神に祝福された善良なるおっさん、破壊と創造の魔法で人生やり直します!

厳座励主(ごんざれす)

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第13話 北の坑道へ

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 陽光がまぶしい。
 けれど、それに似合わず、俺たちの空気は重たかった。

 ギルドを出て半日。
 俺たち『英雄団』の四人は街道を進んでいた。
 リュミナは腕を組んで、むすっとしたまま前を歩く。
 エルドは斧を肩に担いで無言。
 セラは一歩離れて、沈黙を保っている。
 誰も喋らない。鳥の鳴き声だけが響く。

「……天気はいいな」

 沈黙に耐えきれず、俺が口を開く。

「あの二人の表情は、正反対だけどね」

 即座に返したのはリュミナ。棘のある声。
 セラが横目で見る。

「何か言った?」
「別に何もー」
「無駄口叩く暇があるなら足動かせ」

 エルドが吐き捨てるように言う。

「……おいおい、まだ出発したばっかりだぞ」

 俺は笑ってみせるが、誰も反応しない。
 風が吹き抜ける。空は青いのに、心の中は曇天だ。

 それからしばらく進むと、金属が擦れるような耳障りな音が響いた。
 草むらから、灰色の毛並みを持つ影が飛び出す。

「コボルトか……」

 エルドが斧を構える。
 犬面の魔物たちが、棍棒を振り上げて四方から迫ってきた。
 数は八。Eランクとしては、やや避けたい多さの群れだ。

「気をつけろ! 囲まれて――」

 俺の声が終わるより早く、エルドが地を蹴っていた。

「ハァッ!」

 風圧を生むほどの踏み込み。
 巨斧が振り抜かれ、コボルトの群れの半分ほどが同時に宙を舞う。
 まるで紙細工のように吹き飛んだコボルトたちは、木に叩きつけられて動かなくなった。

「はん、チョロいな」

 返り血を拭いもせず、肩に斧を担ぎ直す。
 その姿は豪快そのもので、頼もしい。
 だが同時に、少し恐ろしくも感じた。
 あの威力、仲間まで巻き込まれそうだ。

「……すごいけど、ちょっと危なっかしいわね」

 リュミナが小声で呟く。
 俺は苦笑してうなずいた。
 と、次の瞬間、気温が一気に下がった。
 肌に当たる風が冷たい。
 後方に立つセラが、静かに杖を掲げていた。

「――氷射アイスピアス

 詠唱の声が響く。
 淡い光とともに、氷の矢が次々と生まれ、残ったコボルトの群れへ。
 一瞬。音もなく貫通。
 傷口から氷結が広がっていき、やがて敵はその場に凍りつく。
 まるで、時間が止まったかのような光景だった。
 氷の中に閉じ込められた魔物たちは、二度と動かない。
 静寂。戦闘終了。

「……ボクの方が、一体多かったね」

 淡々とした声でエルドを煽るセラ。
 杖を下ろし、髪をかき上げる。
 エルドは大きな舌打ちだけをして、視線を逸らした。

 ……なるほど。
 二人の力は本物だ。
 けれど、尖りすぎてて扱いづらい。
 氷の霜が残る地面を踏みしめながら、俺たちは進んだ。
 すると道の先、木陰からもう二体、取り残されたコボルトが現れる。

「チッ、まとめて出てこいよ」
「待って。次は私の番よ」

 リュミナが一歩、前に出た。
 コボルトは棍棒を構え、牙を剥き出しにして唸る。
 だがリュミナは怯まない。剣を抜き、構えた。

「行くわよっ!」

 彼女の動きには、迷いがなかった。
 踏み込みと同時に、剣先から淡い光が閃く。

風迅ウィンドブロー!」

 魔力を流し込んだ斬撃が一直線に走り、敵の棍棒をはじき飛ばす。
 反撃を受ける前に、流れるような動きで懐へ。
 再び風をまとった刃が閃き、コボルトの喉元を断つ。
 戦闘開始からわずか三秒で、敵は崩れ落ちた。
 華やかさと正確さを兼ね備えた剣筋。
 その光景に、一瞬だけ周囲の空気が和らぐ。

「……ほう」

 エルドが感心したように低く漏らす。
 セラも小さく、「悪くないね」と呟いた。
 リュミナは少し鼻を鳴らし、肩をすくめる。

「当然でしょ。私、正真正銘Eランクだもん」

 口調こそ強気だが、わずかに頬が赤い。
 照れているのがわかる。

「やるなぁ……俺なんかより全然強いや」

 俺が言うと、彼女は少しだけ得意げに笑った。
 だが、その空気をぶち壊すように、森の奥から低い唸り声。
 最後の一体が、俺のほうへ一直線に突っ込んでくる。

「うわ、っと――!」

 俺は慌てて身を引く。剣を抜き、構えるものの、手が震える。
 『破壊デストラ』をと思い、意識を集中させるが、反応がない。

「くっ……何で発動しないんだ!」

 光も音も発生しない。
 ならば今度は『|創造クリエト』を。
 しかし、空気が揺れただけで何も起きなかった。

「ガゥルゥ!」

 コボルトの棍棒が迫る。
 俺はとっさに地面の石を蹴り上げた。
 狙ったわけじゃない。ただの反射。
 だがその石が、見事に相手の額に直撃した。
 ぐらりと体勢を崩し、コボルトはそのまま倒れる。
 ……沈黙。

 砂埃の中で、俺は呆然と立ち尽くしていた。

「ぷはっ、あっはっはっはっ!」

 先頭のエルドが腹を抱えて笑い出す。

 「何だよ今の! 石投げで撃破!? はははっ、ある意味すげぇな、おっさん!」

 セラはドン引きの顔でため息をつく。

 「……本当にEランクなの?」

 リュミナが慌てて前に出た。

 「ち、違うの! ランドは本当はもっと出来る人なのよ!」
 「いや……」

 俺は苦笑して肩を竦めた。

 「俺はもともと、こんなもんだよ」

 誰も返さない。
 エルドの笑い声が遠ざかっていく。
 セラは無言で歩き出し、リュミナが悔しそうに唇を噛む。

 「ねぇ、大丈夫? さっきの……」
「平気さ。泥だらけなのは、もう慣れっこだ」

 笑ってみせると、彼女は眉を寄せた。

「そんなこと言わないでよ。悔しいでしょ?」
「いや、あの二人がいれば十分だよ」
「……それが、なんか悔しいの!」

 彼女の小さな呟きが、森の風に溶けた。
 俺は何も言えず、ただ立ち上がるしかなかった。

 それから数時間後。
 森を抜けた先に、黒々と口を開けた洞窟が見えた。
 入口の周囲には、鉱石の光が淡く瞬いている。
 冷たい風が頬を撫で、坑道の奥からは獣の唸りのような音が微かに聞こえた。

「ここが……アグネア北の坑道か」

 俺が呟くと、セラが杖を構えながら言った。

「まずは内部の魔力の流れを調べよう。地脈の歪みも確認しないと」
「そんな面倒なことする必要あんのか?」

 エルドが鼻で笑う。

「奥にいる大ボスをとっとと片付けて帰る。それだけだろ」
「はあ? 無策で突っ込むなんて、ありえないよ」

 ヒートアップしそうになった直前で、リュミナが慌てて間に入る。

「待ってよ、こういう時に決断するのはリーダーの仕事よ?」

 そう言って、視線をこちらに向ける。
 俺は腕を組んで考えた。

「……うーん……どっちも、一理ある、な……」

 リュミナは深いため息をついた。
 その息が吐き切られるよりも早く、エルドが一歩前に出た。
 
「リーダーっつっても、ただの雑用係だ。俺は勝手にやらせてもらうぜ」

 そう言って坑道の闇に消えていく。

「お、おい、勝手に……!」

 俺はエルドの背中に向かって、腹から叫んだ。
 しかし、何の返答もない。

 「……仕方ない、行くか」

 俺たちはエルドの後を追い、坑道へと足を踏み入れた。
 淡く光る鉱石が、まるで灯りのように壁を照らしている。
 足音が反響し、湿った空気が肌にまとわりついた。
 
 その空気は、もうすでに不穏だった。
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