神に祝福された善良なるおっさん、破壊と創造の魔法で人生やり直します!

厳座励主(ごんざれす)

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第10話 街角の英雄たち

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 昼下がりのアグネア。
 石畳の通りを行き交う人々のざわめきが心地いい。
 商人の呼び声や子どもの笑い声。
 どこにでもある平和な昼の街を、俺たちは二人で歩いていた。

「あー! せっかくEランクになったっていうのに、地味な依頼ばっかり!」
 
 リュミナが陽に透ける髪を揺らしながら言う。
 相変わらず元気いっぱいだ。

「いや、Eランクって言ってもホント偶然みたいなもんだし……。何より、俺たちは冒険者になって日が浅いんだ。慎重にいかないと」
「慎重に慎重にって、それしか言わないわね! もっと……ネームド討伐とか、大きい依頼をドーンと――」

 両手をめいっぱい広げ、リュミナが言う。
 その時。

 ――ドォンッ!

 腹の底に響くような衝撃音が、通りを震わせた。

「え……わ、私じゃないわよ」
「わかってるよ!」

 音の方向に視線を向けると、荷車が横転していた。
 立ち昇る白煙と火花。
 発火原因は、恐らく積み荷の鉱石だ。
 通路に散乱したそれらは、淡い光を放ちながら燃え上がっている。

「ちょっと、まずいわよ……!」

 リュミナが青ざめる。
 通りには多くの人がいる。
 それに、周囲には油を使う屋台や、衣類を売っている露店もある。
 下手したら、大火災になりかねない。

「火が回るぞ! 早く逃げろ!」
 
 通りで誰かが叫び、騒然となる。
 消火活動をするため、俺も咄嗟に駆け出そうとした。
 だが、それより速く動いた人物がいた。

「――どけっ!」

 その男は俺とリュミナの間をびゅんと通り抜け、燃える荷車の前へ、一直線に突っ込んでいく。
 赤茶の髪が特徴的な、巨大な戦斧を担ぐ青年だった。

「止まれぇっ!」

 彼は斧を振り抜き、鉱石の箱を叩き割る。
 鉱石が反応し合って爆ぜる前に、衝撃で魔力の流れを断ち切ったのだ。

「うしっ! 次は――お前だ!」

 彼は周囲を見回すと、火の粉の中から逃げ遅れた少年を抱きかかえ、転がるように退避する。
 その膂力と判断の速さに、俺は息をのんだ。

「す、すごいな……」

 俺の口から漏れたのは、感嘆の声だった。
 だが、炎はまだ鎮まっていない。
 割れた鉱石から青い火が広がり、隣の荷に燃え移ろうとしている。
 どうする。『破壊』で鉱石ごと消滅させるか、『創造』で何かを作って火の手を止めるか――。
 考えるよりも早く、冷たい風が吹いた。

「ボク、熱いのは嫌いなんだ」

 逃げ惑う群衆の間から現れた、杖を掲げる青髪の女。

「――氷界アイシクルタイム

 ぼそりと呟くと、魔法陣が彼女の足元に浮かび、青い光が一閃する。
 瞬間、辺りに広がっていた炎が、音もなく凍りついた。
 氷に閉じ込められた光が、まるで宝石みたいに輝く。
 通りが静まり返る。
 だが静寂は、次の瞬間に割れた。

「す……すっげえぞ、姉ちゃん!!」
「なんて魔法だよ!? あんな大きな火を一瞬で消しちまった……!」
「こっちの兄ちゃんも凄かったぞ!」

 広場に歓声が巻き起こる。
 しかし当の英雄二人は、賞賛の声を無視して向かい合っていた。

「――おい、誰だか知らねえが、何勝手なことしてやがる!」
「炎を止めただけだよ。何か問題でも?」

 引かずに答える青髪の女に、赤茶髪の青年は額に青筋を浮かべる。

「中の鉱石は魔力に反応して燃えたんだ、ヘタに魔法を重ねると爆発するかもしれねえだろうが!」
「ちゃんと調節して、爆発しないギリギリの出力にしたよ。……そっちこそ、力任せに鉱石を倒して、危ないと思わなかったの?」
「俺がああしなきゃ、今ごろ死人が出てんだよ!」
「アンタが動いたせいでもっと出てた可能性もあったでしょ。それをボクが救ったんだよ」

 二人は額がぶつかりそうな距離で睨み合う。
 火の気は消えたのに、空気がチリチリと燃えているみたいだ。

「――ま、まあまあ……!」

 俺は慌てて二人の間に割って入った。
 せっかく協力して事件を収めたのに、台無しの空気にしたくない。

「二人ともすごかったよ。怪我人は一人も出てなさそうだし、結果オーライってことで……」
 
 笑顔を作って必死に語り掛ける。
 すると、いがみ合っていた二人は、同時にこちらを振り返り――。

「「――邪魔!」」
「は、はい……!」

 見事に重なった声に、俺はぴたりと動きを止める。
 その後方で、リュミナが大笑いした。

「あーっはっは! 完全に邪魔者扱いじゃない!」

 く……あの小娘。覚えとけよ。
 そして、なおも止まらない二人のぶつかり合い。
 そんな中、悲鳴じみた声が響く。

「ああ……うちの鉱石が……全部パァだ……!!」

 荷物も持ち主であろう商人が、膝から崩れ落ち、両手で頭を抱えていた。
 あたりには黒焦げになった鉱石の山。
 煙と焦げた匂いが立ち込め、せっかくの鎮火もどこか虚しい。

「こいつは……坑道から掘り出した最後の品なんだ……。魔物のせいで採掘も思うように進まなくて、何とかかき集めたモノだってのに……! 一体どうしてくれるんだ!?」

 商人の声には、悔しさと絶望が混じっていた。
 その震えが、広場の喧噪の中でもはっきりと耳に届く。

「……ボクたちが止めなきゃ、全部燃え尽きてたよ」
「助けてやったんだろうが! 元はテメェの管理不足だろ、文句言うなよ!」

 女が冷ややかに呟き、男が苛立ちを隠さず舌打ちを返す。
 互いの正義がぶつかり、再び火花が散りそうな空気。

「助けた、だって? 壊しただけだろう……! ちくしょう……これから、どうやって生きていけばいいんだ……」

 商人の声は、次第に涙に変わった。
 肩を震わせ、黒く煤けた荷を前にして、ただ項垂れる。
 その姿を見た瞬間、俺の胸の奥がちくりと痛んだ。

「……誰も悪気があったわけじゃない。一旦落ち着いて、どうにかする方法を考えよう」

 両手を上げて、間に入る俺。
 けれど、商人は感情の波に飲まれたままだ。

「どうにか……できるもんなら、とっくにやってるよ! 責任取ってくれよぉ!」

 その叫びは痛烈だった。沈黙。
 誰も、何も言えずに口をつぐむ。
 冷えた風が焦げた鉱石の匂いを運んでいく。
 胸の奥がひやりとするほど、重たい空気。
 その空気を切り裂いたのは、鋼のように低く響く声だった。

「騒がしいと思ったら……お前らか」

 全員が振り返る。
 そこに立っていたのは、漆黒のロングコートに身を包んだ大男。

「ど、ドレイク支部長……!」

 冒険者ギルド・アグネア支部長、ドレイク・ギルバードだった。
 その一歩ごとに、地面がきしむような威圧感が広がる。
 彼の金属のような瞳が、俺たちを順に射抜いた。

 ドレイクは無言のまま、黒焦げになった鉱石をひとつ拾い上げた。
 手のひらで転がし、重みと質感を確かめるように目を細める。

「これは……蒼鉄鉱か」
「あ、ああ……そうだが。詳しいな、アンタ」
 
 商人は涙を拭いながら答えた。

「こいつは、アグネア北の坑道でしか採れない貴重な鉱石だ。……もっとも、その坑道も今は封鎖中。原因は、ネームドの出没だ」
「ネームド……!」

 リュミナが息を呑み、赤茶髪の青年の眉がぴくりと動く。

「確か危険度はEだったな……」

 ドレイクは鋭い視線を俺たちへ向けた。
 その口元に、わずかに笑みが浮かぶ。

「おや。ちょうどいいところに、Eランクの冒険者がいるじゃないか。……

 俺たちは思わず顔を見合わせた。

「ハァ? このおっさんとチビが冒険者? 冗談キツイぜ」
「……信じられない。よっぽど人手不足なんだね」
「な、何よその言い方!? むきーっ!」
「ま、まあまあ。言われるのは慣れてるだろ。頼むから落ち着いて」

 混乱が入り混じる中、ドレイクは肩を揺らしてにかっと笑った。

「助けたのも壊したのもお前らだろ。だったら最後まで、面倒を見ろ」

 その一言が、ずしんと腹に響く。
 そして次の瞬間、雷鳴のような宣言が落ちた。

「お前たち四人、今日から臨時パーティだ。これは支部長命令、拒否は許さん。……仲良くやれよ!」
「「「「え、えええええええっ!?」」」」

 街のざわめきの中、俺たちの声がきれいに重なった。
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