めに出会った霜の巨人がゲスクズ……お前ではなく、もっと友好的な霜の巨人であれば、話は違ったかもしれないな……」
そう呟くと、領主達の非難の目がゲスクズに向く。
『き、貴様ぁぁぁぁ!』
『――や、やはり貴様がすべての元凶ではないかっ!』
『どうしてくれる! お前のせいで、我々にまでとばっちりが……!』
「……いや、黙ってろよ。言っておくが、お前等もゲスクズと同じ穴の狢だからな? お前等もゲスクズと一緒になって俺に危害を加える計画を練っていただろうが」
何ならゲスクズよりも丘の巨人の扱いが酷かった。もし俺がそんなお前達と出会っていたらゲスクズより酷いファーストインプレッションを抱いていた事だろうよ。
霜の巨人がクズ集団である以上、結末は変わらない。
俺と出会い危害を加えた時点でゲームオーバー。
それにこの数百年間、丘の巨人を攫い使い潰して良い思いをする事ができただろ?
お前等、霜の巨人の寿命が何年あるか知らないが残りの寿命はすべて贖罪に使えよ。
それが、俺に危害を加えようとした罪。そして、これまで苦痛を強いてきた丘の巨人に対する贖罪だ。
「折角、助かるチャンスをくれてやったのに……馬鹿な奴等だよ。お前等は……」
結局、隷属の首輪を自ら首に嵌めたのはダニヘタレの一人だけ……。
俺が合図を送ると、エレメンタルがゲスクズ達の背後に現れ、熱せられた隷属の首輪を強引に嵌めていく。
『ぐっ!? 何をする!』
『や、やめろ……! やめろぉぉぉぉ!』
『ぎ、ぎゃああああっ!?』
隷属の首輪をつけられないよう必死になって抵抗するが無駄な事。
上位の存在であるエレメンタルに勝てるはずもない。
『ぐっ、ぎゃああああっ! き、貴様ぁぁぁぁ! この私に首輪を嵌め何をさせるつもりだぁぁぁぁ!』
熱された首輪を首に嵌められ絶叫を上げるゲスクズ達を前に俺は冷めた視線を浮かべる。
「……別に何も?」
そう呟くと、ゲスクズはポカンとした表情を浮かべる。
『――はっ? べ、別に何もだと……?』
自意識過剰な奴だ。当然だろ?
例えば、部屋の中でゴキブリを見つけたらどうする。
ゴキジェットを噴き掛けてゴキブリを抹殺し、万が一、奇跡の生還を遂げ復活するのを防ぐ為、ビニール袋に入れ、ビニール袋が破られ逃げられない様に箱詰めした後、燃えるゴミの日に出し、ゴキブリの残党を滅殺する為、部屋でバルサンを焚くだろ?
そういう事だよ。処置を終えて尚、何かをしようとは思わない。既にお前達は、ゴミ収集車の到着を箱の中で待つゴキブリと同様の存在なのだから……。
この一週間、霜の巨人であるゲスクズ共をゲスクズ領に閉じ込めていた訳だが、その結果、ゲスクズ領以外のすべての領地の天候が変わった。
そう。まるで冬から春に季節が移行する様に陽気が変わったのだ。
つまりそれは、こいつ等、霜の巨人に、フィールド魔法アイテム『砂漠』の様に天候を『雪』にする力が備わっているという事に他ならない。
『だ、だったら、何故、我々に隷属の首輪を付けた……!? 我々に何かをさせるつもりがないならこんな物を付ける必要なんて……!』
「――いや、あるだろ。俺はお前達の事を一切信用していない。その隷属の首輪はあくまでも保険だ。お前等が叛意を抱いた時、罰する為のな……クラーケン……。ゲスクズ達を凍らせてくれ」
『こ、凍らせるだと!? ま、待て――』
そう呟くと、ゲスクズ達の体が凍り付く。
無駄な禍根や心配事を残す気はない。
この世界にいても害しか及ぼさないゲスクズ共は、凍らせてアイテムストレージの中に封印するに限る。
ただ一人、霜の巨人の中で唯一、自ら隷属の首輪を付けたダニヘタレだけは別だ。
こいつには、犯罪行為を行った丘の巨人を見張るという役割がある。
「さて、ベヒモス。ゲスクズ領へあいつ等を解き放ってくれ」
そう告げると、ベヒモスは霜の巨人と共謀し、同族である丘の巨人達の生活を脅かしていたゴミクズ共を、ゲスクズ領に解き放っていく。
『あ、暑い!? な、何だここはっ!? 何で俺はこんな所に……』
『だ、誰かっ! 誰か助けてくれ! こんな所にいたら死んでしまう!』
灼熱の太陽に熱された丘の巨人達が、泣きながら声を上げる。
しかし、俺にとってはどうでもいい。
何せ、こいつ等は丘の巨人の裏切者。
容赦は不要だ。
俺はアイテムストレージから氷漬けにされたダニヘタレを取り出し解凍すると、灼熱の太陽光に照らされる中、裏切者共の前に立ち、笑顔を浮かべ話しかける。
「おはよう、諸君。今日からここが君達の職場だ。君達の監督は霜の巨人の一人であるダニヘタレ君が務める」
解凍したダニヘタレの背を叩き前に立たせると、ダニヘタレは呆然とした顔で『へっ?』と呟いた。
解凍されたばかりで思考が追い付いていない様だ。
仕方がないので、俺はできる限り優しく説明する。
「君達にはこれから数百年間、霜の巨人と共謀し、同胞である筈の丘の巨人を虐げてきた分、働いて貰うからそのつもりでな。そんでもってお前はその見張りだ」
そう告げると、ダニヘタレは目を大きく見開いた。
---------------------------------------------------------------
次の更新は、4月25日(木)AM7時となります。
123
あなたにおすすめの小説
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです
一色孝太郎
ファンタジー
前世でとあるソシャゲのガチャに全ツッパして人生が終わった記憶を持つ 13 歳の少年ディーノは、今世でもハズレギフト『ガチャ』を授かる。ガチャなんかもう引くもんか! そう決意するも結局はガチャの誘惑には勝てず……。
これはガチャの妖精と共に運を天に任せて成り上がりを目指す男の物語である。
※作中のガチャは実際のガチャ同様の確率テーブルを作り、一発勝負でランダムに抽選をさせています。そのため、ガチャの結果によって物語の未来は変化します
※本作品は他サイト様でも同時掲載しております
※2020/12/26 タイトルを変更しました(旧題:ガチャに人生全ツッパ)
※2020/12/26 あらすじをシンプルにしました
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる